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神様ゲーム  作者: ODN(オーディン)
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3.「神様ゲーム」

 

 「ようこそ、お前ら。…これで全員揃ったな。さぁて…どっから話したもんかな…。」


…気が付くと、灰原は椅子に座っていた。


「第一校舎」の入り口に並び立ち、扉に〈生徒手帳〉をかざした灰原と蒼であったが、意識が戻ると、まるでコマ送りで時が飛んだように二人は席に座っていた。覚醒時に聞こえた男性の言葉から予測すると、どうやら灰原と蒼が最後の組だったらしい…。


灰原が目を醒ました直後、教壇に立つ男は話を始めていた。


白髪交じりの灰色の髪、眠たそうな眼、やる気の少なめな話し方と口角辺りにうっすらと見えるシワも相まって気だるそうに見える表情。


灰原 熾凛(さかり)が初めて見た「大人」は教壇に立つ「中年の男」であった。




 灰原は室内を観察する。


意識が戻ってから、最初に目に入った前面の大きな黒板。右端の小黒板には〈TASK〉と書かれている項目があったが、それ以外は何も表記されてはいない…。


大黒板の前、床から一段高い教壇の中心に教卓があり、男はそこで話を続けていた。

床は木材を使った四角形のピースがパズルのように隙間なく、きっちり…とはまっている。灰原の席から左側にある大窓は一面ガラス張りになっており、〈マイルーム〉の窓とは違い、ガラスの分厚さも倍以上にあることから、頑丈そうな造りとなっている。


大窓からは「第二校舎」の壁面が伺えたことから、現在の位置関係としては、「マンション」の方角を向きながら男の話を聞いている…という事になる。


室内には灰原たちの他にも生徒が数十人座っており、一列「五人」の列が「六列」…。

つまり、室内には計「三十人」の生徒がいる…ということになる。



…ここまでの観察から得た情報から、ここは「第一校舎」のどこかにある〈教室〉のようだ。

かなり広い教室ではあるのだが、校舎の外壁と違い、室内の内装は全体的にシンプルな造りとなっている。教室の右手側は壁に阻まれているため、実際に見えているわけではないのだが、壁を取り払えば位置的には「グラウンド」があるはずだ…。



壁を見透かして灰原は見えない「グラウンド」を想像しながら物思いにふける。



先程、「マンション」を出た際、出入り口から左手に見えた焦げ茶色の「グラウンド」。

「グラウンド」の奥にはうっすらと二つの建造物が見えたが、残念ながら距離があったため、その構造を詳しく把握するころはできなかった。


————もしかしたら、後で見に行けるだろうか。


そんな呑気なことを考えながら、灰原が空想の風景を眺めていると…。


「‥‥はい、じゃあ全員…『注目』。」



それは自分の意志ではなかった。



気が付けば、校舎に入った時と同様、再び時が飛んでいたのだ。

灰原の視界はテレビのチャンネルが切り替わるように教壇の上に立つ男へと変わっていた。

もちろん、それは自身の意識内で行われた行動ではなく、完全に意識外で行われた行動である。

男の言葉を皮切りに始まったこの謎の現象。


少し考えれば、中年の男が謎の現象を引き起こした…と言う事は容易に推理できる。


しかしながら、その原理は「謎」であり、「未知」である。

それでも「分からない」という面から、ただ一つ「分かる」事としては、「未知」の力を男が有している…ということである。



 ただ、悲しきことかな。



それは「未知」ゆえに生じた〈不安〉や〈恐怖〉による「決定付け」が根底にあり、「未知」という危険のレベルを何とか自身の手中に収めようとする‥‥人間の自己防衛本能から生まれた「回避的意識」による決定である。



