第35話 非常食は気が付くと賞味期限が切れている、もしくは近い。
異能力の始まりは、第二次世界大戦の末期らしい。
日本の化学兵器を開発していた部隊が、物資の少ない状態で、不利な戦況を打破するために作った薬。
元々は筋肉増強くらいにしか思っていなかったらしいが、思わぬ副産物が生まれた。
それが異能力である。
しかし、幾ら能力を持っても、使いこなせなければ意味がない。
結局、不利な状態で戦争は終わる。
だが、問題はここからだ。
日本は敗北を受け入れ、植民地状態だった土地を手放した。
しかし、戦力の放棄は拒否したのである。
普通だったら、その場でやられてしまいそうだ。
でもその時には、能力を使いこなせる人間がいた。
恐れをなした諸外国は、日本軍の《解体》から、《体制の見直し》で妥協したという。
日本は土壇場で、最後の一本の牙を残した。
――と、教科書はそう伝えている。
そしてそれから半世紀。
俺たちが生まれる少し前に、再び世界大戦が起こった。
第三次世界大戦である。
このときの戦争は、前の二つの規模を軽く上回る。
これまでの間に、日本以外の国でも、能力者が数多く生まれていた。
『科学と能力の融合によって、より大規模に、より多くの人命が失われつつあった』。
俺はこの説明文に疑問を覚えていた。
なぜなら、前の二つの戦争は、どちらも数年規模で長期化している。
にもかかわらず、第三次世界大戦のみ、期間が半年になっているのだ。
しかも、教科書の説明はここで終わっている。
終戦に関しても、「両陣営が戦力不足に陥ったため」としか書かれておらず、なんとこの戦争、勝者がいない。
それ以降は目立った大きな戦争は起こっていないものの、この日本でも、テロリストと呼ばれる集団が、まだいくつか活動しているという噂がある。
◆◆◆
唐突だが、臨時休校になった。
理由は緊急の職員会議だと言う。
――絶対のこの間の襲撃事件の件だよなあ。
「……それ、俺に言って意味あるのか?」
やることもないし、かと言って自主トレをするには、部屋は狭すぎる。
今日は久しぶりに体を休めようと思ったところに、真田から電話がかかってきた。
――そりゃあ、あるだろ。おまえみたいな人間からしてみれば、この手の事件は好物じゃないのか?
「俺は『手柄が欲しい』とは言ったけど、解決できない案件に首突っ込むつもりはねーよ」
真田が茶化すので、半分キレながら返す。
――知ってたか? 狙われてるのが、軍人の家族だけだって話。
「ああ、今朝のニュースでもやってたしな。うちのクラスだと、二瓶さんくらいだろ?」
――それ以外にも、5~6人はいるらしい。で、大人たちはVIPの警護ってわけだ。俺たち庶民は、自分で安全を確保しなきゃいけないんだよなあ。
「とりあえず、建物の中から動かないのが最善だよな」
――どう思う? 俺こんな事件を見るのは初めてなんだけど。
「俺もだよ」
真田の祖父は軍人だったらしいが、軍の機密を公開しようとして消されたらしい。
小宮山先生の話を聞いて以来、その会話は直接会っていないときは出さないようにしていた。
「まあ、自宅待機で終わればいいけどなあ」
俺は窓の外を見る。ヘリコプターと飛行能力者が、空を滑空していた。
◆◆◆
「ではこれより、緊急の職員会議を行います。まず最優先項目といたしまして、今回のターゲットになるであろう生徒たちのリストを先生方にお配りしています。2ページをご覧ください……」
軍服に身を包んだ男が、会議室を取り仕切っていた。
小宮山が資料に目を落とすと、自分のクラスの生徒も一人、リストに名前がある。
「我々はこの生徒たちを保護します。その他の生徒につきましては、先生方と、生徒自身で身の安全を確保してください」
随分な物言いにも聞こえるが、この学校の職員はほぼ全員、能力のランクは上位である。
「相手の組織は分かっているんでしょうか?」
「……正直なところ、海外の組織ではないかという疑いが強い、としか、現段階では言えません」
要は、何もわかっていないのだ。
それにしても、と小宮山は不審に思う。
先月の軍の暴走で、戦力が大幅に減っているのは知っている。
そのせいで、国の防衛力はゼロに近い。
しかし、とある民間企業に、その代理を務めている人間がいるはずなのだ。
今回の事件は、それが正常に機能していないことを意味している。
そもそも、軍としては人事の一新をしたかっただけであり、いなくなった戦力は、軍にとって不必要と判断された人材である。
そして新しい戦力の投入までのつなぎを、正式に依頼していると自分は聞いていたのだが。
「今の軍は人が少ないのですか?」
エリートっぽい教師が挙手もせずに質問する。
「……不慮の事故で、多くの犠牲が払われました」
死んでないだろ、と小宮山は内心でハリセンを振り回す。
「では次に、今後の警備体制についてのマニュアルを確認したいと思います。18ページをお開きください……」
どうやら、触れてほしくない事態が起きているようだった。
◆◆◆
昼過ぎ、小宮山先生が食べ物を持って部屋に来た。
臨時だったので、買い置きをしていない生徒が多かったのだ。
「目の様子はどうだ?」
「おかげさまで。まあ、あれは慣れですから。今日一日ゆっくり休ませますよ」
「そうか。えーと、おまえはカツカレーだっけ?」
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ、夕方また来るから。間違っても部屋から出る――」
爆発音が、鳴り響いた。
不穏な空気。
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