第52話 救世主の卵
数日後。ひとつの卵を持ったアラキエルが僕たちを訪ねてきた。
「待たせたな。こいつが創造神様のエルの卵だ」
「これが……」
その卵は、今までに見てきたエルの卵とは違っていた。
大きさはダチョウの卵くらいある。オパールのような虹色を秘めた色合いをしており、重さは普通のエルの卵よりもずっと重たかった。
生命の揺り籠にぎりぎり乗るくらいだ。ちょっとでも置き方を間違えたら水の中に落っこちそうだな。
僕は生命の揺り籠に卵を置いた。
手を離したら転がりそうになるので、何度も置く位置を調整しながら、何とか揺り籠に乗せた。
「キラ、大丈夫?」
「うん。大丈夫」
ほっと一息ついて、曲げていた膝を伸ばす。
卵に顔を向けて、アラキエルは昔を思い出しているのか遠い目をしながら言った。
「生まれてきた奴を見たら、多分びっくりするだろうな。けどこいつは紛れもないエルだ。恐れないで付き合ってやってくれ」
「……びっくり?」
何だろう。見た目が凄い変な怪獣が生まれてくるとでも言うのだろうか。
尋ねるが、アラキエルは「それは見てのお楽しみだ」と言ってにやにや笑うだけだった。
何だろう……気になるなぁ。
「──俺ができるのはここまでだ。後はお前たちの頑張り次第だ」
アラキエルは僕とメネに順番に目を向けた。
笑っていた表情は、いつの間にか引き締まっていた。
「異世界から来た人間のお前に俺たちの世界の事情を押し付けちまったことはすまないと思ってる。でも、俺たちにはお前に頼る以外に方法がねぇんだ。何度も言ってるが……どうか、この世界のことを宜しく頼む」
「分かりました。必ず、このエルを立派に育てて世界を救ってみせます」
「ありがとな」
僕の決意の言葉に礼を述べて、アラキエルは神界に帰っていった。
僕は再度その場に膝をついて、卵をじっと見つめた。
本当に、宝石のような卵だ。これから生まれてくる思いがけない姿のエルってどんな奴なんだろう。
これだけ大きな卵から生まれてくる奴だ。きっと大きくて、御飯も一杯食べるんだろうな。
今の神果の収穫量では、多分このエルが満足するまでの量は賄えない。畑を増やしたばかりではあるけど、更に畑を増やして、神果の収穫量を上げなくちゃ。
「メネ。畑を増やしてほしい。神果を今以上に収穫できるようにしたいんだ」
「キラ、大丈夫? 今の畑の広さでぎりぎり世話ができてる状態なんだよ。これ以上畑を増やしたらキラの体力が持たないんじゃない?」
メネは心配そうな顔をした。
確かに彼女が言う通り、現時点で既に手一杯の状況ではある。これ以上仕事を増やしたら、オーバーワークになるであろうことは予想がつく。
オーバーワークになったら、何処かで仕事を手抜きしなければならざるを得ない場面もきっと出てくるだろう。
でも。
僕は笑った。
「……大丈夫。これはこの世界を救うための大事な仕事なんだ。ちょっと仕事量が多いからって弱音を吐いてなんかいられないよ」
「……分かった。キラがそう言うなら、メネはそれを信じるよ」
でも、と言いながら、彼女は僕の目の前に飛んできた。
ぴっ、と人差し指を立てて、念押しをしてくる。
「でも、大変だったら我慢しないでちゃんと言ってよ? 過労で倒れられたら困るからね?」
「分かったよ。ありがとう」
そうならないように、体力は上手く配分して使わないとね。
「じゃあ、メネは先に行って畑を作ってるね」
「うん。宜しくね」
外に出ていくメネの背中を見送って、僕はゆっくりと立ち上がった。
畑はすぐに完成する。種と、肥料を持って行かなくちゃ。
僕は傍にあるアイテムボックスの蓋を開けて、中から必要なものを取り出した。




