第44話 まだ彼らには早い(前編)
主人公たちには、まだまだ追いつけない領域のお話です。
この能力者を狙った連続襲撃事件は、急に幕を下ろした。
厳密に言うと、犯人が捕まった。
ここで俺たちは、自分たちの未熟さを、嫌というほど思い知らされることになる。
◆◆◆
夜7時過ぎ。
「……なんで突き止められてるんだよ……!?」
襲撃犯の片割れである男は、監視モニターを見ながら毒づく。
脅迫メールを送ってから、約二時間後。
友達を助けに来た、哀れな子供を捕えるつもりだったのに、来たのは。
――誰だよあいつ!
がっしりとした体格の若い男。と言っても学生ではなく、れっきとした成人にしか見えない。
アジトに使っているのは最近閉鎖した水力発電所である。老朽化が進んだため、数か月後には取り壊しが決まっている。
立地も悪くなく、電気さえ通せば監視カメラも使えたので、計画にはもってこいだった。
男が頭を抱えていると。
「どうした?」
「おいおまえ! メールを送ったのは一人じゃなかったのか!」
「そうだけど……、あれ、誰そいつ?」
「知らねえよ! 軍じゃねえだろうな!」
「……嘘でしょ、こんな短時間で突き止められる? だって今、端末のバッテリー抜いていあるのに」
女は居場所の特定を警戒して、アジトからかなり離れた場所でメールを送った。その場でバッテリーを抜いたので、電源が入ることはないと思っていた。
「やるか?」
「ちょっとだけ様子見ようよ。廃墟マニアかもしれない」
モニターの向こう側で、男はきょろきょろと辺りを見回すと、監視室に繋がる道を進んでいく。
「どうするんだよ、今、あいつら上で寝てるだろ?」
「もしものときは叩き起こす。人質も連れて帰れば問題ない。『空き人員』はまだいたはず」
続けてモニターを覗き込んでいると、男はやがて来た道を戻り、入った場所から出て行った。
「……とりあえず行ってくれてよかったな」
「にしても、あの子遅いなー」
女が退屈そうに言う。既に一人捕まえてきたのに。
「行先は書いておいたから、問題ないんだけどなー」
「いくらおまえが《ワープ》も使えるからって、《痕跡探知》の能力者がいたらまずくないか?」
「そのために、わざわざ《記録消失》の能力も貰ったんじゃん。上だって、そのくらいの対策はしてるって」
「へー、そうなんですか。もしかして、上には《譲渡》の能力者がいるんですか?」
「「わっ!?」」
二人が飛び退くと、後ろに知らない少女がいた。
日本人形のような、少し不気味な顔立ち。
「だ、誰あんた!? いや、どこから――」
監視モニターには、そんな少女は映っていなかった。
お構いなしに、少女は棒読みのまま
「やはり谷地さんの能力は素晴らしいですね。協力してもらって正解です」
「いや、この部屋には鍵が――!?」
女は、入り口を見て絶句した。
ドアノブ部分が、キレイになくなっていた。
扉の下に、何やら粉の山ができていた。
「わたしの前に、あらゆる物質は無力なのです。さあ、人質さんはどこですか?」
少女が言い終える前に、男は自身の能力を発動する。
「……《分子運動抑制》ですか。じゃああなたが辺見さんを騙った悪い人ですね」
「はあッ……!?」
男は思わず腰を抜かしそうになった。
目の前の少女に、能力が効かない。
周りの大気は間違いなく凍っているはずなのに、その少女の周りだけ、まるでバリアを張ったかのように能力の手ごたえがない。
「おや、これは社長に感謝ですね。さて、喋るんですか、喋らないんですか?」
ゆっくりと相手が歩み寄ってくる。
「おい! あれ!?」
男が助けを求めて辺りを見回したが、女がいなくなっていた。
《ワープ》を使ったらしい。
「……そうですか。さっきの女の人ですか。分かったです。追いかけます」
少女は踵を返すと、ゆっくりと部屋を出て行った。
◆◆◆
「――――はぁっ!!!」
女は部屋を脱出し、人質を監禁している部屋に飛んだ。隣では『仲間』たちが寝ている。
ここはもうダメだ。
早く逃げないと。
寝てる奴らには囮になってもらおう。
こいつを連れて帰って。
それから――
「みーつっけた」
「ひいぃぃいっ!?」
人質を連れ出そうとした瞬間、入り口から。
金髪の緑色の目をした白人の少女がいた。
「あー、その子がさらわれた子かぁ。へえ、ふぅーん」
「あ、ああ、ああ、あ………」
「渡してくんない?」
女は即座にワープした。
この能力にも弱点があって、一定以上の質量を越えたものを長距離移動させようとすると、相当なフィードバックがある。
「ガハッ……、ゲホッ、ゲホッ……」
移動した先は屋外だ。
――なんとか逃げないと。
それだけが今、彼女の体を動かしていた。
「あのう、夜分にすみません。さらわれた女の子を探しているんですが」
「――――――!?!?!?!?!?!?!?!?」
今度は、悲鳴すら上げられなかった。
闇も深くなっている中、不自然に白い髪。こいつも見た目外国人っぽい。丁寧な物腰で話す、長身の女だった。
「あ、もしかしてその子ですか! 良かったぁ」
何でこの状況でそんな明るく話せるんだよ。
普通に探し物を見つけたみたいに言うな。
「じゃあ、連れて帰らないと――、あれ?」
再び女はワープした。
◆◆◆
「なんなんだよ、畜生!」
女は人質を連れて逃げ回っていた。即離脱したいのだが、行く先々に人がいるのだ。ワープも使いすぎると体力が持たないので、ここで一旦休憩せざるを得なかった。
一回分残してよかったと、そして最後の賭けに勝ったことに安堵しながら、女は木の陰に隠れる。
「許せよ、同士」
さっきまで自分がいた建物に向かって女は頭を下げる。
そして、この異常事態を考えてみる。
今、人質を奪還しようとしたのは3人。
1人は、日本人形みたいな顔した少女。
1人は、金髪で緑色の目をした少女。
1人は、白髪で赤い目をした女。
女ばかりだった。
決して狙ったんじゃないんです。
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