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毎日ほのぼの。  作者: 愛森とき
7/15

ほのぼの(7)

2019年11月3日(日)


無職 村山兼吉(むらやまかねきち)の今日のほのぼの。


村山は72歳、年金暮らしの老人だ。

若い頃は会社勤めもしたし

小さな会社を立ち上げ

昼夜問わずがむしゃらに

働きもした。


しかし、立ち上げた会社が

なかなか軌道に乗れず

その間、年金を払っていなかったため

今の生活は楽なものではなかった。

数年前までは妻 加寿子(かずこ)の年金も合わせて

それなりの生活をしていたが

その妻は病気を患い他界してしまった。


もっと妻に楽な生活をさせてあげたかった

村山は妻が亡くなってしまってから

余計にそんな風に思うようになった。

こんな事を思っても

もう仕方がないとわかっていたのに。


村山はスクーターを押して歩いていた。

妻の墓掃除をしに行った帰り

ガス欠になってしまったが

ガソリン代を持ち合わせていなかった。


一気に寒くなってきたもんだなぁ

なんて思いながら

とぼとぼと路側帯を歩いていると

地元の高校の制服を着た男の子が

前方から歩いて来るのが見えた。

中卒の村山にはいつ見ても新鮮な

ブレザーと呼ばれるものを着ていた

その男子高校生とすれ違う瞬間に

ちらりと目が合った。

日曜日なのに学校なのかと

ふと気になって見てしまったのだ。


因縁をつけられては堪らないと思い

すぐに目を反らし

下の方に目を向け歩き続けた。


高校生「おじさん、どっか調子でも悪いんですか?」


村山はまさか自分が

話し掛けられているとは思わず

歩き続けようとしたが

立ち止まり周りを見回してみても

おじさんと呼ばれるに相応しい人物が

見当たらず、自分が話し掛けられたのだと

だいぶ遅れて認識した。

そして、そろりと振り返った。


村山「え」


認識したはいいが

何でそんな事をこの若者は

聞くのだろうかと考えてしまい

返事とも言えぬような返事をした。


高校生「どこか具合が悪いんですか!」


村山が耳が遠いのだと

勘違いをした高校生は

大きな声で尋ね直した。


村山「いや、どこも具合は悪かないが」


高校生「それなら良かったです。スクーター押して歩いてるもんだから、具合でも悪いのかと思って。すみませんでした、いきなり話し掛けてしまって。」


高校生はぺこりとお辞儀をして

照れくさそうに笑った。

村山のイメージしていた

老人など邪魔者だと言わんばかりに

睨み付けてくるような高校生とは

正反対の心優しい高校生に

村山はほのぼのとさせられた。


村山「ありがとう。ガス欠になったんだか、金も無くてね、それだけの話なんだよ」


高校生「え、それは大変ですね」


村山の言葉を聞いて

高校生は背負っていたバッグを下ろし

バッグの中をがさごそと漁り始めた。

そして、財布を取り出し

中身を確認し始めた。


高校生「あ、あぁ、今日、昼に使い過ぎたもんなぁ」


財布の中身を覗きながら

高校生はぶつぶつと呟いた。

そして


高校生「おじさん、これしか無いけど、使ってください」


そう言って、千円札1枚と100円玉4枚を

村山に差し出したのだった。


村山「い、いや、どうして」


高校生「だって、すぐ近くにガソリンスタンドあるから、そこで燃料詰めれば、おじさん、スクーターに乗って帰れるでしょ?」


高校生は自分が歩いて来た方向にある

ガソリンスタンドを指差して言った。


村山「それは君の親御さんが、君の為に用意したお金じゃないか」


高校生「貰っちまったら、使い道は俺の自由ですから」


はにかんだような笑顔で高校生は答えた。


高校生「おじさん、寒いからさ、早く受け取ってくれない?」


ぶるぶると震えるような仕草をして

高校生は差し出していた手を

更に村山の方に近付けた。


村山「後で返すから連絡先を…」


高校生「それは迷惑だから駄目です!」


お金を受け取りながら言った村山の言葉を

高校生は遮るように元気良く言った。


高校生「学校なんて来たら警察呼ぶからね」


おどけた風に高校生は言って

村山に背を向け歩き始めた。


高校生はその後

村山の視界から消えるまでに

1度だけ振り返り

バイバイと笑顔で手を振った。


村山は、手を振り返さず

代わりに深くお辞儀をした。

高校生が背中を向けて歩き始めてからも

何度もお辞儀をした。


加寿子、お前が出会わせてくれたのか?


そんな事を思いながら、空を見上げた。

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