第78話 日常は何処までも
「レッドー、レオンー、フレアー、ムーヴー、御飯だよー」
荷車から神果を下ろして積み上げて、牧場の何処かにいるレッドたちを呼ぶ。
僕の声を聞きつけてやって来るレッドたちは、今日も元気一杯だ。
神果の山に我先にと頭を突っ込んで、もりもりと神果を食べ始める。
それを、僕は微笑みながら眺めていた。
「お日様が気持ちいいなぁ」
目の上に手で傘を作って、空を見上げる。
小さな雲が風に乗って運ばれていく。その下を、鳥の群れが鳴きながら飛んでいった。
今日も、世界は平和だ。
こんな日には皆を連れてピクニックにでも行きたい気分だね。
それもいいかもな、と考えながら、追加の神果を荷車から下ろす。
「キラー」
家の方からメネが飛んできた。
彼女は両腕を広げて、僕に言った。
「卵が動いたよ。もうすぐ生まれそう!」
「分かった。今行くよ」
神果をレッドたちの前に置いて、僕は荷車に手を掛けた。
庭先に荷車を置いて家の中に入り、手を洗って生命の揺り籠の前に座る。
卵は、今孵り始めたようだ。てっぺんに、小さい罅が入っていた。
「今度は何のエルが生まれるのかなぁ」
卵を見つめながらそう言うメネに、僕は苦笑しながら言った。
「何のエルでもいいよ。元気に生まれてきてくれれば」
生まれてくるエルは、例えどんな姿をしていても、僕たちの大切な子供なのだ。
僕たちはエルたちを心から愛して、育てていく。そこに気持ちの優劣なんてない。
卵のてっぺんが欠ける。そこから綺麗な色をした嘴が覗いた。
「……頑張れ」
僕は握り拳を作って卵に声を掛ける。
それに応えるように、卵の罅は急速に大きくなっていった。
真っ白でほわほわの羽毛がちらちらと見え隠れしている。
何だか、メロンが生まれた時のことを思い出すね。
「これは……シャインバードかな?」
白い羽毛を見てメネが小首を傾げた。
僕はそうかもねと言って、指先を殻の陰から覗いている羽毛に近付けた。
……温かい。
この子が一生懸命生きている証が伝わってくる。
無事に生まれたら、抱き上げてやろう。そして、こう言うんだ。
卵がふたつに割れた。
中から出てきた真っ白な小鳥は、よたよたと揺り籠の上を歩いて、ぴぃと鳴いた。
それを抱き上げて、僕は微笑みながら声を掛けた。
「生まれてきてくれてありがとう。これから宜しくね」
──牧場は、少しずつ大きくなっていくだろう。
どうか、これからも見守っていてほしい。僕たちが紡いでいく生命の物語を。




