料理対決
パーティーに加入すると決めたヒトギラはすぐさま仕事を辞めに行き、冒険者登録をしてパーティーへの途中加入手続きまで済ませてしまった。
行動がめちゃくちゃ早い。
そうしてめでたく正式に3人目の仲間を迎えた俺たちは、拠点であるデレーの別荘に帰ってきていた。
「そうだ。ヒトギラは何の役職?」
「登録の時に隣にいただろ、お前」
「いやあ、なんか書いてるのを覗くのは悪い気がして」
「お前な……。まあいい、俺の役職は【魔法使い】だ。スキルは《拒絶》、障壁魔法をほぼ魔力消費無しで展開できる。ただし、ひと1人を囲う程度のものに限るがな」
スキル持ちかあ。
ちょっと羨ましい。
「お前らは?」
「俺は【剣士】だよ。スキルは無し」
「私は【斧使い】、同じくスキル未発現ですわ」
「……回復役はいないのか」
ヒトギラの至極真っ当な疑問にギクリとする。
「い、いない……デス」
「馬鹿なのかお前らは」
哀れみとも嘲笑ともつかない視線が突き刺さった。
「傷薬は有料だし金は有限だぞ知らないのか? 特に駆け出し冒険者なんて、金に困るのが常だろう。よく回復役無しで初期募集を締め切ろうと思えたな」
正論である。
「あと言おうと思っていたんだがあのパーティー名は何だ? 十中八九そこの粘着女のしわざだろうが」
「新入りのくせにパーティー名にケチを付けるなんて身の程知らずですわね」
「恥をかくのはフウツだ。それすらわからないとは……。脳みそに生ゴミでも詰まっているようだな」
もうなんか頭が痛い。
しかしこれが、仲間がいるがゆえの悩みというやつだろう。
俺も贅沢な悩みを持つようになったものだ。
「私の料理の腕を舐めないでくださいまし。なんなら勝負してあげてもよろしくてよ」
「くだらん。料理くらいで威張るな」
「あら? 自信が無いのなら正直におっしゃって?」
俺が感傷に浸っているうちに、なにやら話がだんだん明後日の方向に転がってきた。
どうして2人ともこう煽り散らかすんだ……。
「フウツさん、審判をよろしくお願いしますわ」
「あっ、はい」
かくして俺を置いてけぼりにした、デレーとヒトギラの料理対決が始まった。
ちょうどご飯時なのでお題は「夕飯」。
時おり謎の金属音を響かせながらも無事料理を完成させた2人は、小一時間後に厨房から出てきた。
まずはデレーが料理を置く。
「オムライスとメイジーキノコのスープですわ」
「わあ、美味しそう!」
相変わらずデレーは完璧と言っていいほど上手だ。
オムライスは食べたことがないから、どんな味なのか楽しみだな。
「さあヒトギラさんの番ですわよ」
「…………」
ヒトギラは黙って皿を置く。
そこには茹でられたパスタだけが鎮座していた。
「……? えっと、これは?」
「パスタだ」
「何味?」
「パスタ味」
「……うん! シンプルでいいと思う!」
実食タイムだが、さすがに俺1人では食べきれないから2人にも食べてもらうことに。
俺は順番通りに、最初はデレーのオムライスに口を付けた。
「! 美味しい!」
なるほど、トマト味のご飯に卵焼きを被せてあるのか。
トマトの酸味と卵焼きの甘味がよく合う。
メイジーキノコのスープもさっぱりしていて飲みやすい。
「お口に合ったようで安心しましたわ」
「うん、キノコってこんなに美味しくなるんだね。それに、初めて食べるオムライスがこれで良かったよ」
「初めて……?」
次はヒトギラのパスタだ。
見た限り何の味付けもされてなさそうだけど、まあ食べてみないとわからない。
さて、そのお味は。
「…………」
……パスタだ。
それは塩さえかかっていない、純真無垢なパスタであった。
あと茹ですぎなのか尋常でなく柔らかい。
ちなみに村の人たちが与えてくれていたものよりはずっと美味しいが、あれはそもそも腐りかけだったり明らかに食用じゃない何かだったので、比較はしないものとする。
にしても、なんともコメントに困るパスタだ。
