第75話 永久に彷徨え
みし、と背骨が軋む。
ウロボロスが僕の体を食いちぎろうとしているのだ。
僕は何とかウロボロスの口の中から脱出しようと身を捩じらせるが、がっちりと食い込んだ牙は僕の腹をしっかりと咥えていて離さない。
鋭いものが肉に刺さる感覚。電撃のように腹を貫く痛み。
僕はたまらず声を上げた。
「離しなさい!」
カエラが火球をウロボロスの頭めがけて撃つ。
火球はウロボロスの右目を直撃するが、ウロボロスは堪えていない様子で、僅かに首を振っただけだった。
じわり、と流れ出た血がウロボロスの口を濡らし、雫となって落ちていく。
痛みと、恐怖と。色々な感情が頭の中を目茶苦茶に駆け巡る。
パンクしてしまいそうだ。
「……エル……」
僕は喉の奥から声を絞り出した。
僕は、エルが来るまでの時間を稼げなかった。
このまま、僕はウロボロスに食われてしまうのだろう。
悔しくて、涙が出た。
「……ごめん……」
頬を濡らす涙が熱いと心の隅の方で思いながら、僕は目を閉じた。
ウロボロスの口に力が篭る。
ドッ!
きしゃああ、とウロボロスが叫び声を上げた。
口が目一杯に開かれて、僕の体が中からずるりと零れ落ちる。
そのまま、僕は地面へと落下していった。
固い地面に背中から叩きつけられ、僕は悲鳴を上げた。
牙が突き刺さった痛みと体を貫いた衝撃から来る痛みが脳味噌を激しく揺さぶる。今までに感じたことのない感覚に、意識が持っていかれそうになった。
僕は最後の力を振り絞って、閉じていた目を開けた。
僕の目は見た。
エルが、ウロボロスの首を切り落としたところを。
ぶしゃ、と大量の血が雨のように降り注ぎ、僕の全身を濡らす。
生ぬるくて、生臭い。
魚屋の臭いに何となく似てるな、と何処か他人事のように思った。
「……いくらお前でも、首を落とされては生きてはいられないだろう」
胴から離れて落ちていく首を冷静に見下ろしながら、エルは言った。
「冥府を永久に彷徨え」
ぐらり、とウロボロスの体が傾く。
巨大な樹木が倒れるように、それはずしゃりと地面に横たわった。
「……そんな、ウロボロス……!」
驚愕の声を上げるラファニエル。
遂に倒したんだ……あの邪神を。
流石エルだ、と思いながら、僕は目を閉じた。
僕に呼びかけるカエラとメネの声が、遠くにある小波のように聞こえてきた。