別の言葉で端的に言い換えるならば、これは「決めつける事」であり、「考察の放棄」ともいえる。



一度、「決めつける」という選択肢を選んだ生徒の内で、男の「未知」の力について考える者はいない。

大半の生徒がその「妥協案」を選んだことにも気づかずに考察を放棄していく中、〈好奇心〉のみで考察を継続している一人の生徒を除いては…であるが…。





 …たった今起きた現象に生徒の大半が困惑しながらも、自らを取り巻く状況を理解し、集合的無意識が教壇に立つ男に抱く危険性を一段階高める事となった。


「…ったく、人の話はちゃんと聞けよ。‥こんなのガキでも分かるだろ?」


少し低い声で男は叱責した後、その灰色の頭を人差し指でなぞる様に()きながら、「いきなり使わせんじゃねぇよ…」と、小さく呟く。


その様子は先程の現象を引き起こすのが、「面倒くさい」というよりも、「そうしたくない」というような様子であった。


————少し不器用な面はあるが…根は良い人なのだろう。


男の言っていることに関しては、何も間違ってはいない。

実際に話を聞いていなかったのは事実であり、なぜだか気が緩んでしまったのも自分のせいだ。

何より自分がされて嫌なことを他人にするのは良くない…。


「…よし。」


灰原は抜けた気を入れ直し、姿勢を正しながら男の話に意識を傾けることにした。


「じゃあ、説明に入るからな。‥‥今度はちゃんと聞けよ。」


男が少し目線をきつくしながら忠告すると、教室内の空気が少し引き締まる。

そして、男は天井を嫌そうな表情で見上げたかと思えば、不意に目を閉じてしまう…。

何事かと灰原が男を観察していると、次に男が口を開いたときに大きな変化が起きた。



「『…ここにいるのは「生者」と「死者」。命ある者と命途切れた者。

その両者が混在する世界だ。ここに招かれた生徒諸君は、こちらがランダムで決めたものだが、基本的には「【願望(ねがい)】を持つ者」を重点的に選抜している…』」



明らかに男の雰囲気が変わっていた。



粗い言葉遣いや話し方、気だるげな表情。

それらの男を包み込む、ゆるり…とした空気。

しかし、今では紳士的でありながらも、少し気迫のあるものへと一変していたのだ。



「『…多くの「生者」、「死者」は「■□■□」‥‥いや、失礼。通称「神」と呼ばれる存在の直接交渉を経て参加している。交渉時の「神」に関する記憶の全ては残っていないかもしれないが、重要な部分だけは残っているはずだ。申し訳ないが、「神」に関する情報そのものが「トップシークレット」のために行った措置だ。追及は…しないで頂こう。』」


「‥‥!」


記憶の欠損について述べた男の言葉に灰原は一瞬だけ「もしや…」と反応するが、「神」に関する記憶はもちろん、交渉時の記憶すらないことを思い出し、可能性の一つを削除する。


「『…先程も言ったように、ここにいるのは「生者」と「死者」。

この両者は「神」との交流を経て今ここにいるのだが、ここで一点謝罪しなくてはならないのは「死者」にのみ…とある「エフェクト」を(ほどこ)させて頂いた。これは「死後の世界」から、こちらの世界に引き寄せるために必要な措置であったため許可なく着けてしまったことを謝罪させてほしい…。』」


