サネカズラ〜再会〜 その三
「なぁ、紫苑。俺個人の意見として穂坂嬢に校内を案内して差し上げたらいかがだろう?」
「……どこから湧いて出たんだよ」
終礼後、帰り支度をする(といっても、筆箱を学校指定のスポーツバッグに入れるだけなんだけど)僕の前に突如湧いて出てきたこいつは《森 棗》。
「失礼な奴だな。人をお化けみたいに言うものではないぞ?」
いや、まさしくそんな感じだろう。
お前はいつどこから出てくるのか分からんからな。
棗は校内で付き合いが一番長く、幼稚園の頃からだからもう十年ぐらいだろうか。
一見するとスレンダーな体つきをしているが、中身は意外と筋肉質。
成績は校内で中間ぐらいに位置しているが、運動神経は抜群にいい。
髪は首根のところ以外にはワックスをつけてしっかりと整えていて、顔つきは僕と違ってかなり男らしい。
高身長だし、ルックスもいいから女子からの人気は高いと言う話も聞いたことがあるな。
友達思いのいい奴で、気兼ねなく相談できる相手はと仮に聞かれたのならば、僕は間違いなく棗と答えるだろう。
で、棗には一歳年下の彼女がいていつか紹介する機会があるだろう。
「それより、早く交渉してみてはどうだ?」
「まぁ、別にいいけど……お〜い、桔梗」
僕が桔梗を呼んだ瞬間、クラスに残っている男子全員の鋭い視線が僕のほうを向く。
うぅ、視線が痛い。
僕は何もしていないというのに。
「なんでしょう?」
こっちに来ると同時に、桔梗は僕に尋ねた。
「あ、その前に紹介しとくよ」
「森棗です。よろしくお願いします穂坂嬢」
「え、えぇっと……穂坂桔梗といいます。よろしくお願いします」
馬鹿丁寧にお辞儀をして言う必要はないと思うのだけれど。
「それで、校内を案内しようと思うんだけど……時間は大丈夫?」
「え、校内をですか?」
「あぁ、それはいい考えね」
一体いつからそこにいたのでしょうか、椿さん。
なんですか、最近は突如湧き出ることが主流と言うわけですか。
「そう……ですね。では、すみませんがお願いできますか?」
そんな僕のココロの声を無視するように会話は進んでいった。
みなさん気にしてないようで……まるで、僕がおかしいみたいじゃないか。
「では、穂坂嬢。リクエストはございますか?」
気取った様な言い方で、棗がそう聞くと桔梗は少し戸惑って「職員室をお願いします」と先ほどより少し小さめの声で言った。
まぁ、棗の女性への呼称は独特だから違和感があったのだろう。
棗が「嬢」を付けないのは姉と彼女ぐらいなものだからな。
この学校のつくりというものはいたって単純。
校舎は主に二つあり、一つは当然ながら一年から三年までが学年毎に昇順で並んだ教室棟。
そして職員室や、美術室、図書室といった特別教室の集まる特別棟(僕達は職員棟と呼んでいる)である。
教室棟はどの学年もA〜Hクラスまで存在する。
教室棟と職員棟を結んでいるのが連絡棟と呼ばれるものであり、これはどの学年もBクラスとGクラスから伸びている。
構造的にはなんら難しいところはない。
入学してきた僕達もどの教室がここにあるということを十日経たないうちに把握できるのだから。
というわけで、まず桔梗に案内しているのが職員室である。
職員室は職員棟二階にあり、職員室を向いて右側に印刷室とパソコン室。
左側には保健室と補習室(定期テストで赤点を取った者のみが入れる神聖な教室だ)がある。
「ってことなんだけど、分かった?」
「はい。意外と簡単な造りなんですね」
「まぁ、単純構造がこの学校の魅力の一つでもあるからな」と棗。
学校側としてはそんなところに魅力を感じてほしくないだろうに。
そのとき、職員室の入り口のドアがスライドし、クラスの担任が出てきた。
「お前らどうしたんだっと……なるほど」
僕、棗、椿の姿の他にもう一人の桔梗の姿を見つけ、今の状況を納得したらしい。
「まぁ、この学校は単純構造だからすぐ覚えるさ。頑張れよ」
それだけいうと、先生は鼻歌を歌いながら行ってしまった。
どうやら、先生たちにとっても単純構造が魅力なようだ。
「それで、この上が芸術関係の教室。教室の方向を向いて右から音楽室、美術室、書道室、家庭科室になってるわ」
丁寧に桔梗に教室の位置を教えていく椿を見て、少し感心する。
ここまでこの学校の教室の位置を丁寧に説明するのは校内を探しても椿ぐらいだろう。
「そして下の階は、同じく教室の方向を見て右から生物室、科学室、物理室」
「とても分かりやすいです」と、桔梗。
それが椿の教え方なのか、学校の構造がなのかどっちなのだろうと思ったが、恐らく両方だろう。
「で、購買は教室棟と職員棟の間の中庭にあるから」
「はい、しっかりと覚えました」
ここまでの所要時間五分足らず……実に速いことで。
靴を履き替え、校門前までやってきた。
椿とは変える方向が逆なので必然的にここでさようならということになる。
「じゃ、また明日ね」
「はい、本日はありがとうございました」
「そんなの当然だよ」
椿は気恥ずかしかったのか照れくさそうにはにかんで、やがて手を上げて「じゃぁね」と言うと行ってしまった。
「じゃ、僕たちも帰ろうか」
「はい」
「そうだな」
僕、桔梗、棗の三人は歩き出した。
「その、今日は本当にありがとうございました」
しばらく歩いて、桔梗がそう言った。
「別に礼を言われるほどのことじゃないよ」
「いえ、それでも今日は紫苑君にも、椿さんにも、森君にもお世話になりましたし」
「紫苑の言うとおりですよ。お礼を言われることではありません」
「それでも、言っておきたかったんです」
そう笑顔を浮かべて言う桔梗の顔は本当に嬉しそうだった。
その後は他愛のない話をして、それから個々の家に帰った。
家に帰り、布団に入って僕は今日一日を思い返す。
桔梗と再会したこと……それをとても嬉しいと感じた。
そう、嬉しかった。
でも、それと同時に僕は……心が痛むのも感じていた。
即席ですので、いろいろとおかしいところが合ったのではと思います。
毎度の如く、指摘お願いいたします。
正直、受験生何で時間があまり裂けないんですよw
それでも、勉強と平行してやっていくんでよろしくです。