崩壊
目が覚めると、そこはいつもの風景だった。曖昧ではあるが、昨日は確か体調が悪くなって死ぬかもしれないと不安になったはずだった。でも俺は生きている。それどころか今はすごく体調がいい。昨日のは一体なんだったんだろか?いや、考えても仕方がない。今がいいのならそれでいいじゃないか。なにをこんなに悩んでいるのだろか俺は...。
今日は土曜日、独り身のおれにとって誰もいないこの家は退屈で仕方がない。さて一体なにをしようか退屈しのぎに見ていたテレビは番組からCMに切り替わった。俺はなにも考えずただ呆然と見ていた。ふとある大手のレンタルショップのCMが流れた、何でも新作が全作品100円セールをしていたのだ。そういえば昨日見ていた映画もシリーズ大一作品目で、二作目が新作としてレンタルを開始していたはずだ。
暇潰しに見てみるか。
そう思った俺は、近くのレンタルショップにお目当ての映画を借りにいった。店に入り、映画を借り、帰って見る。これが今日の俺の一日のスケジュールになるとそう確信していた。だが現実はちがった。店内に委員長がいたのだ。俺に気付いた彼女は
「あら、奇遇ね」と言った。
「なにやってんだよ、お前こんなところで。」
俺は何故かこう返してしまった。
彼女は不思議そうな感じで
「レンタルショップにいるのだからなにか映画でも借りに来たのに決まってるでしょ?」
彼女の言うことは恥ずかしくなるぐらい正論だった。確かにその通りです。
「あなたはなにを借りに来たの?」と委員長に質問されたが素直に借りに来たのがヒーローが活躍するものなんて言えなかった。だから俺はまだ決めてないと嘘をつき、逆に委員長に聞いた。
「私が借りるのはこれ!」
まるでおもちゃを買ってくれた幼女のように目を輝かせながら俺に見せつけてきたのは昨年、少し有名だった恋愛映画だった。
「普通の恋愛映画だな。」
「えぇー!?普通とは失礼ね!あなたは恋愛映画とか見ないの!?」
「見ねぇよ、だいたいこんなの普通の美男美女がただいちゃついてるだけじゃねぇか。」
「ただいちゃついてるとは失礼ね!だいたいこの話の内容を知っているの!?」
「あのーすみません。あまり騒がれると他のお客様のご迷惑になりますのでー。」
委員長と口論していると、店員さんに注意されてしまった。
「す、す、すみません、以後気を付けます。」
「すみませんっす。」
「ちょっと!あなた、もっと真面目に謝りなさいよ!」
「いえ、こちらも特に問題はないので結構です失礼しましたー。」そう言って店員は棚の整理に戻っていった。
「悪かったな委員長、俺のせいで」
「あなたは悪くないわよ、私が勝手に熱くなっただけだし。」
「それでも恋愛映画を観てもないのにバカにするのはいただけないわ、バカにするならまず観てからバカにしなさい。」
そう言って委員長は自分の持っていたDVDを俺につき渡した。まあ他にもなにか借りようか思っていたところだし、お目当てのものと一緒に借りてみようか。
「サンキュー委員長。」
「いえいえ、明後日学校で感想聞かせてね。」
「おう」
「そういえば委員長、今日は午後から雨だけどちゃんと傘持ってきてるか?」
「え!?そうなの?しまった傘持ってきてない。」
そんなことを言う委員長は今にも泣き出しそうだった。...以外と打たれ弱いんだな。
「確か、委員長って帰り道途中まで一緒だったよな、俺は傘持ってきてるし、なんなら送ってやろうか?」
「え?いいの!...でも悪いし…」
「別に、いいよ全然問題ないし。」
何となくではあるが目の前に困っている人がいて助けてあげられないのは何か俺自身が惨めな気持ちになる。それに委員長には普段からよくしてもらっているしな。
「じゃあお言葉に甘えて。今度なにかお礼をさせて。」
「わかった行こうか。」
会計を済まし、二人で店を出た。外はバケツの水をかぶせたような大雨だった。お互いに濡れないように体を寄せあって前に進んだ、少し気持ちが熱くなった、女の子と相合傘をするのは初めてだったからだろうか?
ほとんど無言のまま。俺たちは歩いた。