第25話 ドミノが途中で崩れたときの絶望感は半端じゃない。
うちは、大人に勝ちたかった。
何をするにも、「子どもだから」と許されなかった小さいころ、能力が発現した。
誰にも負けない《速さ》が、唯一の武器であり、宝物だった。
◆◆◆
「ぐはっ……!」
盛大に先生が吹っ飛ぶ。もちろん、受け身を取っているのでダメージとしては通らないだろうが。
「え、榎本くん? 何をしたの!?」
砂が口に入ったらしく、ペッペッと地面に何度も吐き出す。
「単純なことですよ。まさか教師なのに分からなかったんですか?」
俺はあえて挑発する。
ちょっとした仕返しのつもりだった。
「……ガキが。大人舐めてんのか?」
思った以上に耐性のない人だった。
……え、ちょっと待って。
その右手に砂を収縮させてるのは何なんですか。
まさか、あの真空砲もどきを人に向かって撃つんですか。
「大人舐めるとこうなるんだよ」
「教師の言っていいセリフじゃねえ!」
直後、手に収まる量の砂が、アホみたいな速度で俺に襲いかかる。
「俺がこの手の能力者じゃなかったら、死んでるよドアホ!」
幸い、バリアは健在だ。
今度は、受けた衝撃を吸収する。
「……なるほど、あんたはそのバリアの使い道を理解したってことでいいのね?」
「生憎、まだ可能性に気付いてないだけですよ。使えるようになったのが中二の頃なんで」
危ないと思って今までやらなかったことだが、俺の《バリア》は、どうやら球体のような形をしている。
そして、その見えない膜には、俺の意思で性質を付加できるようだった。
さっき先生が来たときは、いわば、空気をパンパンに詰めたバランスボールに突っ込んだようなものだ。
こちらは微調整がまだ追いつかない。
後者は、空気のやや抜けたボールをイメージしている。その方が体力を使わないのだ。
「俺は先生の授業嫌いじゃないんで。ただ、追い回しながら悪口言うのやめてくれません?」
「……チッ」
教師のくせに舌打ちしやがった。
◆◆◆
授業の後、俺は隣のクラスの人から胴上げされていた。
今気付いたけど、これ結構怖い。
「スカッとしたよ! これであいつもデカい顔できなくなった!」
「ホントかっこよかった!」
「うちのクラスじゃないのが残念だなー」
これから花田先生は、「生徒にキレたけど敗北した先生」として知れ渡るだろう。いや、そんなつもりはないんだけど。
「たまたま相性が良かっただけだよ。下手に調子に乗って成績落とされたくない」
これは俺個人の切実な願いだ。
この先将来がかかっている。
西山に肩を叩かれた。
「榎本、ちょっといい?」
「うん?」
◆◆◆
「懲戒免職!?」
思った以上に大事になっていた。
「『生徒に負けるような教師は必要ないから、今日限りで辞めてもらう』って。さっき職員室で上の先生たちが喋ってた」
「oh……」
「うちも正直、花田先生の授業はあんまり好きじゃないけど、一度負けただけで退職ってのもな、って」
西山の言う通りである。たかが一度敗北したくらいで教師の首を切っていったら、一体何人の退職者が生まれるのか。
しかも、花田先生は今年、教職に就いたばかりだそうだ。
先生の人生を奪ってしまった。
「こ、校長に直談判してみる」
「無理だよ。だってもう辞職願を出させたって」
「ええええ……」
完全に俺が悪者じゃないか。
そこへ。
「どうした? 浮かない顔してるな。帰りのホームルーム、始まるぞ?」
面倒そうな顔が、今は輝いて見えた。
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