第一話 転生したら…
「レヴァ! 起きて! 練習しないとダメだよ。連れて行ってくれるんでしょ……」
「私をコーシエンに連れて行って!」
なんだ? なんか、やけにうるさいぞ。
どっかで聞いたことあるようなセリフだけど、耳に慣れない声だな。
そう思いながら目を開けると見知らぬ女の子が立っていて、俺を覗き込んでいた。
この子は誰なんだ? 記憶を振り返っても全く心当たりがない。
そして周りに視線を向けると明らかに俺の部屋ではない光景が広がっていた。
「いったいここはどこなんだよ!?」
「何を寝ぼけたこと言ってるの? レヴァの部屋でしょ!」
「レヴァ?」
「自分の名前まで忘れたの!? まったくひどい寝ぼけ具合ね」
俺の名前は上村秀雄でゴリゴリの日本人のはずだけど……
「おばさんが朝ごはん準備してくれてるから、早く食べて練習行きなよ。ロドリが待ってるよ」
そう言い残して女の子は部屋から出て行った。
俺はしばらくベッドの上でこの状況について思いを巡らせた。
昨日は普通に自分の部屋で寝たはずだよな。
もしかしてこれは異世界転生ってやつなのか!?
だとしたら俺は現実世界で死んじまったのか!?
急に不安が込み上げてきたが、いくら考えてもどうしようもなく、とりあえずベッドから起き上がって女の子が出て行ったドアを開けた。
するとちょうど俺の母親と同じくらいの年齢と思われる中年のおばさんがこっちを向いて俺に声をかけた。
「おはようレヴァ。ほら、朝ごはんの前に顔洗ってきな」
この人がレヴァの母親なのだろうか? 朝ごはんを作ってくれるくらいだから似たようなものだろうけど。
そんなことを考えながら洗面台に向かった。
洗面台の鏡に写った俺は年が3〜4歳くらい若くなっていた。
現実では19歳で浪人生をしているが15〜16歳の高校一年生くらいに見える。
身長も少しだけ縮んでいるような気がする。
まあとりあえずおっさんになっていなくて良かった。
そして俺は洗面台の横に置いてある桶の中の水を使ってパシャパシャと顔を洗った。
するとおかしなことが起こっていることに気がついた。
何で俺は知らない家の、洗面台の場所が自然とわかったんだ?
何で水道の蛇口がないことに違和感もなく、桶の水で顔を洗っているんだ?
困惑しながらおばさんがいた部屋に戻り、おばさんをもう一度見ると、そのおばさんはレヴァの母親で、名前がベルという人だとすんなりと認識できた。
どうやらレヴァの記憶は必要な時に思い出そうとすれば思い出せるらしい。
でも思い出そうとしない限りはレヴァの記憶が勝手に蘇ることはないみたいで、上村秀雄としての記憶は失われては無さそうだ。
レヴァの母親が作ってくれたであろう朝飯はフランスパンのような大きくて硬いパンとキャベツと豚肉を煮込んだスープで食べてみると薄味だけど結構いける。
朝飯を食べながら部屋を見回すと電化製品や電子機器は置いていない。家具は木製のものが多く現代よりは遅れている世界ということが予測できた。
あれこれ考えていると、だんだんと明瞭にこの世界の事情やレヴァの人間関係を思い出すことができた。
レヴァの記憶によると、最近、レヴァは15歳の誕生日を迎えたばかりだ。
この世界では16歳になる年に職業養成学校に入学する。
それまでは生まれた村を出ることは許されない。
村の外に出るのは商売をする大人と、職業養成学校の生徒だけだ。
もちろんレヴァは村から出たことがない。
レヴァの家族構成は父親のローラン、母親のベル、妹のエミリ。
さっきの見知らぬ女の子の名前はフーリ、レヴァの幼馴染だ。
フーリが口にしていたロドリはレヴァとフーリの幼馴染の男の子だ。
レヴァとフーリとロドリは同い年で、物心ついた時から三人で遊び、一緒に成長してきた。
レヴァのことやこの世界について、俺が知らないことはまだたくさんありそうだ。
でも思い出そうとしなきゃ思い出せないし、情報収集のためにも外に出てみるか。
とりあえずロドリのところに行ってみよう!
「それじゃあ行ってきまーす!」
俺はレヴァの母親に声をかけて、家を飛び出し、思い出したレヴァの記憶を頼りにロドリがいるであろう空き地に向かった。