第67話 それは、必然
「何で、人間のお前が此処にいるんだ」
彼女は抱えていた壺を足下に下ろして、言った。
アラキエルは無事だったんだね……良かった。
知っている神が此処にいると知ることができて、ちょっぴり嬉しい。
カエラは腰に手を当てると、アラキエルの疑問に答えた。
「ヴォドエルが道を繋いだのよ。彼の熱意に負けて、そうしたの」
「おいおい、人間を神界に入れるなんて掟破りじゃねぇか。思い切ったことしやがったな、ヴォドエルの奴」
アラキエルは顎に手を当ててしばし考え込んだ後、小さく溜め息をつきながら後頭部をかりかりと掻いた。
「ま……今はこんな状況だ。創造神様もそれどころじゃねぇだろうからな。せいぜいおとがめがねぇように祈っとくぜ」
「ヴォドエルの命令を聞くのが私の仕事だもの。掟のことなんていちいち気にしていられないわ」
「相変わらずだな、お前も」
肩を竦めて呆れたように笑い、彼女は僕に視線を移した。
「……此処に来たってことは、ラファニエルを止めに来たんだな」
「はい」
僕は頷いた。
僕の決意に満ちた顔を見たアラキエルは、僕の肩を掴んで、言った。
「『蛇』が目覚める原因を作っちまったのはお前だけじゃない、エルの卵をお前に渡した俺にもある。……でも俺は、下界を蘇らせたことを悪いことだとは思っちゃいねぇ」
彼女の、僕の肩を掴む手の力は強かった。
それだけ、気持ちが篭っているのだろう。
「『蛇』を下界に封印しちまったことがそもそもの間違いなんだ。……これは、起こるべくして起きた出来事なんだよ」
アラキエルは表情を引き締めて、僕の顔をまっすぐに見つめた。
「今度こそ、決着を着けねぇとな。『蛇』を倒して──ラファニエルの計画を止める。お前はそのために此処に来てくれたんだよな」
彼女は笑った。
「ありがとな、此処に来てくれて。俺も、できる限りの協力はする。皆で力を合わせて、いつまでもやられっぱなしじゃねぇってところをラファニエルに見せてやろうぜ」
僕の肩から手を離して、足下の壺を持ち上げる。
「さ、創造神様のところに行くんだろ。創造神様は此処をまっすぐ行ったところにいらっしゃる。迷わねぇようにな」
じゃあな、と言ってアラキエルは僕たちの前から去っていった。
カエラは僕の右肩に止まって、前方を指差した。
「聞いてたでしょ。此処からまっすぐ行ったところって。行きましょう」
「うん」
僕は止めていた歩みを再開した。
一歩進むごとに、緊張が湧き起こってくる。
僕が神界に来たことでカエラが怒られるんじゃないかとか、色々な心配はあるが、それ以上に僕が気になっているのはやはりラファニエルのことだ。
ラファニエル……何で神界を征服しようだなんて思ったの?
ラファニエルに会ったら、争うよりも先に話をしたい。何でこんなことをしたのか、直接聞いてみたい。
それくらいは許されるだろうかと思いながら、僕たちは長く続く廊下をまっすぐに進んでいった。