そこで言葉が途切れると、本来のゆるり…とした男の空気が一度だけ戻り一言…。


「…あ、ちなみに「エフェクト」は外せるから、後で隙見て取っとけよ。」


それだけ言って、男の空気は再び静かなものへと戻っていった。

きっと男なりに配慮してくれたのだろう。



根は良い人なのだが‥‥如何(いかん)せん不器用だ。



「『…では、本題に入るとしよう。

これから君達は「神」の作りし遊戯(ゲーム)、〈神様ゲーム〉に参加することになる。

しつこい様だが、「神」は「神」だ。それ以上でも、それ以下でもない…。』」


「神」である存在の正体「■□■□」の部分には、ノイズが掛かっていたため上手く聞き取れなかったが、不思議と灰原の中から「神」への疑問が即座に薄れて消えていった。


「『…〈神様ゲーム〉で君達のすべき事は…とある存在と戦い生き残ることだ。

その存在の名は〈ゲーグナー〉。

異世界から生み出される「バグ」のようなものだ。今、その存在の全てを語ることは出来ないが、詳しいことは授業や実際の戦闘を通して、君たち自身で学んでいって欲しい。

そして、君達には〈ゲーグナー〉と戦い、【Rk(ランク)】「100」を目指してもらう。』」


〈神様ゲーム〉、〈ゲーグナー〉、異世界、「バグ」、【Rk(ランク)】「100」‥‥。


聞き慣れない言葉と聞いたことのある言葉の羅列。

灰原の脳内は好奇心から生まれた知識欲を何とか薄めるために、グルグル…と攪拌(かくはん)処理をしていた。


「『‥‥これにて「チュートリアル」は終了だ。後の説明はこの「塩崎」に任せてある。

短いながらも、私の授業もここで一度終わりを迎える…というわけだ。

不明なことも多く初めは不安に感じることもあるかもしれないが、人間は慣れる生き物だ。

良くも悪くも、人間はあらゆる環境に適応しようとするものだ。

そこに無理が祟って心身の体調を崩すことが無いよう、生徒諸君には可能な限り楽しい学校生活を送って頂きたい…。』」


そこで男は小さく息を吸った後、最初の言葉を生徒達に贈る。



「『最後に私個人からの言葉を送るとしよう。諸君‥‥。

【己の願望(ねがい)をかなえたければ戦え】』」



どこか切り捨てるように男がそう言い放つと、再び男の空気は元に戻っていた。

男は自分の身体に取り憑いていた「何か」を払うように首、肩、腰…と順に(ほぐ)しながら、

「はぁ~、かったるい。」と愚痴をこぼす…。




 生徒達は各々が思い思いの反応をしていた。


「困惑」、「不安」、「焦燥」、「愉しみ」、「疑問」、「沈黙」————。


どれだけの生徒が男の話を理解できただろうか。

記憶の無い灰原にとっては、情報量が多すぎたため上手く処理できない部分もあったが、大まかに話の内容を理解できた気がした。


「…ねぇ、熾凛(さかり)。今の話…わかった?」


「‥‥あぁ。何となくだが、大体は‥。」


男の話を整理しようと思い、考えこもうとしていた矢先、灰原の後ろの席に座っていた紅葵(もみぎ) (あおい)に耳元で囁かれた灰原だったが、冷静に彼女の質問に答える。


————‥‥彼女の席を確認しておいてよかった。


心の底から灰原は安堵する。

きっと彼女の席を確認していなければ、変な声でも上げてしまっていただろう…。



 教壇に立つ中年の男…いや、たしか「塩崎」…といったか。 

今の話から〈生徒手帳〉の〈ステータス〉に表記されていた【Rk】の正体が判明した。

だが、それと未知の敵〈ゲーグナー〉との関連性はどういったものか…と思案していたところ、


あおいいわく、「〈ゲーグナー〉を倒せば【Rk】が上がるのかな…?」


…とのことで灰原自身の中でも納得のいくものがあった。




「ごほっ。‥‥ここまでが…大まかな説明だな。」


喋りすぎて喉が疲れたのか、

それとも変な話し方をしていて気持ちが悪かったのか、

…はたまたその両方か。



咳払いをしながら塩崎は口を開く。

説明時の口調が灰原の耳に残っていた為か、ずいぶん口調が悪くなったように感じた。


「で、これから説明するのが、ここでのお前らの「武器」である【ML(マテリアル)】だが…。」


「まぁ…見せた方が早いか…。」と呟きながら、塩崎はゆっくり‥と肘を曲げて宙に掌を向ける。



それは、さながらウェイトレスの如く…「あちらへどうぞ」と手で指しているかのような腕の構え方であった。そして、「何か」が塩崎の掌に現出すると、男はそれを軽く握り、身体の正面でそれを…伸ばす。


