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上には上がいる

「で? なんでお前らここにいんの? あとそいつ誰?」


 カップに紫色の液体を注ぎながらウラハは言う。

 注ぐ、と言っても彼が豪快かつ大胆にポットを傾けるせいで、半分くらい机に飛び散っているが。


「俺たちは……えっと……」


 はてさてどこから話したものか。

 いきなり全部洗いざらい喋るのは早い気がする。


 助けを求めるようにゼンへ視線を送ると、彼は任せろと言わんばかりに笑顔で頷いた。


「ウラハ、まずは初めましてだな。オレはゼンだ」


「お? おお、そうかゼンか。まあ飲めよ」


 ウラハはずい、とカップをゼンに差し出す。

 少なくとも、悪くは思われていないみたいだ。


「ありがとう!」


 ゼンはそれを受け取ると、一気に飲み干してこう言った。


「単刀直入に言おう。ウラハ、魔王軍と喧嘩してみたくないか?」


 ニコニコしていたウラハの表情がひたりと固まる。

 数秒沈黙し、俺たちにも渡そうとしていたカップをゆっくりと机に置いた。


「オレはレジスタンスのリーダーだ。今、仲間を集めて魔王軍と喧嘩をする準備をしてる。フウツたちはその協力者だ。どうだ、オレと一緒に魔王に喧嘩を売るのは」


「……ふーん?」


 ウラハはソファの背もたれに身を預け、腕を組む。


「お前ら、魔王に勝ちたいんだな?」


「ああ。キミはどうだ?」


「まあ勝ちたいっちゃ勝ちたいな! でも……俺は集団ってのが苦手でさ。1人の方が気楽で良い。だから魔王軍との喧嘩も好きな時に1人でやるし、お前らには協力しないぜ」


 悪いな、とウラハは髪をうねらせた。


 彼が食いつきそうな良い勧誘文句だと思ったのに、駄目だったか。

 いや、あるいはあともうひと押しの何かがあれば……。


 そうだ!

 こんな時こそ、俺の出番じゃなかろうか。


 俺はやや身を乗り出して口を開く。


「ねえウラハ。君は強い人と戦うの、好きだよね?」


「好きだぜ!」


 淀みなく、彼は答えた。


「なら……魔王と同じくらい強い人がいたら?」


「そりゃあ戦いたいな」


「じゃあ戦ってあげる」


「は?」


「俺『魔王の器』だから、魔王と同じ力を持ってるんだ。今はまだ使いこなせてないけど、できるようになったら君と戦うよ」


 ウラハは目をぱちくりとさせている。

 急に目の前の人間が「俺『器』です!」とか言いだしたのだから当然だ。


 自分で言うのは恥ずかしいけど、これも彼を味方に付けるため……。

 俺は羞恥心を押さえつけながら続ける。


「ちなみに俺たちが魔王に負けると十中八九俺は死ぬから、君とは戦えなくなる。なんなら人間界が蹂躙されて、竜人と戦うのもできなくなるよ。でも俺たちと一緒に来てくれるなら、君は魔王とも戦えるし俺とも戦えて2度おいしい! ……かもしれない。たぶん。どう?」


