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第69話 フェアリーホースに乗って

 中庭は色とりどりの花が咲き乱れた花畑のような場所だった。

 空から降り注ぐ太陽の光が、花たちを温かく照らしている。

 中庭の中心には噴水があり、僕たちが探しているフェアリーホースはその前にいた。

 フェアリーホースは、綺麗に割られた神果をゆっくりと食べている。

 背中に生える透明な羽が、光を浴びてきらきらと輝いていた。

 一見すると穏やかそうに見えるが、フェアリーホースは人見知りが激しい種族で見慣れない人が近付くと暴れることがあるらしい。

 案の定──僕が近付くと、フェアリーホースは神果を食べるのをやめて僕から距離を置き始めた。

 ……これはすんなり乗れるというわけにはいかなさそうだ。

「貴方、避けられてるわね」

 フェアリーホースを見つめながらカエラが言った。

「乗れるの? 本当に」

「乗る」

 僕はきっぱりと言った。

 僕には牧場を作って多くのエルを育ててきたというプライドがある。ちょっと避けられたからって引き下がるわけにはいかない。

 エルとは、信頼関係を築くことが重要だ。今はまだそれがないから避けられているにすぎない。

 焦っては駄目だ。少しずつ、距離を縮めていかなくては。

 僕は静かにフェアリーホースに近付いていった。

 フェアリーホースが後ずさる。ぶるるっと鼻を鳴らして、僕のことを見つめている。

「大丈夫だよ」

 僕は両手を広げた。

 ぴく、とフェアリーホースの耳が動いた。僕の言葉を聞いてくれているのだ。

 一歩近付く。一歩後ずさる。

 一歩近付く。一歩後ずさる。

 後がなくなった。

 フェアリーホースは地面を足で掻きながら、身を震わせている。

 そこに、覆い被さるように両手で優しく抱き付いた。

「大丈夫、怖くない」

 掌に命の温もりを感じる。

 このエルも、僕が育ててきたエルたちと同じなのだ。必ず、心は通じるはず。

 落ち着きなかったフェアリーホースの様子が、少しずつ穏やかになっていく。

 僕はフェアリーホースの背を優しく撫でた。

「怖くない……ね?」

 フェアリーホースが僕の頭に鼻をぴったりとくっつけた。

 これは、親愛の情を示す動作だ。

 どうやら……僕の気持ちは、フェアリーホースに伝わったようだ。

 僕はフェアリーホースの鼻を撫でて、背中をぽんぽんと叩いた。

「今から……お前に乗るよ。いい?」

 僕がそう言うと。

 フェアリーホースは鼻を鳴らしながら、僕が乗りやすいように身を伏せてくれた。

 僕はフェアリーホースの背に跨った。

 へぇ、と感心の声を漏らして僕に近付くカエラ。

「流石牧場を作っただけあるわね。やるじゃない」

「まあね」

 僕は笑った。

「さあ、行こう。ラファニエルのところに」

 カエラが僕の右肩に乗る。

 僕を乗せたフェアリーホースは立ち上がると、頭上を仰いで羽根を大きく羽ばたかせた。

 体が宙に浮く。空が近付いていく。

 僕は神殿の外にいるであろうラファニエルの元を目指して、大空に舞い上がった。

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