第34話 法則は作るのではなく、見つけるもの。
今日は地の文多めです。
「おまえ……遂にやったな……」
過酷な訓練の末、俺は自分の出せる速度をコントロールできるようになっていた。
自身のバリアの膜に、強い弾性を付加して、まるでスーパーボールのように跳躍して移動する。
これが、伊藤の意見を基に(ほとんど全部だが)俺が今日まで練習した内容である。
今までは、物を飛ばすときくらいしか使ったことがなかったが、これで自分を飛ばせるようになれば、レースでは一気に有利になる。
「このタイムなら、十分に渡り合える。よく動体視力を鍛え上げたなあ」
「花田先生と小宮山先生のおかげですよ。でも、物にするにはもう少しかかりそうです」
イメージで言うなら、バランスボールの中にいるようなものだ。
俺の能力は《範囲型》と呼ばれるタイプだ。調べて分かったことだが、体内にある《中心点》と呼ばれる場所から一定距離内においてのみ、能力が使えるらしい。
全方位に展開すると、ちょうど球体になる。
なお、ほとんどの場合は
俺の有効範囲は中心点から最大で半径3メートル。
ちなみに半径の長さは短くできるが、やっても持続時間は変わらない。
今までは球体の上半分しか出したことがなかったが、イメージしながら発動すると、なんと宙に浮いた。ボールの中で浮いてるような感じだ。
バランスを取るのに最初は苦労した。何せ浮いているので足場が不安定すぎた。しかも完全にバリアの形が球体の状態になっているので、ゴロゴロとあっちこっちに転がってしまった。
まずまっすぐ立てるようになるために3日。
その後は、バリアの性質をいかに素早く変化させられるか。
最初のジャンプで大移動ができても、そのまま地面に突っ込むと、どこに飛んでいくか分からない。
しかも俺の場合、地面に足がついていない状態でやる必要がある。
スーパーボールが思った方向に飛ばないときがあるが、あれに似ている。
故に、一度バリアの膜を柔らかくして、衝撃を和らげる必要がある。飛び石のようにポンポン飛ぶ作戦も考えたが、一度実行して明後日の方向に飛んでしまったので、今回は断念することになった。
初速で時速300も出すのだから、重力や空気抵抗は凄まじいのでは? という意見もありそうだが、このバリアはその点優秀である。
中にいる俺は一切の感覚の変化がない。温度、湿度、気圧、重力が最適化されており、外部からの影響を片っ端からシャットアウトしている。
感覚で言えば、流れる映像を見ているのに近い。
ただし、流れる景色を見極める力が必要だった。
俺が参加する競技は、山道なのだ。当然一直線とはいかないし、障害物だって多いだろう。
ただ飛べばいいのではない。
コースアウトはもちろんのこと、下手に障害物にぶつかれば、一気にコントロールを失ってどこに飛んでいくか分からない。
あまりに速さだけに固執してしまうと、まともな移動ができないのだ。
それを可能にするためには、動体視力をどうにかするしかない。
他の感覚は、ある意味バリアによって情報がカットされているからだ。
更にいろいろありまして。
「今日のタイム、山登って降りてくるまでに3分だ。これはいけるぞ!」
「先生、大会の前に一つ聞いておきたいんですが」
「ん? どうした?」
「二瓶さんみたいな、空間操作の能力者って、ぶっちゃけワープみたいなことできますよね?」
「……そうだな。二瓶の場合、自分がいる地点から目先50メートルの空間を捻じ曲げたり、圧縮したりできる。例えば、建物に向かって発動すると、間違いなく倒壊する。レベルだけで言えば、非能力者で構成された軍隊レベルだな」
「自分の周りの空間を操作して、弾道を変えたりするんですもんね」
「なんでそんなこと聞くんだ?」
「二瓶さんよりもすごい能力者がいたとして、空間を圧縮してゴールまで近道をされたら面倒だなと思いまして」
「……それはないな。片道50キロの道のりを空間操作すれば、地形が変わっちまう。それに、あの能力者はあくまで空間を操作できるだけだから、おまえみたいに空中移動をしようと思ったら、相当な訓練積まないと無理だ。そもそも、そんな規模でできる能力者は、学生ではあんまいないだろ」
「なら、いいんですが。そう言えば、最近軍が忙しいってニュースで見ましたけど、この大会は大丈夫なんですか?」
人が大勢集まるイベントは、特にテロリストに狙われやすい。今の日本だって、子どもでも知ってる組織あるくらいだ。
「……まあ、そこは心配しなくても大丈夫だ。開催者が全力で守りきるから」
そう言ってる割には、顔がおかしいが。
「次の週に体育祭があるけど、そっちの練習はどうだ?」
「これの訓練をしたおかげで、学校の敷地内なら大体問題ないですよ。ただ、人工トラップが不明なのは怖いですけどね」
「トラップを破壊するのはルール違反になるからなあ。俺も担当が違うから教えられないし」
「教えたら怒られるでしょう……」
「うん。免職だ」
この職業、免職の規準厳しすぎない?
油断したらいけません。
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