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カップ麺と呼ばれた男 ~とある能力者の成長物語~  作者: 岡部雷
落とし穴はどこにあるか分からない
32/60

第31話 能力ものには、真面目につっこんではいけない

時速300キロを地上で体感すると、いかにその速度がアホなのか。

想像に難くないと思う。



「その速度で移動して、無傷なのがこえーよ」



自身はマッハ6で移動する西山が、練習する俺を見て言った一言だ。


ここで彼女のような《速度操作》の能力者について少し解説しておこう。

この世界において、「時間の流れ」は操れないとされている。その代わり、それに近いものは存在する。


《絶対速度》と《相対速度》だ。


《絶対速度》は、その名の通り、単純に速い。ただし、脳が速度に追いつけない。猛スピードで走る車運転席に、赤ん坊を載せているようなものである。当然、速度を落とさない限り、制御は難しい。

そんな速度で移動したら、空気摩擦でヤバいことになるのでは? という意見もあるが、この能力者の皮膚から数センチは、本人の生命エネルギーでガードされている。これもひっくるめて《絶対速度》なのである。

ちなみに、この速度で物にぶつかると、跡形も残らないらしい。


《相対速度》は、先ほどの時間を操るのに近い。本人は普通に動いているつもりでも、周りがまるで動いていないように見える。

体感時間が変わるのだ。

雨の水滴が止まって見える場合は、こちらの能力が発動している。

動き方は、自分の本来の体力そのままに動ける。こちらの方が有利に思えるが、体感時間が異様に伸びるので、長距離の移動は疲れるらしい。


《速度操作》の能力者は、この二つを上手く組み合わせて使っている。そうしないと、いろいろ大変なのである。


西山を例に挙げて考えるなら、彼女はマッハ6で移動が可能だが、これには穴がある。

公式がある。



《絶対速度(倍率)》÷《相対速度(体感時間)》=持続時間




彼女は、最高時速がマッハ6。

音速を秒速340メートルと考えた場合、時速は7344キロ。


逆に言えば、それが西山の限界である。

制御できないほどに加速した結果がマッハ6であり、常にその速度で動けるわけではないのだ。

そもそも、マッハ6で地面を蹴ったら多分地面に足が刺さる。


さらに、持続時間の1時間は、もっとも倍率が低い時の時間だ。あまりにも加速を速めると、持続時間は一気に急降下する。

ちなみに、1時間持たせようと思ったら、速度は普通の人の1.5倍らしい。


それでも、燃費の悪さワースト5に入る、この手の能力者としては優秀な成績である。



◆◆◆



鶴宮が職を失った翌日。

やることもないので、買っただけで読めなかったシリーズものの小説を読んでいると、携帯が鳴った。

相手の番号には見覚えがある。



――鶴宮くん! 我々が悪かった! 戻ってきてくれ!



解雇されたのは、つい昨日のことである。



「何があったんですか?」


――あいつが国防を拒否してきた! その上に能力を使った! 君が復職しないとこのままにすると言っている!


「そっちでどうにかするんじゃなかったんですか?」


――なぜだ!? 奴はなぜ君の言うことは聞くんだ!? なぜ我々に従わない!?



鶴宮はざまあみろとも思わないし、思ったところでどうしようもないと思っている。

ただ。



「人の話には耳を傾けましょうよ。あれだって、感情抜きで動くほど機械的じゃないんですから」


――とにかく、早くだぞ! いいな!



乱暴に電話が切られた。

直後に、鶴宮が不機嫌そうな表情に変わったのは、小説の続きがしばらく読めそうにないからだ。



「あと1冊なんだけどなあ……」



◆◆◆



「……社長、本当にどうするんですか。軍と警察に能力使うなんて」


「臨時の有給だと思えば楽なんじゃない? 今の日本は攻め放題だよ? なにされても文句も反撃もないよ?」



いつになくテンションの高い社長の体からは、どす黒い液体のようなものが流れ出ている。



「つまり、私が国の防衛を放棄すれば、この国は多分死ぬ」


「それがお望みですか?」



今日華は、この人なら多分やるだろうな、とは思っていた。

国家レベルの問題を、簡単に引き起こすのだ。

押してはいけないボタンを、押すなと言われる前に押すタイプである。



「まあ、頭が冷えたら回復してもいいでしょう。ああそうだ。今回、鶴宮さんを失脚させようとした人には、異動をお願いしたいな」


「……案外まともなこと言うんですね。私もちょっと怒りましたけど」


「あの人には世話になってるからねー」



社長の口調は軽いが、その間にも、足元からは大量の黒い物体が量を増して流れ続けている。



「……さすがは、最強の能力者ですね」


「違うよ今日華ちゃん」



社長は、すぐさま否定した。

トーンも、数段階低くなる。



「わたしの能力は、世界で最も()()さ」

裏方は、これでしばらくさよならです。


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