「…こいつが俺の【ML】だ。」



そう言いながらニヤニヤしていた塩崎が手にしていたものは「指示棒」だった…。


「…え。」「‥‥。」「‥‥おいおい‥。」


生徒の何人かが小声で反応する。

灰原も困惑していたが、塩崎の言っていることが嘘でも冗談であるとも考えにくい。


…あのニヤニヤしている顔は何かを隠しているような顔だ。


「…まぁ、そういう反応になるよな。俺もそうだった…。」


そう答えながら塩崎は何かを懐かしむように自身の【ML】を眺め、「指示棒」をカチャリ…カチャリ…と伸び縮みさせる。


「…いいか。ここでの武器は、この【ML】と「【創造(イメ)/想像(ージ)】力」だ。」


そして、いつの間にか持っていたチョークで塩崎は黒板に何かを書き始め、こちらに振り向くと同時に「指示棒」で黒板の字を指し示す。



黒板には、


『 【ML(マテリアル)】×【創造/想像(イメージ)】力 = 【Rs(ランクスキル)】 』


と表記されていた。



【ML】、【創造/想像(イメージ)】力、…そして【Rs(ランクスキル)】。



…これで〈生徒手帳〉の〈ステータス〉に記載されていた英語表記の正体が全て明らになった。



————だが、【Rs】とはいったい何のことなのだろうか。【Rk】と関係がある気もしなくはないのだが‥‥。



灰原は僅かな情報を頼りに脳内で思考を始めるが…やはり情報が足りず、ある程度の予測しか立てる事ができない…。


「【ML】は【Rs】の元となる「素材」みたいなもんだな。

使い手が持つ【創造/想像(イメージ)】力が合わさることで【Rs】に大きく影響するんだが、これも実際に見せた方が早いか…。」



口下手というわけでもない塩崎だが、説明しようとしている内容があまりに複雑で曖昧なものらしく、口頭だけでは説明しづらいことから、自らが実践して見せる事を選択したようだ。


塩崎は手に持っていたチョークを垂直に放り投げ、「指示棒」を構える。



 その瞬間、落ちるチョークの動きが灰原にはスローモーションに見えた。


チョークは軽い…と言っても重力に逆らえるわけでも、もちろん時間に逆らえるわけでもない。

天井すれすれまで高く上がったチョークはゆっくりと落ちていき、塩崎の身体の正面を通過しようとした次の瞬間…チョークは白い砂塵と化し、粉微塵となっていた。


 …だが、問題はそんなことではない。


氷柱(つらら)のように細長く、半透明な刀身、剣身の根元から柄にかけて強弱のある美しい螺旋(らせん)を描いた一輪の花の如く咲いた銀の装飾を施した細身の剣。


いつの間にか塩崎の持っていた「指示棒」は塩崎という人物には不相応なほどに、剣身からは凛とした一閃を放ち、得も言われぬほどの「美」を内包した「レイピア」と化していたのだ。




「…ごほっ‥。」「けほっ…けほっ。」


 霧散したチョークの粉は、その大半が黒板の下にある小さな穴が無数に開いた壁に吸い込まれたもののチョークの残り粉が舞い、教卓付近にいる生徒たちが咳き込んでいた。


それに対し、塩崎は少しだけ気まずそうな顔をしていたが構わず説明を続ける。


「…これが【ML】と俺の【創造(イメ)/想像(ージ)】力が合わさって創造された【Rs】「レイピア」だ。これは【ML】である「指示棒」を俺自身が「レイピア」に見立て、想像することで【Rs】の「レイピア」を創造したってわけだ。」


そう言って塩崎は「レイピア」を「指示棒」に戻し、新しいチョークで黒板に何かを書き足した。


塩崎が再びこちらに身体を向けると、

ご丁寧に先程表記した【ML】、【創造/想像】力、【Rs】の下部にそれぞれ「指示棒」、「塩崎」、「レイピア」と書かれており、簡単なイラストも描かれていた。


短時間にこれほど上手く描ける事…そして、今まで気付かなかったが、意外にも整った字を書く塩崎に感心しつつ、灰原は分かりやすくなった【ML】、【創造/想像】力、【Rs】の仕組みについて何とか理解し始める。


