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同好の士

「お帰りなさい。進捗のほどは……上々のようですね」


 第三支部で俺たちを出迎えたリーシアさんは、ミフムさんを見てそう微笑んだ。


「ああ、今のところ順調そのものだな!」


 フウツたちのおかげだ! とゼンは言う。

 そんな彼を、リーシアさんは微笑ましそうに眺めた。


「お初にお目にかかる。私はミフムという者だ」


 ミフムさんは一歩前に出て会釈をする。

 それを聞いたリーシアさんは、少し驚いた表情をした。


「ああ、森の屋敷の。はじめまして、リーシアです。ようこそ第三支部へ。歓迎しますよ」


「なんだリーシア、ミフムのことを知っていたのか?」


「知る人ぞ知る、といった感じですね。特に魔法研究に携わる人の間では優秀な魔法使いとして有名です」


 へえ、と俺は思う。

 意外と言えば意外だが、確かに1000年も眠り続ける魔法とか、たくさんの人形を一斉に遠隔で操る魔法とか、高度そうなものを使っていたな。


「ほほう、優秀な魔法使いとな!」


 弾んだ声に振り向くと、エラが2階から降りてくるところだった。


「して、どのような魔法を使うのじゃ? わしに教えてみよ」


 突然現れて上から目線の台詞を飛ばしてくるエラに、ミフムさんは少し顔をしかめる。

 そりゃそうだ。


「誰だ貴様」


「天才少女のエラじゃ!」


「すみませんミフムさん、悪い人じゃないんですけど……。あ、あと少女でもないです」


「少女でない……?」


 ミフムさんの目に、わずかに好奇の色が宿る。

 エラがそれを見逃すわけもなく、「気になるか? これはじゃな!」と語り出した。


「天才たるわしが実現した天才的な魔法、すなわち若返りの魔法じゃ。ただ若返るだけではない、一定の年齢……わしの場合は10歳から30歳ほどを自動で繰り返しておる。こうすることで体への負担を無に等しくするというわけよ」


「ほう、なかなか興味深いな。ただのおかしな子どもかと思ったが、貴様とは仲良くできそうだ」


 やはり、魔法を使う者として惹かれるところがあるのだろう。

 先ほどとは打って変わって、ミフムさんは素直にエラを称賛した。


「私の魔法が知りたいと言ったな、いいだろう。私の魔法は貴様らが使用するそれとはいささか異なる。そうだな、直近で使ったものだと遠隔で人形を操る、仮死状態で眠り続ける、といったものだ」


「それはまた、簡単なようで難しい魔法じゃのう」


「なに、貴様の若返り魔法には負けるさ」


 ふ、とミフムさんは笑う。


「まず私が使っていたあれらの魔法は、ファグラ魔法という。古の時代に用いられていたものらしい」


「ほう、聞いたことが無いのう。魔界特有の魔法のようじゃな」


「そうかもな。魔界でさえ、私以外に使っている者を見たことが無いのだ。使い手はかなり希少な部類に入ると思う」


 会話には入っていないものの、リーシアさんは同意するようにこくこくと頷いた。

 1000年経った今でもそうらしい。


「ファグラ魔法の最大の特徴は、魔法陣を直接描く必要があることだ。紙でも石でも、素材は何でもいいがとにかく物に描かねば発動できない。故に、咄嗟に使うことができないという欠点がある」


 思い返してみると、そういえば彼女の屋敷で俺たちが入ったあの部屋に、大きな魔法陣があった。

 私室っぽかったし、あれが眠りの魔法の陣だったのかもしれない。


「利点はその持続力だ。陣がある限り、魔法はいつでも、またいつまでも発動させられる。私がずっと眠っていられたのもそのおかげだ」


「質問!」


 ゼンが手を挙げる。


「じゃあ1000年の時を経てキミが起きたのは、陣が壊れたからか?」


「いいや、あれはわざと式をそう編んでいたからだ。私の式と陣に誤りは無かったが、不測の事態が起きないとも限らない。だから1000年という区切りで起き、陣の状態を確認して……と思っていた矢先に貴様らが来たのだ」


「そうだったのか。奇跡的なタイミングだったんだな」


「ああ。……とまあ、おおまかには以上だ。続きは中でするとしよう。エラ、貴様の話ももっと聞かせてくれるな?」


「もちろんじゃ!」


 こうして、ミフムさんはエラたちと共に去って行った。

 その後ろ姿を見ながら、心を開ける人が増えたようでなによりだ、と俺は安心する。


 1000年も経っていたら昔の知り合いなんてもういないだろうし、彼女が孤独に苛まれやしないだろうかと思っていたが、この分ならきっと大丈夫だ。


 一方俺たちは地上に戻り、また第一支部付近まで移動する。

 エリダさんからもらったリストでは、残り1人と組織が2つ。

 今日中に個人の方を回りきろうということで、さっそく次なる目的地へと歩を進めることとなった。


「名前、ジギ。性別、不明。地下闘技場の戦士」


 鬱蒼とした林の中を進みながら、ゼンは情報を読み上げる。


「出自不明、家族構成も不明。地下闘技場に住み着いており、地上に出てくることはめったに無い。以上だ」


「その方、本当に協力者候補なんですの? あまりに情報が無さすぎるのではなくて?」


「うーん、まあエリダがこうしてリストに挙げているんだから、望みは無きにしもあらずだな!」


「ふわっふわですわね……」


 なぜこんな林に? と最初は疑問に感じたが、どうやら件の地下闘技場の裏口がこの近くにあるらしい。


 メイルさんの話にも出ていたが、地下闘技場はかなり「闇」っぽい側面がある。

 さらに戦士も観客も荒っぽい、ひいては権力をものともしない人が多いため、魔王側からも良く思われていないのだとか。


 故に、万が一の事態に備えて逃げ道を複数用意しているとのことだ。


「ええと、確かここから1、2、3……」


 ゼンはある地点で立ち止まると、注意深く木を数え出した。

 それに伴い、幹に手を当てながらゆっくり歩む。

 おそらく入り口を探っているのだろう。


 やがて目当ての木に辿り着いたらしく、彼は「これだ!」と言った。


「この木が地下闘技場の128番裏口になっているはずだ」


「思ったより多いね!?」


 地下闘技場がどれだけ大きいかは知らないが、少なくとも128個の出口を作ったら穴ぼこだらけになってしまいそうだ。


「さ、あとは魔力を注いで扉を――」


「こんにちは」


 ふいに声がする。


 俺たちは引っ張られるように振り向いた。

 そこにいたのは、1人の女性……いや、男性?

 ともかく魔族、もっと言うなら魔人であった。


「冬には早い。春には遅い。ならばなぜ?」


 暫定・彼は意味不明なことを言いながら近付いて来る。

 声色は穏やかなのに、聞いていると嫌な汗が出てくるようだった。


「初めまして。オレたちは通りすがりの者だ。何か気を悪くさせてしまったか?」


 ゼンがにこやかに対応するが、彼もまた、緊張が隠しきれていない。


「嘘は赤く、いずれは黒く。なぜ?」


 なおも彼はじりじりと迫ってくる。

 言葉の雰囲気からして、「通りすがり」が嘘であるとバレているのだろうか。


 さすがのゼンもどうすべきか考えあぐねているようで、次の台詞が出てこない。

 異様な空気の中、男性の足音だけが響く。


 俺は固唾を呑み、彼を見つめるのであった。


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