第22話 相手を正面から見ているつもりでも、相手は同じ目線ではないかもしれない。
ドッジボールの試合としては、悪くない展開だ。
だが、1人だけ渋い顔の女子がいた。
「どうする? 頭数だとこっちが有利だけど」
江川さんとしては、今の柊さんの行動はまずいと思ったようだ。
正直、俺もそう思う。
「外野に気圧操作がいるとなると、確かにちょっと面倒だよな」
「……あれ、うち悪者?」
「そこまでは言わないけど、渡す相手は間違えたかも」
せめて伊藤にすれば、というのが江川さんの主張だ。理由は、あいつはこの手の試合では狙いやすいからだ。
「でも、一番遠くにいるし」
「反射神経はいいんだよ。江川さん。ボール貸して」
俺は貰ったボールを、一旦向こうの外野に渡す。
「さーて、あいつらは誰を狙うかな……」
◆◆◆
結局、ボールを受け取った深須が狙ったのは、伊藤だった。
定石である。
今現在、俺の真正面の外野を宇田川、左手に深須、右手に渡辺といった具合だ。
もう一人の外野は、《透明化》を使う佐藤さんだ。能力を使用しないなら、女子の中では最も運動神経がいい。
「今は後ろにいるけど、頃合いになったら投げてもらう。そうなったら、田部の能力でまた的を作ればいい」
それが彼女に託した作戦だ。彼女も岩田の《迷彩》と同様、自分の姿を消すことができる。
ボールが高速で移動する中、暇になった田部が
「にしても、あいつらすげーな。あの速度のボール全部かわしてる」
「そりゃそうだろ。真田の《知覚強化》で、どこから飛んでくるのかなんてすぐにばれる」
「それにしても、どうして桐山は狙われないんだ?」
「《液体操作》は最悪、自分の体内にある液体を操作して外部に出すこともできるんだ。ただ、衛生上と尊厳を考えると、あまり良いものじゃないけどな」
俺が最初に言った戦力外とは、《睡眠》の今田さんと桐山である。
伊藤は逆に、最も警戒していた。
「《無効》の能力者って、結構頭が切れるからなあ」
苦手なタイプだ。
「じゃあ、伊藤と誰かがぶつかれば、そいつの能力解除できんじゃね?」
「……小宮山先生にばれるぞ?」
先生は見ていないようなふりをしているが、よく見ると、瞬きをほとんどすることなく、ボールを目で追いながら、俺たちのことも観察している。
あの先生、何者だろうか。
◆◆◆
その後、ボールを西山に奪われ、秋山さんがアウトになった。
「そろそろ勝負賭けに行くか」
田部の言葉を合図に、女子二人が動いた。
「おい! それ反則じゃん!」
こちらの内野のエリアに、四方に炎の壁が現れる。
女子の一人の両手から火が噴出している。
「一応自陣だからセーフだ」
小宮山先生、こういうところはシビアだ。
俺たちの考えた作戦とは、終盤まで《火炎操作》である加藤さんを温存し、頃合いを見計らって、彼女の能力で動揺させる。その隙をついて一気に片を付ける。というものだった。
真田の知覚強化を封じるには、光、音、熱の要素を持つ彼女の能力は不可欠だったのだ。
炎でこちらの様子は見えない。
「あうっ!」
福原さんアウト。
「いたっ!」
桐山アウト。
「あと3人か……行けるな! 熱いけど!」
炎が結構近距離にあるので、漢字としてはこちらが妥当だろう。
ちなみに床を焦がすと怒られるので、江川さんの能力で床には炎の接地部分には風を流しまくっている。
コートの中央に4人が固まって、柊さんの《温度操作》で加藤さん以外の安全を確保する。
俺の能力はこんな環境でも動けるので、今は俺の能力でボールをやり取りしている。
このバリア、熱や衝撃を吸収するだけではなく、受け止めた物体を弾くこともできるのだ。くっつくわけではないので、調整は難しいが。
しかし性質上、あと2分で決着に持ち込む必要がある。
だが。
「ちっ、まだか!?」
試合終了のホイッスルが鳴らない。
それどころか。
「ゲフッ!?」
なんと、頼みの綱だった加藤さんにボールが当たった。
炎が一瞬にして消える。
「なんでだ!? 真田の能力は封じたんじゃなかったのか!?」
田部が叫ぶが、俺の脳も理解が追い付かない。
そうしている間に、江川さんと柊さんもアウトになった。
「くそ、どこだ!?」
田部が転がっているボールを見つけてとろうとするも、外野に転がり、《気圧操作》の浜田によって、アウトになる。
「一気に形成が逆転したな」
さっきのお返しとばかりにニヤニヤしている。
浜田の後ろに立つ人物を見て、この急展開のからくりが分かった。
「おーい、山田さんかーい……」
同時に、俺の能力も限界を迎える。
今度こそ、試合終了を告げる笛が鳴る。
彼女の能力は《伝達操作》。いわゆるテレパシーが使えるのだ。
ドッジボール編は、次回後日談です。
毎日投稿します!
面白いと思ったり、続きが気になるなぁと思ってもらえたら、ブクマ登録や評価をいただけるとモチベーションに繋がります!
ご意見、ご感想もお待ちしてます!