デレーの料理で「美味しい」の何たるかを知ってしまった俺の舌では、微妙な反応しかできない。
どうしよう、嘘をつくのは気が引けるし、でも馬鹿正直に言ったらヒトギラを傷付けてしまう。
ここは何としても、嘘ではない誉め言葉を捻り出さないと。
「すごく……その……一生懸命作ってくれたんだね」
「…………」
駄目そう。
「そ、それにさ、ちょっと柔らかいかもだけど硬いよりはいいと思うよ!」
諦めまいと必死にフォローを試みるも、ヒトギラの目はどんどん死んでいく。
自分の無力が恨めしい。
「パスタすらこの有り様でよく生きてこられましたわね」
「やかましい」
デレーから追い打ちをかけられたヒトギラだったが、却ってそれがよかったのか、やっと口をきいた。
「フウツさん、判定を」
「デ、デレーの勝ち、かな」
……軽い気持ちで臨んだ「対決」だったけれど、まさかこんなことになるとは。
ともあれ、これで収拾はついたはず。
よかったよかった、ということにしておこう。
その後、なんとも言えない雰囲気の中、みんなでモソモソと柔らかパスタを完食。
デレーは「勝者の余裕ですわ!」と謎の理論を展開して食器をまとめて片付けに行った。
「そう言えばヒトギラ、けっこうデレーと普通に喋ってたけど大丈夫なの?」
手持ち無沙汰になった俺は、彼に気になっていたことを尋ねてみる。
「大丈夫ではない。だが媚びへつらった気色の悪い態度で接してくる奴らよりかは幾分かマシだな」
あとは、とヒトギラは付け足す。
「お前もそうだが……あいつとは初めて会った気がしない」
どう考えても俺たちは知り合って1日だけれど、それくらい身近に感じてもらえているということだろうか。
嬉しいことである。
「それにしても本当にお前の隣は快適だな。たった1人まともな奴がいるだけで、こんなに楽になるとは……。恩返しというわけでもないが、少なくともこのパーティーにいる間は俺がお前を守ってやろう」
「あはは、ありがとう。でも俺より――」
「少々距離が近くってよ」
「っっ!」
「あだっ」
突発事故発生。
デレーが突然背後に現れたことにより、反射的にヒトギラが障壁魔法を使って俺がその障壁で頭を打つ、という見事な連鎖が起こった。
俺は打ったところをさすりつつ、同時に嫌な予感を察知する。
「ちょっと! フウツさんが怪我をしたらどうしますの!?」
「お前が急に出てくるのが悪い」
が、どうやら手遅れのようだ。
収まったかに思われた2人の喧嘩が再び勃発し、ヒートアップし始める。
「なんて無責任な! あなたにフウツさんの隣にいる資格はありませんわ。早急に四肢を捥ぎ野に捨てて差し上げますから表に出てくださいまし」
「はあ……。身勝手な愛情ほど見苦しいものは無いな。いいだろう、お前の浅はかさをわからせてやる」
「それはこちらの台詞でしてよ。そんなに痛い目を見たいなら、この斧でペーストにして家畜の餌にして差し上げますわ。お覚悟なさいな?」
「ふん、その前にお前を氷漬けにして海に沈めてやろう」
両者共に物言いが物騒になってきた。
さすがに止めた方がいい気がするけど、ここまで来てしまっては単にやめろと言うだけでは聞き入れてもらえそうにない。
俺はまだ微妙に痛む頭を捻って考える。
かくなる上は……。
「2人とも!」
一触即発の空気だったデレーたちが揃ってこちらを向く。
「どうせなら冒険者らしい勝負にしない?」
「なるほど、依頼をどちらが早くこなせるかで勝負するということですわね。平和的で素晴らしいと思いますわ」
「なんでわかるの?」
説明をごっそりデレーに奪われてしまったが、つまりそういうことだ。
こうすれば直接争って怪我をするようなことにはならないだろう。
「まどろっこしいやり方だが……まあいい、受けて立つ。言っておくが女だからといって手加減するつもりはないぞ」
「上等ですわ。吠え面をかかせてさしあげましょう」
幸いヒトギラも乗り気なようである。
やれやれ、これでなんとかなりそうだ。




