第55話 戻ってきた笑顔
夢を見た。
巨大な蛇が、地上を暴れ回ってあるもの全てを目茶苦茶に破壊していた。
逃げ惑う人々。動物。紅蓮の炎に包まれて灰になっていく木々。
僕は、それを間近で見つめていた。
蛇の力は強大だった。
まさに、災厄。そう呼んでもおかしくないほどの存在だった。
空が、赤い。地上を焼く炎は、天をも飲み込んで焼き尽くそうとしている。
このまま、世界は蛇に滅ぼされてしまうのか。
そう思った、その時。
炎の壁を断ち割って飛んでくる光があった。
その光は迷わず蛇に向かって飛んでいき、地上を這う巨体に一撃を食らわせた。
蛇が倒れる。牙を剥き出しにして吠える頭めがけて、光が急降下する。
閃光が辺りに満ちる。赤くなった世界を白く塗り潰していって──
そこで、僕の目は覚めた。
心臓がどくんどくんと激しく脈打っていた。
僕の目は無意識のうちに窓の外へと向き、そこに広がっているものが穏やかな星空であることを確認して。
僕は、ほうっと息を吐いた。
大丈夫。邪神はまだ目覚めていない。世界はまだ滅びてはいない。
自分にそう言い聞かせて、上体を起こす。
朝、あんなに酷かった眩暈は、今はもう綺麗に消えてなくなっていた。
一日ゆっくり休んだから、体調が元に戻ったのだろう。
メネにも、随分と迷惑をかけてしまった。
僕はベッドを降りて、リビングに向かった。
メネは、テーブルの上に座って花の蜜を飲んでいた。
彼女は僕の姿を見つけると、カップを置いて慌てて僕の方へと飛んできた。
「キラ、起きて平気なの?」
「……うん。もう大丈夫」
僕は笑顔を見せた。
「今日は迷惑かけちゃったね。ごめんね」
「ううん、そんなことはいいよ」
メネは僕の周囲を飛び回って僕の様子をじっと見つめ、笑った。
「一日で体調が戻って良かったね。何日も続くと辛いもんね」
「そうだね」
僕は生命の揺り籠に目を向けた。
安置してある卵は、相変わらず変化がない。
僕が寝込んでる間に生まれてこなくて良かったとは思うけど、今日でもう卵を置いて十三日だ。
まさか、卵、腐ってないよね? ちょっと心配だ。
「……エルはまだ生まれてこないよ。特別なエルだから、時間がかかるんだよ」
「邪神が蘇る前に生まれてくるよね。手遅れになるなんてことはないよね?」
「こればっかりは、分からないなぁ……でも、希望を捨てないでお世話しよう? きっと、元気なエルが生まれてきてくれるよ」
そうだね。メネの言葉を信じよう。
早く生まれておいで。待ってるからね。
「キラ、御飯食べるでしょ? もう作ってはあるんだよ」
「うん、食べる」
「それじゃあ、今持ってくるから座って待ってて」
メネに言われた通りに、僕は椅子に座って食事が来るのを待った。
今日はスープしか食べてなかったからお腹ぺこぺこだ。お腹一杯食べよう。
「はーい、今日の夕飯はトマトのリゾットなのです! たくさん作ってあるからたくさん食べてね」
「わー、美味しそう。いただきます!」
僕は熱々のリゾットを二回おかわりして、十分に堪能した。
明日から、また仕事頑張るぞ。




