第66話 変わり果てた神界
元は、此処は綺麗な楽園のような場所だったのだろう。
それが、今は見る影もない。
言葉を失って立ち尽くす僕の肩に手を置いて、カエラは冷静に告げた。
「『蛇』が神界に現れた結果が、これよ。あれは目についたもの全てを壊す……本当に、最悪の存在だわ」
彼女は僕の前に来て、ある一点を指差してみせた。
彼女が指差した方に、大きな白い建物があるのが見える。
何処かの国にある有名な美術館、それに似た造りの建物だ。
「とりあえず、本殿に行くわよ。あそこになら神たちがいるから、詳しい話が聞けるはずよ」
「……うん」
カエラに案内してもらいながら、僕は道を歩いた。
途中に、壊された家や燃えた森があるのを幾つも見つけた。
ラファニエルがウロボロスを操ってこの世界を破壊して回っているのだと思うと、やりきれない気持ちになった。
ラファニエル……僕たちにあんなに優しかったのに。本当に下界のことを案じて僕たちに協力してくれていると思っていたのに。
全部……嘘だったの?
「……冴えない顔ね」
カエラが前を向いたまま話しかけてきた。
「貴方がラファニエルのことを今でも信じているのかどうかは知らないけど、現実として彼女は『蛇』を操って神界を破壊しているのよ。甘い期待はもう捨てなさい。彼女は、私たちの敵なのよ」
「…………」
僕は溜め息をついた。
川の上に架かった橋を超えて、森の中にある獣道を歩いて、そんな感じで三十分ほど歩いただろうか。
カエラが本殿と呼ぶ大きな神殿の前に、僕たちは到着した。
これまでに見てきた家や森は破壊されて目茶苦茶だったというのに、この建物には傷ひとつ付いていない。
カエラが言うには、本殿には神たちが強力な結界を張っているから簡単には壊されないようになっているのだそうだ。
そうでなかったら此処もとっくに破壊されている、と彼女は言っていた。
「此処には創造神様がいらっしゃるわ。本当は人間が神界にいるってだけで問題なんだから、粗相がないようにしなさいよ」
「うん」
一番偉い神様と会うのか。
何て言われるかな。僕とメネがウロボロスを復活させてしまったことを責められるだろうか。
そういえば……メネとエルは今何処にいるんだろう。
僕は二人の無事を願った。
カエラに連れられて、僕は本殿に足を踏み入れた。
真っ白な石でできた建物は、溜め息が出るくらいに美しかった。これがただの観光だったなら、もっとあちこち見て回りたかったところだ。
奥に向かう途中で、何人もの神たちとすれ違った。
神たちは僕を見て、皆一様に驚いたような顔をしていた。彼女たちは僕が人間だと見ただけで分かるらしい。
そうして、進んでいくと。
途中で見覚えのある顔に遭遇した。
「お前……キラか?」
アラキエルは目を丸くして、僕のことを見つめていた。




