第68話 創造神の憂い
長い廊下の突き当たりに、大きな扉があった。
この先に、創造神がいる。
肩の上のカエラに目配せすると、彼女は無言のまま頷いた。
僕は扉を二回ノックしてから、開いた。
中は、巨大な彫像が何体も祭られた美術館のようになっていた。
天井はステンドグラスになっており、虹色の光が柔らかく差し込んで床に綺麗な模様を描き出していた。
彫像の前には、長い白髭をたくわえた威厳のある老人が佇んでいた。
如何にも神様らしい白い装束に身を包み、大きな杖を持っている。
彼が、おそらく創造神なのだろう。
創造神は僕に目を向けると、手にした杖で床を小さくとんと突き、口を開いた。
「……御主がラファニエルが異世界から召喚したという人間か。天上の道を超え、よく此処までおいでになられた」
「創造神様。ヴォドエルは神界のためを思って──」
僕の肩から下りて創造神の前で必死に主張し始めるカエラに、彼は首を振って発言を制して、
「良い。このような状況なのだ、我々も柔軟に物事と向き合わなければな」
どうやら、僕を神界に送り込んだヴォドエルのお咎めはないようだ。
創造神はゆっくりと僕の前まで歩いてくると、頭上に目を向けた。
彼が見る先には、天井のステンドグラスがある。
「ラファニエル……あの子がこの神界を支配しようとしていることは未だに信じられんが、現実としてそれが起きている。我々は、何としてもあの子を止めなければならん」
ずん、と建物が激しく揺れた。
地震……とは違う。今のは、何か巨大なものが建物に直撃したような感じだ。
まさか、今外にウロボロスが?
創造神の表情が僅かに険しくなった。
「……この神殿には結界が張られている。簡単に壊されはせんが、それもいつまで持つか分からん」
「メネとエルは? あの子たち、私たちより先に此処に来ているはずよね?」
カエラの問いに、創造神は頷いて、
「あの子たちは外にいる。ラファニエルを止めるのだと意気込んでおった。おそらく、今は『蛇』と戦っているじゃろう」
「キラ、行くんでしょ。今を逃したら、次は何処に『蛇』が出るか分からないわよ」
「うん」
僕は創造神に一礼をした。
「創造神様、僕は行きます。ラファニエルを何としても説得してみせます」
「そうか」
創造神は杖の先端を何処かへと向けた。
「この神殿の中庭に、儂が育てているフェアリーホースがおる。それに乗って行かれるが良かろう」
フェアリーホースとは風の力を持つエルで、白い馬に蝶の羽根が生えたような姿をしているのが特徴だ。
確かに、ウロボロスの前に出るとなるとそれなりに素早く動ける手段が必要だ。空を飛べるエルの力を借りられるなら、こんなにも心強いことはない。
「ありがとうございます。お借りします」
「儂は訳があって此処を動くわけにはいかんのだ……異世界から来た勇者よ、御主には負担を掛けてしまうが宜しく頼んだぞ」
「はい!」
僕は大きく返事をして、カエラと共に部屋を出た。




