第71話 間一髪
僕は目をぎゅっと閉じて体に襲いかかるであろう衝撃を待った。
目の前が閃光に包まれる。
しかし、衝撃はいつまで経っても来なかった。
「……?」
僕は閉じていた目を開けた。
真っ先に目に入ったのはウロボロスの姿でも、ラファニエルの姿でもなかった。
銀色の髪が風に踊る。
僕とウロボロスの間に立ったエルは、剣を振り下ろした格好でウロボロスを見据えていた。
エルがウロボロスの攻撃から僕たちのことを守ってくれたのだ。
「キラ、無事か」
「エル!」
「キラ、此処まで来ちゃったの!? 何でいつも無茶ばっかりするの!」
この場に飛び込んできたメネが、酷く驚いた顔で僕の目の前に飛んできた。
「天上の道だって安全な場所じゃなかったはず……それを、何で」
「私が傍にいるから多少のことは平気よ。彼の根性はなかなか大したものだわ」
メネの言葉を笑いながら横に流すカエラ。
彼女は肩を竦めて、メネを冷たくあしらった。
「それとも、私の力じゃ役不足かしら?」
「……そんなことは」
むっ、と微妙に不機嫌そうな顔をして、それでもメネはカエラにはっきりと言った。
「……ありがとう、カエラ。キラのことを守ってくれて」
「御礼なんていらないわ。どうしても言いたいって言うのなら、目の前の問題を片付けてからにしなさい」
カエラはすっと両の目を細めて、ラファニエルとウロボロスを見据えた。
「私の魔法は『蛇』には通用しない。そのエルに頑張ってもらうしか道はないわ。この場は任せたわよ」
「……分かった」
メネはエルの右肩に止まり、ウロボロスを指差して叫んだ。
「エル、やっちゃえ!」
エルが翼を広げて舞い上がる。
僕はフェアリーホースに指示を出して、彼女たちがいる場所から少し離れたところに立ち位置を移した。
何もできないからって、このまま背中を向けて逃げ出すわけにはいかない。
僕は、見届ける。エルとウロボロスとの戦いを。
心はいつでも一緒にあるということを、彼女に伝えたいのだ。
「……あれから三十年。あの時は弱らせて封印するだけに留まったが、今回はそうはいかない」
ウロボロスの頭の高さまで舞い上がり、剣を上段に構えてエルは言った。
「倒す。必ず」
ウロボロスがしゅーっと威嚇音を発する。
エルはきゅっと唇を真一文字に結んで、ウロボロスの頭を狙って飛びかかっていった。




