第2話 高確率で起こるラッキーって、ラッキーと呼んでいいのか?
4月28日 五十音順の出席番号なので、名前を少し変更しました。
「渡辺先生は急病のため、ここからの説明は、副担である小宮山が務めまーす。とは言っても、入学式までは時間もあるし、説明は入学式が終わってからでもいいので、今は自由にどうぞ」
若い男のやる気のない声が響く。出席簿から顔をあげない時点で、生徒に興味はなさそうだ。
流れ込んできた水は、ベランダから外に排出された。
問題の二人は、学年主任と教頭が職員室に連行していった。
小宮山の気だるそうな声はは続く。
「とりあえず、江川、浜田。濡れた服は乾いたか?」
俺の前に座っていた女子、改め江川と、もう一人の男子、浜田は、風を操る能力者だった。
クラスのほとんどの人間がびしょ濡れになってしまったので、ほぼ全員分を乾かされていた。
制服が全く濡れなかったのは、4人。
そのうちの一人が俺だ。
「へえ、よく避けたな」
制服が濡れなかった一人が話しかけてきた。
坊主頭に、筋肉質な体。
「俺は真田太一。能力は《知覚強化》だ」
「俺は榎本優哉。よろしく」
真田の能力は、五感が敏感になる。制御を間違えるとその感覚を失いかねない諸刃の剣である。
おそらく、聴力を強化して、水音を聞き取ったのだろう。
「あっちの女子二人は、どうやって避けたと思う?」
向こうにもう二人、この危機を回避した女子がいた。
自分のことで精一杯だったので、あの二人がどうやったのか気になった。
「ああ、見てたよ。片方はスピードが上がってた。もう片方は、おまえと同じで反応が素早かった。おまえ、何の能力者なんだ?」
視覚も同時に強化していたようだ。器用な奴である。
「《バリア》。ただ、まともに使えるようになって1年も経ってないから、緊急の時以外は使わないようにしてる」
「あー、あれか。俺の知り合いにも同じ能力者がいるけど、あれってほぼ無敵だよな。発動しっぱなしでも長時間動けるみたいだし」
「ああ。そうなりたいよ」
俺個人としては切実な願いだ。
なにせ、俺の能力は――
「じゃあ、そろそろ時間だから行くぞー、出席番号順に、廊下に並べー」
相変わらず、だるそうだった。
◆◆◆
入学式に新入生が二人もいないという異例事態もありながら、進行は問題ないようだった。
無視することにしたらしい。
教室に戻ると、席にそれぞれ、憮然とした女子と、困り顔の男子がいた。
「あいつ、今日一日でえらい敵作ったな」
真田が耳打ちしてくる。
「知り合い?」
「俺と同じ地方出身だ。学校は違ったけど、地元じゃ有名だ」
真田はさらに声を落として、
「桐山茜。能力は《液体操作》。かなりガキの頃に能力が発現したから、熟練度だけ見れば俺よりも上だ。ただ、だから不思議なんだよ」
「何が?」
「どうして、教室が水浸しになったのか」
質問の意味を捕えかねていると、
「あいつが能力の制御に失敗したって話、聞いたことないんだよ。だってそうだろ? 液体を操作できる人間なんだぜ?」
分かった。
つまり、彼女が教室に来たとき、能力をきちんと使っていれば、あんな事態にはならなかったはずなのだ。
その時まで、桐山がきちんと制御していたから、廊下は濡れていなかった。濡れたのは、教室の中だ。
「あの男子が、原因だと思うんだけど……」
「俺が聞いてみる。席が隣だし」
じゃあ頼むわ、と言う真田と別れ、自分の席に向かう。
「さっきは災難だったね」
「え? ああ、まあな……」
不意に声を掛けられたことに驚いたのか、その男子はビクッと反応した。
「俺、榎本優哉。能力は《バリア》だ」
「ああ、俺、伊藤光太郎。能力は……人前だとちょっと」
最後だけ、囁くような声だった。
「ふうん。まあ言いたくなければいいけど。それより、あの女子と何で喧嘩してんの?」
伊藤は苦笑いしながら、
「学校来る途中で、あの子とぶつかったんだよ。で、『変なとこ触った!』って言いがかりつけられて」
……どこのラブコメの主人公だ。
「で、なんで職員室に呼ばれたんだ? 別に何か壊したわけじゃないよな?」
「……あの子が教室に来るときに纏ってた水。あれ、一ヶ所の水道の蛇口全部開けてかき集めたみたいなんだよ。それで、蛇口を閉め忘れたせいで大人が怒ってさ……」
彼女なりにも、川とか側溝の水は使いたくなかったようだ。かと言って、大気中に漂う水分は気体だから、能力で操作できない。
「まあ、お疲れ。今後ともよろしく」
「ああ、こちらこそ」
これが、俺と彼との初めての会話である。
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