 最後ちょっとふにゃふにゃになったけど、なんとか言い切った。

 俺は内心ドキドキしながらウラハを真っ直ぐ見つめる。


 彼は俺を見つめ返し、やがてニヤリと笑った。


「そういうことなら、いいぜ。レジスタンスに入って、お前らと一緒に喧嘩してやる」


「本当!?」


「俺に二言は無い。その代わり、強くなったらぜーったい俺と戦えよな!」


「うん!」


 ウラハは俺の手をがっちり握る。

 横からデレーの物凄い視線を感じるが、しかしそれだけだ。

 さすがに今は自重してくれているようである。


「つーか『器』って何? なんでお前が魔王の力なんか持ってんだ?」


「あ、そっか。一応これ魔王側からしたら機密事項なんだっけ」


「じゃあそれも交えて、これまでの経緯や諸々をオレから説明させてもらおう」


 そこからはゼンがバトンタッチして、ウラハに俺たちやレジスタンスのあれこれを語った。

 そうしてあらかたの事情をすべて聞き終えて、ウラハは「へえ」と感嘆の声を漏らす。


「あの後そんなことになってたんだな」


「うん。あの後と言えば、お姉さんは? 一緒に住んでるって聞いたんだけど」


「! ね、姉ちゃんは……」


 途端にウラハは顔を曇らせる。


 しまった、聞いちゃいけないことだったのか。

 彼は魔王側から罰を受けたということだったが、この反応はもしかしたらお姉さんが……。


 マズい、早く話題を変えないと。

 でも俺から聞いといて引っ込めるのは失礼か?

 ああもう、軽率に聞くんじゃなかった。


 俺があわあわしているうちにウラハは重々しく口を開き、それはそれは暗い声色で答えた。


「……俺をボコボコにして魔王軍に突き出した後、彼氏連れてどっか行った……」


「そ、そうだよね嫌なこと思い出させてごめ……ん?」


 あれ、今なんて言った?

 ウラハをボコボコにして彼氏と……?


「……えーと、お姉さん自身は元気ってこと?」


「元気だよ。俺を町中引きずり戻して魔王城に突き出してから、その足で彼氏と出て行きやがったんだからな」


「そこからさらに罰とか受けたの?」


「いや? 魔王の部下に引き合わされたんだけどよ、俺があまりにもズタボロだからそのまま帰された」


「…………」


 つまり、なんだ。

 情報にあった「酷い罰」っていうのは、魔王軍から受けたわけじゃなくお姉さんに折檻されただけなんだけど、それを見た人が勘違いしたってわけか。


「その……災難だったね」


「ほんとだよ。マジで姉ちゃんとはぜってー戦いたくないね」


「お姉様はお強いのですわね。でしたらゼンさん、そちらにも協力をお願いしてみてはいかが?」


 デレーが提案する。

 それもそうだ、ウラハを叩きのめすくらいの力があるなら是非とも味方に付けておきたい。


 しかしゼンが答えるより先に、ウラハが「駄目だ!」と遮った。


「姉ちゃんは争い事が嫌いなんだ。一度、荒くれ者共の喧嘩に巻き込まれそうになったことがあるんだが、『暴力で解決なんて野蛮すぎる!』っつって全員ボコしちまった。『魔王と戦おう』なんて言ってみろ、逆に敵になるぞ」


「物凄い矛盾ですわね」


「だろ? でも姉ちゃんはそうなんだ。暴力を以て暴力を避けるとかいうわけわかんねえ奴なんだよ。だからやめとけ、触らぬ神に祟りなし、だ」


 どうやらお姉さんはとんでもない人物のようだ。

 純粋に戦いを好むウラハが可愛く思える。


「なら姉君の方はやめておくか。そもそも戦いを忌避する人に無理強いはできないからな」


「おう、英断だぜ」


 というわけで、俺たちは第一の協力者候補であるウラハの勧誘に成功。

 彼自らの希望もあり、第一支部に当分住み込んでもらうこととなった。


 曰く、お姉さんがいないと、どうも部屋ががらんとしていけないのだとか。


「やっぱり家族だもんね」


「ん。ま、どーせ半年もせずに振られて帰ってくるだろうけどな! それまでに魔王との喧嘩を終わらせときゃ問題ねーだろ」


 がはは、と彼は笑う。


 と同時に家がミシリと軋み、近くの姿見が盛大に割れた。

 破片が飛び、ウラハの頬を掠めて小さな切り傷をつくる。


「…………い、いやあ、やっぱそうでもないな! うん、きっと上手くいって結婚とかして、次会うのは式だな! あー楽しみだ!」


 何の圧力を感じ取ったのか、全力で発言を訂正するウラハであった。


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