第3話 ぼくちゃん、ざまぁする
「ちくしょう、どういうことなんだ!!」
「やばいよ、アレル」
「俺も、もうもたない」
勇者パーティーは、最弱モンスターであるスライムに苦戦していた。
それも、一体のスライムに。
「どうして、俺の聖剣―――ほうきがスライム如きに通用しないんだ」
「あたいの、たわしだって通用しないよ」
「俺の、如意棒だってダメだ」
勇者パーティーは知らなかった、ぼくちゃんの能力『悪臭』によって、救われていたということを。
「やっぱり、ぼくちゃんを追放したのが、わるかったんじゃあ」
「そんなことあるか!! この聖剣ほうきはな、何千万ものオタクが抜こうとしても抜けなかった代物だぞ。それを装備しているこの俺が、スライム如きに苦戦するなんて」
アレルは聖剣ほうきを大きく振りかぶり、スライムに斬りかかった。
が、
たやすく避けられ、顔面にタックル。
勇者アレルは気絶した。
二時間後。
「おお、目を覚ましたぞ」
「ここは・・・」
「さっきと同じ、森の中さ」
「そうか、そういえば、スライムは?」
「あんたが、倒したじゃないか」
「やっぱり、俺が倒したのか」
「ああ、すごかったよ。あんたの剣技」
「だよな、あはははははははは」
勇者アレルはバカ笑いした。
その時、森の奥から、声が聞こえて来た。
「やあ、久しぶりだね」
森の奥から歩いて来たのは、顔をボコボコに殴られた、スタイルの良い男性だった。
「あんた、誰だい?」
勇者アレルは言う。
「あれ? 覚えていないの。ぼくちゃんだよ。久しぶり」
「ああ、ぼくちゃんか、五時間ぶりくらいか? ずいぶんと背が伸びたじゃないか?」
「うん、五時間も経てば、背も伸びるよ」
「それに、ずいぶんと、見かけも変わったな。そんな、ボコボコな顔だったか?」
「うん、これは自分で殴ったんだ。成長した顔が気にくわなくって」
「それは、よくあることだな。はっ、はっ、はっ」
アレルの笑い声が森に木霊した。
「で、追放したお前が、俺たちに何の用だ?」
「そりゃあ、もちろん、追放されたからざまぁしに来たんだよ」
「そうじゃないかと思ったよ」
「気がついていたのかい?」
「ああ、勇者だからな」
「じゃあ、やるかい」
「ああ、それじゃあ、始めようか」
僕は、勇者アレル、剣士メリル、戦士ルイスと戦った。
それは、とんでもない死闘だった。
朝を迎え、夜がすぎ、次の朝が来る。
来る日も来る日も、決着がつかなかった。
それは、それは、とんでもない戦いだった。
僕が放った魔法は、山を消し去り、海を干上がらせ、
街を粉々にし、挙句の果てには、何億もの星を消し去った。
僕たちの住む世界は、何万分の一にまでなってしまった。
それくらいの死闘だった。
決着がついたのは、三年後だった。
剣士メリルと、戦士ルイスは倒れ、勇者アレルは膝をついた。
「さすがに、もう無理かもしれない。限界だ」
「よく頑張ったよ」
僕は、勇者パーティーの戦いっぷりを祝福し、勇者アレルに握手を求めるため、手を伸ばした。
勇者アレルは、僕のその油断を狙っていた。
「あめええええええええええんだよおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
勇者アレルの聖剣の突きが、僕の腹部に走る。
だが、運が良かったことに、
聖剣ほうきの先はへしゃげ、僕の腹部を貫通しなかった。
僕は、とっさに、アレルの顎にカウンターをくらわしていた。
勇者アレルは地面に倒れた。
「あんたの勝ちだよ、ぼくちゃん」
「俺たちの負けだ、ぼくちゃん」
メリルとルイスが僕を祝福してくれた。
僕は倒れている勇者アレルを抱きかかえた。
放っておけなかったからだ、
だって、
もう僕はいつの間にか、54歳になっていた。
勇者アレルは昔、自慢げに僕にこう言っていた。
「俺、とある店で、童貞を捨てたんだぜ」って
だから、ぼくも、勇者アレルにその店に連れて行ってもらおうと思う。
でないと、僕は死んでしまうから。