第28話 方向音痴にとって、来た道は別の道。
小宮山先生は、あの夜以来、毎日付き合ってくれていた。
しかし、俺の能力を見て思うことがあっても、決して口出しはしなかった。
◆◆◆
ある日の放課後。
俺は机に突っ伏して石のように固まっていた。
後頭部を誰かが指でつつく。
「……どうした? 最近授業中に居眠りしすぎじゃね?」
「色々あんだよ。こっちは能力開発の授業遅れ気味だし」
夜の特訓が連日に及んだせいか、俺の体力も回復が追い付かなくなってきていた。
今日で4月が終わる。大会まであと3週間強。
「でも、代理の先生いるんだよな?」
「伊藤よ、教え方の方針が違うとな、まるで成果って出ないんだよ」
花田先生の代理は、四十過ぎのおばさんだった。ベテランだから、と安心したのが間違いだった。
「……花田先生の授業が、俺たちのことを考えてたってのがよく分かるよ」
あそこまで退屈な授業も中々ないだろう。
ただ1時間走るだけ。それを毎日。能力の使用は禁止され、俺は増々立場が危うくなっていた。
「おまえ、人の評価すぐ変わるよな」
「うるせえ、人間なんて大体そんなもんだろ」
さすがに腹が立ったが、疲れの方が重い。
「伊藤は、能力の向上はあったのか?」
「いや、まだだ。いかに相手の懐に入るかがキーになってくるからな。相手の能力を回避するために鍛えてる」
「なるほどねえ」
伊藤の能力は《無効》。ただし、能力ではなく、能力者本人に触らないと発動しない。
故に、接近する必要があるのだ。
「頑張れば能力に触れても無効化できるかもしれないから、努力は惜しまないようにしろって言われた」
「もう最終段階じゃねーか」
完全に無効化できるようになれば、このタイプとしては完成である。
こっちはまだ小宮山先生の言いたいことすら理解していてない。
「何か見落としてんのかな……」
「何やってんの?」
入り口に桐山がいた。
「おまえらじゃ頼りにならんしな……」
「おいおい、聞き捨てならねーこと言うじゃんか」
こういうお節介なところもこいつのいいところである。
ただし、女子だけど怖い。顔が。
「あたしらが頼りにならないって?」
「じゃあ聞くけど、桐山は俺の能力ってどう思う?」
「どうって?」
「俺の能力は言わなくても分かるだろ? 目に見えないバリア。その壁の硬さは自由に変えられる。ゴムみたいな弾性も持たせられる。発動時間3~5分。俺の能力に、これ以上のまだ知られざる可能性があると思うか?」
「……ちょっと見せて」
言われた通り、能力を発動する。その瞬間、身に着けている物以外の全てのものは、バリアの外に追い出される。机も、椅子もだ。
「――で、この見えない壁はあんたの意思で硬さが変わる、と」
桐山が指でつつく。
「……なんか空気の抜けたボールみたい」
「それっぽい硬さにしてるからな。これにすると物が飛んできても別の場所にぶっ飛ばさずに済むんだよ」
「じゃあ、もっと硬くなるの?」
「見てみるか?」
「うわ、ほんとに変わった!」
「信じてなかったのかよ……?」
それを見ていた伊藤が、「あ」と手を叩いた。そんなリアクションする人初めて見た。
「もしかして、小宮山先生が言いたかったのは、弾性の方じゃないか?」
「何故に?」
「単純だろ? それ結局、バネじゃん」
「でもこっちは、飛んでくるものを跳ね返したり別の方向に飛ばすくらいしか用途ないんだけど」
「それでいいんだよ!」
伊藤が「ある提案」をした。
「えー、でもそーゆー発想はなかったかもな……」
考えてみる価値のある作戦だった。
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