「‥‥って言っても分かんねぇよな。

俺も初めて聞いたときは全く分かんなかったからな。何か良い例え、ねぇかなぁ…。」


…それでも上手く伝えられていないと思っている塩崎は、「どう伝えたものか」と頭を悩ませる。



すると、思わぬ方向から助けの船が渡ってきた。



「…ガキの時に「広告紙」丸めたやつを「剣」に例えて遊ぶ…みたいな感じっすかね?」


そう発言した男は何というか…すごい髪形をした男子生徒だった。



緋色の髪。

螺旋を描いた髪の集合体は、まるで何百層ものクロワッサンを宙で焼き上げたかのように、造りが綿密で陰陽の強弱が激しいリーゼントの頭。

ワックスで豪快にまとめたようでありながらも、丁寧かつ繊細にセットされた髪型は男の几帳面さを表しているようにも見える。


ブレザーは腹部のホックを止めずに開けたまま、パンツは灰原が履いているものとは違い、「わたり」が通常のパンツよりも広い「ボンタン」を履いている。



「お…おう、そうそう! まさにそれだ。」


塩崎も男の髪型に驚いた様子だったが、途端に何か懐かしいものを見たように少しだけ高揚していた気がした。



「「あるもの」を「別のもの」に見立てる。

「A」を「B」と見立てる…っていうのは個人差や微妙な違いがあるはずだ。

それによっては「B」が「C」にも「D」にもなる。

例えば一本の映画を見た時、ここにいる全員が同じ感想を思い浮かべることはないだろ?

「知識」や「経験」、「好み」や「観点」によって個人で感想は別々になるはずだ。

だから、どんな【ML(マテリアル)】だろうと、持ち主の「【創造(イメ)/想像(ージ)】力」によって様々な可能性がある…ってわけだ。」



「うんうん…」と塩崎自身が頷いていたことから、どうやら、この説明方法で納得したようだ。

おそらく、自分がこの説明を聞いたときに理解できるのか…と第三者の気持ちになって、考えていたのかもしれない。


「…もちろん、俺は「レイピア」以外にも色々と創造できるが、選択する【ML】によって、その数が限られる場合もある。「一種類」のものもあれば、「数種類」のものもある。

これに関しては、選んだ【ML】次第…って所だ。

まぁ、一応は「ゲーム」だからな。選んだ【ML】によって特性もある…ってのも「ゲーム」の醍醐味ってもんだろ。」


一通りの説明が終わった所で、灰原は塩崎の説明を脳内で簡単にまとめ始める。



「生者」と「死者」が存在する「神様ゲーム」。

主たる目的としては、異世界からの侵入者〈ゲーグナー〉を倒し、【Rk】「100」を目指すことである。その〈ゲーグナー〉と戦うための武器は【ML】と呼ばれる…どこにでもあるような「素材」が必要である。


その「素材」から武器を創り出すには、「一つのもの」を「別のもの」へと見立てる…という使い手が持つ独自の【創造(イメ)/想像(ージ)】力が大きく関係している。


創造(イメ)/想像(ージ)】力は個人の「経験」や「知識」によって「個人差」があるため、「複雑性」が増していくものであり、同じ【ML】であったとしても、創造される【Rs】が大きく異なる。


