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これって運命!

「! そうだ、ちょっとお姉さんに見せてみて」


「もちろんいいぞ」


 ミフムさんは紙を斧の前に広げた。


「うふふ、やっぱりね! ミフムちゃん、これは古代語よ」


「古代語……? アクィラはこれが読めるのか?」


「ええ。意味が知りたいって言ってたわよね? お姉さんが読んであげるわ!」


「ほ、本当に!?」


 得意げに言うアクィラと、頬を紅潮させて歓喜の声を上げるミフム。

 2人の姿は、どこか姉妹のようでもあった。


「貴女とっても可愛いから、お姉さんひと肌脱いじゃうわ! えっと、なになに? 黒い波、黒い波……あら?」


 アクィラと同時に、俺たちも「あれ?」と思う。

 なにやら聞き覚えのあるフレーズだ。


「海は、かえって、陸、になる……」


 もし実体化していたなら、小首を傾げていたことだろう。

 それでもアクィラは、ミフムの手前そのまま読み進めていった。


「あの……いえ、魔の王は、ひとりで、立っている」


 そこはかとなく気まずい空気の中、アクィラは精霊が口にしていたという古代語を読み終える。


「ふむ、意味深な詩だな。あの言葉にこんな意味があったとは……。ありがとうアクィラ。1000年越しに宝箱を開けたような気分だ」


「え、ええ。喜んでくれたなら、お姉さんも嬉しいわ」


 アクィラはぎこちない声色で言った。

 俺たちもどう反応すればいいかわからず目を泳がせる。


 精霊から聞いたという言葉、それは紛れもなく人間界にあったあの予言と同じだった。

 ということは、ミフムさんが会った精霊はずっと予言の言葉を訴えかけていたことになる。


「……なんだ貴様ら、揃いも揃って微妙な顔をして」


 さすがによそよそしいと気付いたのか、ミフムさんが尋ねてきた。

 俺たちは慌てて顔を突き合わせ、ひそひそ話をする。


「こ、これミフムさんに喋って大丈夫かな!?」


「口は固そうだからいいんじゃないか」


「しかし、彼女を傷付けてしまわないだろうか。自分が予言だと気付いていたら、みたいに思いかねないぞ」


「でもたぶんあの方、気付きますわよ」


「お姉さんもそう思うわ。ミフムちゃん、既にめちゃくちゃ怪しんでいるもの」


 ちらり、とミフムさんの方を見る。

 確かに何かを察し始めているような表情だ。


「……わかった。彼女にはオレから話そう。なんとか上手く舵を切ってみせる」


 そう言うと、ゼンはパッと顔を上げた。


「ミフム、実はその言葉……予言なんだ」


 ものすごく言いにくそうに彼は告げる。


「予言だと?」


「人間界に伝わる予言に、同じ内容のものがある。一連の言葉の中に『魔の王』とあっただろう? キミが出会った精霊は、おそらく魔王の目論見を予見していたんだ」


「そ、そうなのか? しかしなぜ人間界にこの言葉が伝わって……あ」


 ミフムさんはハッとして口元を押さえた。


「もしや、私が人間界で落とした写しが誰かに拾われて……?」


「だろうな。そしてアクィラ同様、古代語がわかる精霊が古代文字に書き起こし、後世に伝えたということだ」


「じゃあ、じゃあ私は……残骸となってまで精霊が残そうとした予言を……」


 やっぱりそうなるか。

 落ち込む彼女をフォローできるよう、俺は言葉を準備する。


 が。


「意図せずして人間界へ伝えていたのか!」


 ミフムさんは晴れ晴れとした様子でそう言った。


 あれ? もしかして落ち込んでない?


「幼い頃の私、見知らぬ人間、そして貴様ら……偶然が重なり合い、精霊の予言が世界を渡ったのだな。そう、まるで川を流れる木の葉のように」


 急に詩人みたいなことを言い出した。

 俺たちは感激するミフムさんをポカンとして見つめる。


「貴様ら、私が間違っていた。私も貴様らレジスタンスと共に戦おう。これはあの精霊が繋いだ縁なのだ、自分は罪人だなんだと不貞腐れて、切るわけにはいかない」


 彼女は澄んだ笑顔で手を差し出した。


「一度断っておいて図々しいかもしれんが……ゼン、どうかよろしく頼む」


「そういうことなら大歓迎だ! こちらこそよろしく!」


 負けないくらいの笑みと力強い握手を以て、ゼンは応える。

 なんだかよくわからないけれど、ミフムさんは吹っ切れたようだし良かった、のかな。


 それから俺たちはミフムさんを送り届けるべく、第三支部へ向かった。

 距離的には第一支部の方が近いのだが、ミフムさんが魔法を得意とすることもあり、魔法開発担当のおはな組と合流してもらうことになったのだ。


 時刻は昼過ぎ。

 相変わらず支部付近の街は賑わっていた。


「お、まあた新顔のべっぴんさん連れてるじゃねえか! さすがゼン、『そういうこと』にゃ困らねえな」


「はは、やめてくれよ。オレが『そういうこと』に興味無いの知ってるだろ」


「そーだったそーだった! まったく、もったいねえなあ。ま、そんなだからみんなに好かれるんだろうけどな!」


 そしてゼンも変わらず、道行く人たちと言葉を交わしている。


「ふむ……」


 ふいにミフムさんが物憂げな声を出した。

 どうかしたのだろうか、と俺が振り向くと同時に、彼女は溜め息混じりに口を開く。


「やはり、変わらないな」


「変わらないって、何がですか?」


「街の様子だ」


 ずっと眠っていた彼女が言うからには、1000年前と同じような街並みだということだ。

 全く変わってしまった風景に寂しさを感じる、というのはよくある話だが、変わらないことがどうして憂鬱なのだろうか。


 俺が不思議な顔をしていると、ああそうか、とゼンが手を叩いた。


「フウツたちにはまだ言ってなかったな」


「あら、なんですの?」


「んーとな、魔王が魔王として君臨してからというもの、魔界の文明は停滞しているんだ」


 ゼンは少し声を落として語る。


「例えばさ、研究者が何か新しい発明をしたとするだろ? そうすると、魔王がその是非を判断するんだ」


「使ってもいいか悪いか、みたいな?」


「そうそう。で、魔王が認めなかった物は、世に出してはいけないって感じ」


 魔王の独断で、せっかく考えた道具とか技術が無駄になるのか……。

 研究者はたまったもんじゃないだろうな。


「しかも、魔王は滅多に新たな物を認めない。オレは今20だけど、生まれてからいっぺんも『新しい発明』ってもんを見たことがない。仲間内でこっそり作ってるの以外はな」


「じゃあ街並みが変わってないというのは、魔王の制限が未だ健在である証というわけですわね」


 なるほど、それでミフムさんは憂いていたのか。

 言われてみれば、1000年経っても街がほとんど同じままだなんて歪もいいところだ。


「魔王は強く、それでいて油断の無い奴だ。万に一つも、民が自分を凌駕する力を手に入れないようにしているに違いない。……そんなことのために……くっ」


 ゼンは悔しそうに言った。

 きっと発明を「世に出さない」ようにするために、研究者が殺されることもあったのだろう。


「……まあ、なんだ。魔界の住人ならみんな知ってることだし、この件に関しては詳しく知りたいならオレに聞いてくれ」


「まるで、この話を聞かせたくない相手がいるような言い草ですわね?」


「む、やっぱりバレるか。んー、とりあえず第三支部のみんなには、ってことで頼む」


 名指しするのもなんだしな、と彼は苦笑した。


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