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眠れる森の魔法使い

 エリダさんから渡された紙は合計5枚。

 うち3枚が個人、2枚が組織の情報を記したものだ。


 ウラハを第一支部に送り届けた後、俺たちは2人目の協力者候補の元へと向かった。


 その人の名はミフム。

 推定1000歳超えの女性だ。


 彼女は1000年前の人間界侵攻に参加したが、そこで何を見たのか魔界に帰還後、魔王に考えを改めるよう直談判をした。

 しかしその声が受け入れられることはなく、冷血で無慈悲な魔王に失望して自分の屋敷に閉じこもり、長い眠りについたのだという。


 情報では、ミフムさんの眠りというのは魔法によるもので、彼女は体の機能を全て停止し仮死状態になっているらしい。

 だがその魔法も発動してから1000年も経っているため、さすがにそろそろ効果が切れる頃だと考えられる。


 魔王に反対した彼女なら、レジスタンスの活動に賛同してくれる可能性が高い。

 眠りから覚めているかもしれないし、できることならば……と、思っていたのだが。


「おわーーーーっっっ!!!」


「ああっゼンが!」


「おいフウツ振り返るな、お前までやられるぞ」


「尊い犠牲でしたわ」


 迷宮と言って差し支えないほど曲がりくねった通路。

 あちこちから追いかけてくる人形の大軍。

 全力で逃げる俺たち。

 しかしたった今、人形に連れて行かれたゼン。


 どうしてこんなことになっているのだろう。


 ――遡ること、ほんの少し前。


 俺たちはゼンの背に乗り、この屋敷のある森までやって来た。

 鬱蒼とした獣道を歩いて辿り着いた屋敷は、もはや小さめの城と言っても過言ではないくらいの豪邸。


 開けっ放しだった門をくぐりいよいよ屋敷に入った俺たちを出迎えたのが、この人形たち。

 外に出る間もなく、彼らは俺たちを追跡し始めた。


 人形たちはみんな手ぶらなのだが、とにかくその勢いたるや凄まじく。

 「絶対にただじゃおかないぞ」という気概がびしばし伝わってくるため、是も非も無く逃げざるを得なくなったのである。


 そうして俺たちは走りに走り、人形たちが見えなくなったところで手近な部屋に飛び込んだのであった。


「はあ、はあ……」


 俺は壁に背を預け、ずるずるとしゃがみ込む。

 なんとか撒けたみたいだ。


「何なんだこの屋敷は……」


「まったくですわ。人形が追いかけてくるなんて、一言も書いてありませんでしたわよね?」


 ヒトギラとデレーもそれぞれ適当に腰を下ろした。


 どうやらここは物置き部屋らしく、大きな箱やら胸部だけの像やらが所狭しと並べられている。

 綺麗な布とかリボンなんかもあり、屋敷の主――ミフムさんの趣味嗜好が垣間見えるようだった。


「そうだ、ゼンはどこに連れて行かれちゃったんだろう」


「さあ?」


「知らん」


「ねえ2人とも興味無さすぎじゃない!?」


 わりとどうでもいいです、みたいな反応の2人はさておき、俺は頭を捻る。


 連れて行かれた、ということはたぶん抹殺とかそういうのではない。

 外に放り出すのも違う。

 もしそうだったら、屋敷内を逃げなければいけない状況をつくったりはしないはずだ。


 だとするとあとは……。


「侵入者を監禁するための牢屋に入れられてる、とか?」


「その可能性はありますわね」


「ああ。これだけ広い屋敷なら牢屋のひとつふたつくらい、あってもおかしくはない」


 2人は頷く。


 ミフムさんが目覚めているかはまだ確証が無い。

 俺たち全員が人形に捕まって牢屋に入れられては、詰んでしまうかもしれないな。


「ゼンさんには悪いですけれど、ミフムさんの元へ行くことを優先しましょう。どこにいるかもわからない者を探すより、主たる彼女に会ってゼンさんを解放してもらうよう頼んだ方が良いですわ」


