プロローグ
轟々と燃え盛る炎を背に、その少女は淑やかに笑っていた。
何の変哲もないはずだった村。
少しだけ特別なはずだった夜。
それらを蹂躙し、満天の星空を焼き尽くさんばかりの勢いで炎は立ち昇る。
俺の育った村、その建物を薪にしてこれでもかと膨れ上がる。
じりじりとした熱と光が俺と彼女を照り付けている。
額から滲み出た汗が、輪郭をなぞって落ちて行った。
春先とは思えないほどに、暑い。
どうやら炎は季節をも焼き焦がしてしまうらしい。
熱で巻き起こった風が少女の整えられた長い髪を、上等な服の裾を乱す。
だが彼女は意に介していない。
少女はただ、目を細めて、上品な笑みを湛えて。
俺を見つめていた。
「ここからですわ」
呆然とする俺に、少女は語りかける。
「ここから、私たちの旅が始まるのですわ!」
朗々と、まるで花園の美しさを詩に詠うように、薄い唇から言葉が紡がれる。
俺は返事をすることができなかった。
村は燃える。
燃え続ける。
乱舞する炎の渦に為す術も無く呑み込まれ、のどかだった村は既に元の面影を失っていた。
「ね、フウツさん」
言って、少女は笑う。
愛という名の業火に、俺もまた焼かれようとしていた。




