第57話 育ちゆくエルと共に
生まれてきたエルは、そのままエルと呼ぶことにした。
だって、創造神のエルって特別なエルなんでしょ? 僕が名前を付けるのは何か違うと思うんだよね。
エルは人間の赤ちゃんと同じ姿をしてはいるが、やはりエルなので、生まれて三十分くらいしたら目も開いてハイハイをするようになった。
一時間もしたらお腹を空かせて御飯を欲しがり、神果をあげたらもりもりと食べた。
成長早い、と思いたくなったが、エルはあくまでエルなのでこれが自然なんだろうと思うことにした。
牧場にも連れて行った。たくさんのエルとふれあわせるためだ。
しかし、エル自身は牧場で暮らすことはできない。普通のエルにはあるはずの属性が、この子にはないからだ。
幸い人間と同じくらいの体の大きさなので、家で育てる分には問題はない。
これからもまめに外に連れて行き、たくさん色々なことを経験させて育てていこうと思った。
エルの成長は早い。
生まれて五日目。エルは、五歳くらいの人間の女の子に成長した。
この頃には二本足で立って歩き、飛び跳ねたり走ることもした。何にでも興味を示し、事ある毎に僕やメネに質問をした。
エルは人の言葉を普通に話す。普通のエルと違って、言葉で僕たちとコミュニケーションを取ることができるのだ。
僕たちにとっては、娘ができたような感覚だった。
食事の量も増え、大人用の神果を丸ごと一個食べられるようになった。
道具を使うのは下手なので、それは根気良く教えていこうと思っている。
エルを連れて畑に行ったり、牧場に行って皆に御飯をあげたり、親子のように毎日を過ごした。
無邪気に笑うエルを見ていると、この子が本当に邪神と戦う力を持ったエルなのかなと思うことがある。
でも、そのために僕たちはこの子を育てているのだ。
これが何でもない普通のエル育成だったなら、もっと心から日々の暮らしを楽しめただろうにな、と思う。
考えていても仕方がない。それが僕たちに与えられた使命なのだから。
エルが生まれて十日目。
一日で一年分くらいの成長を遂げるエルは、十歳くらいの可愛い女の子になった。
この頃になると、僕たちの仕事を少しずつ手伝ってくれるようになった。
今もこうして神果の収穫をする僕たちの横で、収穫を終えた苗木を引き抜く手伝いをしてくれている。
同年代の人間の女の子と比較して手際が良く、仕事が速い。
やはり、彼女は特別な存在なのだろう。
「キラ、これも抜いていいの?」
「うん、いいよ」
「分かった」
僕でもそれなりに力を入れなければ抜けない苗木をひょいひょいと抜いて、畑の外の穴まで持って行く。
エルは力持ちだ。おそらく僕よりもずっと力が強い。
彼女は少しずつ、邪神と戦うための力の片鱗を見せ始めている。
大人の姿になったら、一体どれほどになるのだろう。見るのが楽しみなような、怖いような、複雑な気分だ。
「収穫終わった? それじゃ、畑耕しちゃうね」
「お願いね、メネ」
綺麗になった畑をメネに耕してもらって、また一から種を蒔いていく。
エルは細かい仕事もお手の物だ。
「種、此処に蒔くの?」
「そうだよ。お願いね」
「分かった」
丁寧に種蒔きを始めるエルを見つめながら、メネが感心の声を発した。
「エルが手伝ってくれるから仕事が捗って助かるね」
「そうだね」
「キラ、何だか楽しそう」
メネにそう言われ、僕は後頭部を掻きながら笑った。
「うん、楽しい。何だか妹と一緒に畑仕事をしてる気分だよ」
僕には二つ年下の妹がいるのだが、小さな頃は二人してよく遊んだものだ。
此処でエルと畑仕事をしていると、妹と畑で芋掘り体験をした時のことを思い出す。
二人で協力して大きな芋が掘れた時は嬉しかったな。
「今しか経験できないことだから、目一杯楽しみたいと思うんだ」
「そっか」
メネは微笑んだ。
「さ、メネたちもエルに負けないように頑張って種蒔きしよ」
「うん」
僕たちは畑のあちこちに散らばった。
ああ、本当に。この幸せがいつまでも続けばいいのに。
空を見上げて、僕はふうっと息を吐いたのだった。