「うーん、確かにそうだね」


 ゼンを見捨てるみたいで気が引けるけれど、デレーの言う通り、ミフムさんのところに行って必要ならば起きてもらい、事情を話した方が早そうだ。


 そんなわけで、俺たちは人形に警戒しながら物置き部屋を後にした。


 目指すは最上階である3階。

 デレー曰く、魔界の建築様式は人間界とそう変わらない様子だから、重要な部屋の位置は検討が付くとのこと。


「今さらだけど、もしミフムさんの魔法の効果がまだ続いてたらどうしよう? ヒトギラ、魔法の解き方ってわかる?」


「……元の魔法式がわかれば、だな。最悪エラのところに持っていけばいいだろ」


「役に立ちませんわね!」


「言っとくが、この中で魔法が使えないのお前だけだからな」


 小声で会話しながら忍び足で移動する。

 が、妙なことに人形は影も形も無く、ひたすら静かな空気だけが屋敷内に満ちていた。


 何も起こらなさすぎて逆に怖いな、なんて思っているうちに3階まで辿り着く。

 奥へ奥へと進んで行くと、突き当たりに大きな扉が現れた。


「おそらくここですわね」


「おお……いかにもって感じだ」


 扉には上品で綺麗な装飾が施されており、俺でもここが重要な部屋だということがわかる。


 俺は取っ手に手をかけ、おそるおそる引いた。

 1000年以上前の建物だというのに、扉は軋んだ音ひとつ立てずに開く。


 半分ほど開けたところで中を覗き込んでみると、何やら屋根の付いた豪華なベッドや、日光を反射してキラキラと輝くシャンデリアがあった。


 ここが主の部屋で間違いなさそうだ。

 俺たちはそっと足を踏み入れる。


「ミフムさん、いますか……?」


 声をかけてみるが返ってはこない。

 ベッドを見ても、きちんと整えられているだけで誰が使った形跡もない。


 別の部屋で眠っているのか、あるいは。


「あら、こんなところに魔法陣がありますわ」


 デレーが言う。

 彼女の足元の床には、大きめの魔法陣が描かれていた。

 けれど、エラが複雑な魔法を使ったりする時に現れるあれとは、少し形式というか模様が異なっている。


「何の魔法陣だろう」


「眠りの魔法だ」


 突然、知らない声がした。


 反射的に、剣に手をかけながら振り向く。

 すると扉のところに1人の女性が立っているのが目に入った。


「あ、もしかして……ミフムさん、ですか?」


 俺が言うと、彼女はゆっくりと首を立てに振る。


「いかにも。私がこの屋敷の主、ミフムだ。貴様らは何だ? どたばたと騒がしいことこの上ない」


「騒がしかったのは、あなたの人形が追いかけて来たからですわ。客人に対してあの出迎えは無礼じゃありませんこと?」


「客人? 侵入者の間違いだろう。私は人形を使って侵入者を撃退しようとしたまでだ」


 人形は本人が直接操っていたのか。

 彼女が起きていなくては人形も動かない。

 だから「ミフムさんが眠っている」前提の情報に人形のことが無かった、と。


「貴様らは何故ここに来た。私の名を知っているということは、私がいかにして眠りについていたかも知っているのだろう。冷やかしか? それとも度胸試しか?」


「ち、違います!」


 俺は慌てて否定する。

 ここで不興を買って屋敷を叩き出されてはかなわない。


「俺たちはあなたに、力を貸してもらいたくて」


「ほう、力を。それは何故だ?」


「魔王を倒したいんです」


 ぴくり、と彼女の眉が動いた。


「……良いだろう。話くらいは聞いてやる」


 ついて来い、と彼女は踵を返し、扉の向こうへ消えていく。


 よかった、なんとか話し合いには持ち込めそうだ。


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