そして、【ML(マテリアル)】と持ち主が持つ【創造(イメ)/想像(ージ)】力が合わさり、想像された【Rs】と呼ばれる武器を創造する。



‥‥塩崎の説明を()(つま)んでまとめるのならば、このような所だろう…と灰原は脳内でまとめ上げた情報を数回反復し、その構造を完全に理解した。




「【Rs】については他にも説明することがあるんだが、それは…まぁ…【ML】を入手してからでいいか…うっし! ここからが本題だ。お前ら〈生徒手帳〉を出せ。」



ぼそぼそ…と呟いた後、塩崎からの唐突な要求に前の席にいた生徒の何人かが驚いてはいたが、

「ほれほれ…」と塩崎が手を振って生徒たちを促し、生徒全員が〈生徒手帳〉を出したことを確認すると説明に移る。


「じゃあ、そうだな…。おい、さっきのリーゼントの奴…『こっちに来い』。」


塩崎が命令を下すと、先程の分かりやすい例えを発言したリーゼントの男子生徒が一瞬で席から塩崎のいる教卓付近に移動していた。


「‥‥え?」


当然のことだが、リーゼントの男は突然の瞬間移動に驚き、呆然としていた。


「よし…じゃあ、お前。〈生徒手帳〉を見せろ。」


気の抜けているリーゼントの男に、すかさず塩崎は〈生徒手帳〉を要求する。


それはまるで、カツアゲをしているような風景であった。実際はヤンキーのような見た目の男が、中年の男教師に〈生徒手帳〉を要求されているのだが…。


「…お、おう。」


戸惑った様子を見せながらも、男は胸ポケットから〈生徒手帳〉を取り出し、塩崎に差し出した。


「…ほぉ。最上(もがみ) (ひで)(たか)か。」


「…おう。そうだが‥。」

謎の不敵な笑みを浮かべる塩崎に名前を読み上げられたリーゼントの男、最上(もがみ) (ひで)(たか)は困惑しながらも返事をする。


「お前ら、よ~く見てろよ。まずは、〈生徒手帳〉を【ML】にしたい物に当てる。」


そう言って、男は適当に辺りを見渡した後、黒板に添えてあった「チョーク」を摘まみ上げ、最上の〈生徒手帳〉に当てる。

「‥で、次に「認証する」と宣言(コール)する。…ほら言えよ。」

「は‥‥「認証する」?」 

最上がそう宣言してしまった瞬間、どこからか電子音で女性の声が流れた。



『はい…最上(もがみ) (ひで)(たか)

ML(マテリアル)】:「チョーク」を認証。

Rs(ランクスキル)】の制限が解放されました。』



「‥‥は? …はあああああああああっ!?」



————まぁ、そうなるだろう。



胸の内で灰原は最上に同情していた。

この〈神様ゲーム〉において最重要アイテムである【ML】。

その【ML】選択の機会を塩崎は「説明」という名目で最上から強制的に奪ったのである…。




「‥とまぁ…こんな具合に。

【ML】にしたい物に〈生徒手帳〉を当てて、「認証」の宣言をする。…簡単だろ?

それと、ここが重要なんだが、「認証」の宣言は一度したら破棄はできないからな。

お前ら、気をつけろよ~。」



最上は片手で顔を覆い、(うつむ)きながら悲しそうに自分の席へと戻っていく。

明るい緋色の髪もガッチリ決まったリーゼント頭も、その時だけは暗く弱々しく感じた。


「‥‥で、さらに追加事項だ。もし、同じ【ML】を選ぼうと他の生徒と鉢合わせた場合は、各自が持っている〈生徒手帳〉を使って戦ってもらう。

〈生徒手帳〉は仮の【ML】として【創造(イメ)/想像(ージ)】力で創造し、戦うことができるが、初期武装のため「一回」しか創造はできない。これもちゃんと覚えとけよ。」



そこで説明すること自体に疲れたのか…塩崎は「ふっー!」と大きく息を吐く。



「…制限時間は三時間。開始は俺が合図をしてからだ。

【ML】が決まった奴は制限時間までに、この教室に戻ってこい。

それと最上(さいじょう)だっけ…いや、最上(もがみ)か。

お前はもう決まってるから、その辺で時間潰してて良いぞ~。」


「…ぅっす~~…。」


中年の教師がニヤニヤ‥と大人気(おとなげ)ない笑みを浮かべて最上に話しかけると、組んだ両手におでこを預けていた最上は、溜め息交じりの消え入りそうな声で返事を返していた…。



「‥‥じゃあ最終確認だ。

「マンション」以外の学内にある物の全てが【ML(マテリアル)】の対象になる。

(ブツ)を見つけたら〈生徒手帳〉で「認証」の宣言(コール)

誰かと鉢合わせたら〈生徒手帳〉を使って戦闘(バトル)だ。

〈生徒手帳〉による創造は一回のみ。「認証」も一回きりだから気をつけろよ。

そんで…制限時間は『三時間』。

終了時間までに教室に戻ってくること‥‥以上!」



淡々とルールを確認したところで、塩崎は合図のためにゆっくりと手を挙げ始めた。



…自分の武器となる【ML】。

この「神様ゲーム」において重要となるアイテムであることに間違いないはずだ。

それ故に【ML】選びは慎重に選ばなくてはならない。また、他の生徒と鉢合わせにならないように慎重かつ手早く決めていきたいところだが、ある程度の「覚悟」はしておかなくてはならない。



開戦を告げる合図のために挙げた…と思われた腕。

だがしかし、塩崎はもう片方の左手で伸ばした右腕を掴んだかと思いきや、上体を左に倒して、ゆっくりと伸びをしながら…


「はい。じゃあ…うーんっ…はぁ~‥【ML】争奪戦…始め~。」



…ずいぶんと気が抜けた合図だった。



————何とも緊張感がない。それほど悪い人物ではないと思うのだが…。



灰原は塩崎という男に抱いていたイメージを早くも疑い始めていた‥‥。



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