第53話 心理テストは舐めていると痛い目を見る。
「えっぐいなあ……」
申し訳ないほどに、相手チームに対して容赦がなかった。
「ミスッチって、触ったものも《柔化》させられたのか……」
相手のクラスも決して弱いわけではなかったと思う。
ただ、唯一の失敗は。
「同じ戦法で来たらダメだろ」
同じ生徒が巨大化した。
「なあ、ウダ。これ、相手怪我しないか?」
「あれだけでっかくなってんだ。向こうだって怪我させる気満々だろ」
何かしらのサイズを操る能力者にとって、擬似質量という理論は避けて通れない道である。
これがまたややこしいのだが、サイズと対象の重さは比例になる。
ただし、自分のサイズに限って言えば、大きくなろうが小さくなろうが感覚に変化はないらしい。
要は、デカくなれば、重いものだって動かせるのだ。
問題は、増減する質量が、一体どこから来て、またどこへ消えるのかだ。
まるで解明されていないため、便宜上『擬似質量』と呼ばれる。
で。
「巨大化した相手に、本田が右手で渡辺を投げて、相手にかかる重力を強化。左手でミスッチを相手の棒に飛ばして、棒のしなやかさを上げる。ボムポールになったところで、重力を調整しながら飛んできた渡辺が、棒の重力を自分の限界まで引き上げる。で、先に飛びつけば……」
丸太が地面を跳ねながら、グラウンドを転がっていた。
相手チームは阿鼻叫喚に包まれながら逃げ回っている。
巨大化した生徒は腕を押さえていた。
彼らのクラスのテントからは抗議の声が上がっている。
「確かに、あいつらで済ませちゃったけどさあ、規約違反で失格にならねえ?」
能力を使った妨害は許可されているが、それによって相手がけがをした場合、話が変わってくる。
「でも、重力使わんかったら足止めできねーじゃん」
「そうだけどさ……、言い訳、考えてるのか?」
「おまえの二の鉄は踏まない」
明らかに、総スカンを食らうことのほうだ。
「そのために、助っ人を用意した」
「助っ人?」
「今俺らが勝ったクラスと、前に戦ったクラスの人。最後まで棒にしがみついてたんだけど、あのでっかい手で薙ぎ払われたらしい」
要は、向こうも怪我をさせるようなことをした。だからこちらのやり方も通らないと公平にならない、という主張。
「理屈は通らねえことねえけどなあ」
◆◆◆
なんと、主張は助っ人を出すまでもなく通ってしまった。
なんでも、
「毎回、その生徒一人に任せるというやり方は正しくない」
だそうだ。いや、確実に勝てる方法は何回でも使いたいのが人間だと思うんだけど……。
テントが歓声に包まれる中、俺はこの体育祭の目的を考えていた。
父兄が一切見に来ない体育祭。
にもかかわらず、私服姿の大勢の大人。
その大半が、軍の人事部であり、即戦力になりそうな生徒を探しているらしい。
ここで、小宮山先生との会話を思い出す。
――棒倒しをするのに、強い生徒が一人いればいいと思ってるだろ?
――違うんですか? 探してるのは戦力になりそうな生徒なんでしょう?
――ばーか、この競技で上が見たいのは、そこじゃねえ。
「そこ」じゃない。
じゃあ、「どこ」を見るんだろう?
「ねえ」
連係プレーを見たいなら、なにも棒倒しにする必要はない。
俺たちのクラスのみならず、初戦を見る限り、実際に棒を倒すのに必要な生徒は少数であり、残りの全員で棒を支えているような状況だ。
はたまた、先述の大人の言葉を借りるなら、ローテーションをしろ、ということだろうか。
「ねえってば」
あ、そうか……
自己主張の強い生徒を探しているのか。軍に入れないために。
規律を乱す者がいるのは、ああいう縦割り組織には不都合なのだろう。
レースと違って、どんなふうに活躍するかは自分次第。
我を通すか、通されるか。
我を通したと判断された生徒は、恐らく軍や他の公的組織に履歴書を書いても、送り返されるんだろうな……
その点、うちのクラスは全員が連携して活躍できる場を設けている。
この競技において、大人からマイナスポイントをもらう要素はないだろう。
「きーいーてーるー?」
なるほど、からくりが見えてきたぞ。
他の競技にも、生徒の能力だけじゃなくて、内面を採点している部分があるということか?
だとしたら、これが終わる頃にはいろいろと評価痛ダダダダダダあっ!?
思いっきり後頭部をはたかれた。
「誰!?」
振り返ると、いない。
おかしなことに、他の誰も気付いた様子がない。
クラスの輪の外側にいたから、当たり前なのだけれど。
絶対に誰かがいた。
その証拠に、今も頭が痛い。
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