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第47話 いつか帰る日のために

 僕を……元の世界に、送り返す。

 その時は、いつかは訪れるだろうとは思っていた。

 たくさんのエルたちに囲まれて、メネと一緒に笑いながら過ごす日々と、いつかはお別れしなくちゃならない。その日が訪れることは必然であることは分かっていた。

 そうなることは、構わない。僕は元々この世界の人間ではないから、それが定めであることはきちんと理解しているつもりだ。

 でも。

 それが今であるとは、思ってはいなかった。

 牧場はエルで一杯になったけど、精霊は世界をここまで蘇らせたけど、僕にはまだまだ此処でやることがたくさんある。

 エルたちに御飯をあげたり、新しく生まれてくるエルの世話をしたり、畑で神果を収穫したり、仕事は山のようにあるのだ。

 それを中途半端に放棄して、元の世界に帰るなんてことはできない。

 いや。

 帰りたくないのだ。

 もっとこの世界で起きることを、見ていたい。メネと一緒に、味わいたい。

 そう思うのは……いけないことだろうか?

「……僕は」

 僕は手をきゅっと握って、ラファニエルに言った。

「僕は、もう少しこの世界で過ごしていたいです。畑の世話をして、エルたちと向き合って、メネと一緒に力を合わせながら、此処で暮らしていたいです。かつては綺麗な姿をしていたというこの世界を……この目で見てみたいから」

 ラファニエルは黙ったまま、僕の言葉に耳を傾けている。

 メネが僕のところに飛んできて、右肩に止まった。

 僕はメネと視線を合わせて、再度ラファニエルの方を見て、続けた。

「いつかは帰らなくちゃいけない。それは分かっています。でも、後少しだけ……この世界で暮らさせて下さい。僕の我儘だとは承知していますが、お願いします」

「ラファニエル、メネからもお願い。メネも、今キラと別れちゃうのは淋しいよ」

「…………」

 ラファニエルは何かを考えていたようだったが、やがて静かに頷くと、口を開いた。

「……分かりました。貴方がそのように考えているのでしたら、今此処で貴方を異世界に送り返すのは見送りましょう」

「──ありがとうございます!」

「ただし、これだけは忘れないで下さい」

 思わず笑みを零す僕に、ラファニエルは静かに告げた。

「貴方がこの世界に長くいればいるほどに、元の世界との繋がりは薄れていきます。繋がりが完全に途絶えた時──貴方は、二度と元の世界に帰ることは叶わなくなります。それを知った上で、この世界にいつまで滞在しているのかを決めて下さい」

「……はい」

 僕は頷いた。

 ずっとこの世界にいたら、日本には帰れなくなる。

 そうなる前に、決断しないといけない。

 でも、今はまだ考えなくても……いいよね。

 ラファニエルは僕たちに背を向けて、歩き出した。

「私は神界から貴方たちのことを見ています。貴方たちがこの牧場を更に大きくして、この世界を精霊で満たしてくれる日を──待っていますよ」

「ばいばい、ラファニエル」

 メネは去っていくラファニエルに手を振った。

 ラファニエルの姿が完全に見えなくなってから、彼女は僕の顔を覗き込んだ。

「キラ……いつかはお別れなんだよね。メネもそれは分かってる。けど、今急にそうなっちゃうのは困っちゃう」

「僕も、今はまだ帰りたくない」

 僕は周囲を見回した。

 畑の外に広がっている牧場──そこを歩いているエルたちを見つめて、言った。

「この世界の元の姿……せめてそれだけは見てから、帰りたいな。僕が此処でやってきたことを忘れないためにも」

 いつか、僕が日本に帰った時。

 この世界で経験したことを、メネとの思い出を、忘れたりしないように。

 目一杯体験して、心に、体に、刻み込んでおきたい。

 これが、僕が経験してきたことなんだって人に胸を張って言えるように。

 さ、と僕はメネに声を掛けた。

「畑仕事、続けよう」

「そうだね!」

 ──一生懸命に今を生きてるのはエルたちだけではない。

 僕たちも、生きているのだ。今を礎にして、より良い明日を迎えるために。

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