第5話 人は、都合の悪い記憶を、忘れるか改ざんする。
翌日の学校。
「えー、まず初日は、自己紹介からやってもらいまーす。出席番号順に、一人ずつ壇上に立って、名前と、能力、この学校での抱負を語ってくださーい」
小宮山のかったるい言葉から始まった。
「あ、あ、秋山直子です。能力は猫の形の《具現化物質操作》です。こんな能力でも、人助けがしたいです!」
最初の女子がつっかえがながらも、立派な目標を掲げる。
ペコッと頭を下げると、温かい拍手が送られた。
が、次の奴が壇上に上がると、同級生の視線は一気に冷たくなった。
「伊藤光太郎です。能力は《無効》の封印タイプ。まあ、頑張ります」
昨日の件もあるが、やはり彼が《無効》の能力者だからだ。
能力者全員にとって天敵になるこの異能は、能力者社会の中では最も嫌われる。
拍手はない。あからさまな差別かもしれないが、この手の能力者の扱いとしては、まだまともだ。
その後も、何人かが自己紹介をする。自分の番はすぐに回ってきた。
「榎本優哉です。能力は《バリア》。ただ、3~5分しか使えないので、成長に期待したいです」
クラスのあちこちから、「プッ」と噴き出す声が聞こえる。
そりゃそうだ。
本来、俺の能力は、この世に存在する能力の中でも、もっとも連続して使える部類に入るのだ。
時間にして、最低でも3時間。落ちこぼれレベルでこれだ。
上手い人になると、ほぼ常時発動しているという。
そんな世界で、全力で3分。上手いことやっても5分。
能力は、15歳の誕生日までに発現しなければ、その後は絶望的だと言う。
俺が使えるようになったのは、タイムリミットギリギリの、中二の冬。まだ1年しか経っていない。
医者からは、「コントロールが難しいものでもあるから、君のペースで行きなさい」と慰められたが、この学校に入るまでに強化は出来なかった。
「カップ麺かよ……」
誰となく、囁いた。
途端に、大爆笑の渦が教室を包み込む。
この日、「榎本優哉」=「カップ麺」という等式が生まれたのだ。
◆◆◆
「桐山茜です。能力は《液体操作》。昨日はごめんなさい!」
伊藤が《無効》の能力者と分かったせいか、彼女を責める声はなかった。
能力者社会では、《無効》は悪と同義に近い。
「気にするな!」
「誰だって失敗するよ!」
クラスの声援に気をよくしたのか、少し得意げな表情で席に戻る。
◆◆◆
自己紹介が終わると、小宮山は機会音声のように、
「じゃー、次はクラスの委員を二名選出したいと思いまーす。誰かやりたい人?」
誰も手をあげない。
……かと思ったが、二人、手が挙がっていた。
一人は、昨日話した真田。もう一人は。
……あの子は。
「じゃあ、他に希望がいないようなので、この二人にやってもらいます。真田、二瓶、あとよろしく」
二人が壇上に登る。美男美女のコンビで、正直映える。
「……次は他の委員会を決めたいと思います。まず、図書委員会を希望する人は手をあげてください」
大声でもないのに、よく通る声。
どこかのお嬢様のような、溢れる気品。
彼女もまた、昨日の惨事を免れた一人だ。
確か能力は。
《空間操作》。
なんでも、空間を捻じ曲げることができるらしい。自身を中心に、半径50メートル。その範囲内なら、一瞬で移動することも可能だと言う。
俺は暇な委員会を選びたいので、今は手をあげない。
◆◆◆
その日の午後。
桐山と伊藤は、昨日の罰としてどこかの掃除をさせられている。
「やっぱ、伊藤は無効化する奴か。まあ、大人が嫌ってるからあの扱いも納得だわな」
一緒にお昼を食べながら、真田が言う。
「そうだよな」
「無効化とかまじムカつく」
「能力の訓練とか、あいついらなくね?」
他の面子も口を揃える。
「でも、俺はあいつのこと嫌いじゃないな」
真田の意外な発言に、一同の注目が集まる。
「確かに、大人になってからはあいつの能力を鬱陶しく思うかもしれない。でも、今あいつと知り合えたのは良かったよ。《無効》を持ってる奴らも、根は悪くないって分かったから」
なんでも、彼が昨日遅刻したのは、同じ寮の生徒の探し物を手伝っていたのが理由らしい。
「それに、ああいう奴がいると、なんだか面白くなりそうじゃん?」
そうかな、という声も上がったが、真田の目を見ると、本当にそう思えてくる。
そして、俺は午後からの時間割に頭を巡らしながら、カツサンドを口に運ぶ。
午後にまず行われるのは。
身体測定。
毎日投稿頑張っています!
明日も投稿します!
面白いと思ったり、先が気になるなぁと思ってもらえたら、ブクマ登録よろしくお願いします!




