第65話 試練を超えて
がいん、と固い音が辺りに響く。
僕は両手を使って、懸命に剣を前に押した。
じりじりと、均衡を保っていた二本の剣が石像の方へと倒れていく。
石像はそれにも特に慌てた様子は見せない。作り物だから当たり前なんだろうけれど。
「やっ!」
僕は剣を押し込みながら、右足を振り上げた。
爪先が石像の胴体を突き上げるように蹴り飛ばす。
石像は衝撃で剣を手離し、僕の剣をまともに受けた。
刃が斬りつけた箇所がばくりと裂ける。
普通の剣で石を斬ってもこうはならないだろう。この剣は常識では考えられないような切れ味を有しているようだ。
石像の全身がぐらりと傾ぐ。
そこにすかさず、僕は剣を垂直に突き立てた。
刃が石像の胸に深々と突き刺さり、体を真っ二つに断ち割る。
石像は階段の上に落ちた。そのまま滑るように転がり落ちて、僕たちの視界から消えていった。
僕はふーっと息を吐いた。
自分の体がこんなに動くなんて、思ってもいなかった。
僕が召喚勇者だから、何か特別な力が備わっていたのだろうか。そう考えずにはいられない。
何にせよ、無事に試練を乗り越えられたみたいで良かった。
「……やるわね」
僕が石像と戦うところを傍でずっと見ていたカエラが感心の声を漏らす。
「案外『蛇』と戦ってもいい線いくかもね」
「流石にそれは無理だよ。僕は運動神経がいいわけじゃないんだから」
僕は苦笑した。
剣に目を向けて、呟く。
「……でも、そうだったらいいな」
もしも僕がウロボロスと直接戦えるほどの力を持っていたら、エルと一緒に戦うことができる。
彼女の負担を、少しでも軽くしてあげることができる。
それができたら、どんなに嬉しいことだろう。
僕はちょっぴり緩んだ顔を先の道へと向けて、言った。
「さ、行こうか。一刻も早く神界に行かなくちゃ」
「『試練』は今ので終わりじゃないわ。気を付けなさいよ」
「分かってるよ」
──その後も度々襲ってくる石像を倒しながら、僕たちは階段を上がり続けた。
そして、遂に。道の果てに辿り着いた。
終わった階段の先に、扉がある。教会なんかにあるような観音開きの作りの扉だ。
如何にも、って感じがする。
僕は扉に手を掛けて、ゆっくりとそれを押し開いた。
ぎいっと軋み音を立てながら扉が開かれていく。
扉の先に広がっていたのは、豊かな自然が広がった景色。
建物は壊されてあちこちから煙を上げている、まるで戦争中の風景を彷彿とさせるような荒れた神界の姿だった。




