第26話 力は制御できなければ、チートにはなり得ない。
「いやおまえら、自分の立場分かってる?」
小宮山先生の反応は冷たかった。
「いいか? 能力者ってのは普通の視点から見ればすごい人かもしれねえけど、実際は文字通りの意味で『戦力』なんだよ。軍や警察みたいな組織に属するならまだしも、能力を使って大規模な犯罪だってやれるんだ。おまえたちはその両方になり得る。最悪全員がテロリストになるかもしれない」
そんな奴らを制圧できなければ、《特別能力者学校》の教諭は務まらないらしい。
「しかも、勝ったのは榎本だけでだろ? たった1人相手に勝てんかったらそりゃ懲戒にもなるって」
厳しい世界だった。
「なんとかなりませんか?」
「退職に追い込んだ張本人が言ってもなあ……」
しばらく頭を抱えていたが、「あ」と顔を上げる。
「何か策があるんですか!?」
「知り合いにな。期末や中間のときに試験官をやる人がいる。その人の口添えをもらえれば」
「花田先生は先生を続けられるんですね!?」
西山が割り込んできた。
「そーゆーこった。後で連絡してやるから、先にホームルームを済ませるぞ」
小宮山先生は踵を返す。
◆◆◆
「それはまずいね」
国際能力者人権団体の代表は、部下から火急の案件を聞かされていた。
「彼女、今軍に戻ったら、間違いなく消される。それで、どうする?」
――谷地さん経由で軍からの口添えがあれば、なんとか大丈夫だと思うんですよ。鶴宮さん辺りにでも頼めば。
「うーん、それはちょっとキツイかなー。鶴宮さんは軍の人間としては権力持ってるけど、教育現場にまでって言われると微妙。しかもあの人、非能力者だし」
谷地個人は、もっと適任な人物を知っている。だが、ここでその人物に借りを作るのは、彼女としても不本意だった。
――あ、『あの会社』の人はどうですか?
「私が頭の中で切り捨てた選択肢を出さないで」
人間、考えることは似通っている。
「あそこに頼むってのは、凶悪犯の死刑判決を強引にひっくり返すくらいの重罪よ? もっとも、社長をその気にさせれば、こちらに火の粉は飛んでこないだろうけど」
あの気まぐれを動かすことができれば、この状況はたやすく変えられる。だが、性格的にあの社長はそういう類を嫌うのだ。
谷地はリスクとリターンを天秤にかける。
「情報源が消えるってのは大きいんだけどねー……」
「何が?」
「うわっ!?」
「そんなに驚かないでよヤッチー。傷ついちゃうなあ、もう」
「何しに来たの!? アポもなしに!」
彼女の目の前には、その『適任』がなぜかいた。
手には大きな風呂敷包みを持っていて。
「うん? いや、昨日、休暇に付き合ってもらったじゃない? お礼にケーキと山吹色の饅頭持ってきたんだけど」
「一応言っとくけど、そっちの依頼をこっちが受けたんだから、賄賂みたいに言わないでくれる?」
「思うんだけど、このご時世、賄賂も新しい呼び名を考えるべきだよね。だって金じゃなくて紙だし。業務用板チョコなんてどうだろう?」
「……業務用板チョコに謝りなさい。それより、今電話してるんだけど」
「知ってる」
元より、目の前の存在に「常識」は通用しない。
「でもさあ、会話の内容から察するに、私のことでしょ?」
「……ちょっとピンチなのよ」
「君の同僚?」
「いや、こっちにとって必要な情報源が消えそうなの」
「あら大変」
――谷地さん? 誰かいるんですか?
電話の向こうで、部下が能天気な声を出す。
誰か分かれば、卒倒しそうなので黙っておく。
そもそも、この二人の間に面識はない。
「……ちょっと友達がね。彼女の退職はまだよね? 明日までには策を立てるから」
谷地は電話を切った。
「で? 詳しく聞こうじゃないの」
「……《特別能力者学校》って知ってるよね?」
「能力者の子どもを、軍と警察にだけ渡すブローカーのこと?」
身も蓋もない言い草に、谷地はコケた。
「あんた本当にストレートねえ……、まあいい。今そこに、うちの部下を行かせてるの」
相手は目を丸くした。
「おたくら軍と警察に喧嘩売りまくってるじゃん。その一角に部下を送るって」
「有能な能力者を無駄死にさせたくないのも、人殺しにしたくないのもそっちと同じ方針でしょ? だから真面目に聞いて。今、わたしの部下の同僚に、軍の特別審議官がいる。そいつがポカをやらかしたみたいで、退職させられそうになってるの」
「ん? 軍の人間が減るなら好都合じゃないの?」
相手の言うことももっともなのだが、今回は事情が違う。
「そうもいかない。年は若いけど、軍の中枢に近いから、情報はかなり握ってる。正直、価値は高い」
「なるほど。それが退職させられるってことは、イコールで明日の日の出は見れないわけだ」
「そういうこと。だから、なんとか退職を阻止したいんだけど、生憎、適任がいないって話」
「あー、それで私に頼ろうとしたのか。何となくわかったよ。要するにあれでしょ? 《退職までの復帰条件》を満たさせろって話?」
「有体に言うと、そうね」
「引き受けるかどうかは後にするとして、ちなみにその先生の能力は?」
「範囲型の《流体操作》。なんとかできそう?」
「まあ、うちの参謀に任せるよ」
意外な反応に、谷地は衝撃を受けた。
「え、受けてくれるの!?」
「わたしはヤラセはあんま好きじゃないけど、好きにさせてくれるなら文句は付けない。じゃあ、このレンガは報酬として持って帰るね。大丈夫、ケーキはあげるから」
「……あんた現代版の賄賂の隠語、知ってるんじゃない」
さて、策とは……?
毎日投稿します!
面白いと思ったり、続きが気になるなぁと思ってもらえたら、ブクマ登録や評価をいただけるとモチベーションに繋がります!
ご意見、ご感想もお待ちしてます!




