第46話 役目を終えた勇者は
月日は流れ。
エルたちのお世話の合間に交配を地道に続けてきたお陰で、今や牧場に住むエルは三十匹にまで増えた。
お陰で一日に消費する神果の量も増え、今ある畑の収穫分だけでは全員がお腹一杯になるまでの量は賄えなくなってきた。
急遽畑を増やそうということになり、牧場の隣に、新しい畑が作られることになった。
「じゃあ、やるよ」
土地をメネの魔法で耕してもらい、今までの畑よりも大きな畑が出来上がった。
「ありがとう、メネ」
「それじゃあ種蒔きしよ」
二人で協力して種蒔きをしていると、家の方から歩いてくる人影が。
「エルの育成は順調のようですね」
「ラファニエル!」
メネはぱっと顔を輝かせてラファニエルの傍に飛んでいった。
「ラファニエル、見て! 世界はこんなに蘇ったんだよ!」
「二人共、よく此処まで頑張りましたね」
ラファニエルは穏やかに微笑みながら、畑に入ってきた。
土を手で掬って感触を確かめ、天を仰いで太陽を見つめ、感慨深げに言う。
「本当のことを言うと、私は、此処まで世界を再生させるのは無理だと思っていました」
「そうだったの?」
びっくりしたように言うメネに、申し訳なさそうな表情をするラファニエル。
「ごめんなさいね、メネ……貴女の力を信じてあげられなくて。でも、それだけ……この世界を再生させるのは困難を極めることだったの」
彼女は目を閉じた。
「死んだ土、枯れた水、燃え尽きた火……ひとつを取っても、蘇らせるには世界が生きていた頃以上の精霊の力が必要でした。それだけの精霊の力を取り戻すには、途方もない労力が必要であったことを私は知っていました」
ふーっと長い息を吐いて、彼女は静かに瞼を開いた。
何処か憂いを秘めたような、複雑な色合いの微笑を浮かべて、僕を見た。
「本当に、ありがとう……樹良さん。メネ。貴方たちのお陰で、世界は蘇りました。もう、この世界は大丈夫です。これからは自ら生きようとする力で、生命を育み、生きていくことでしょう」
風が吹いた。
太陽の匂いを含んだ柔らかい風は、僕たちの傍を吹き抜けて、青い空へと翔け抜けていった。
「樹良さん」
僕の元まで静かに歩いてきて、ラファニエルは言った。
「貴方は立派に役目を果たしてくれました。もう、貴方の力がなくても大丈夫です」
僕の正面に立って、まっすぐに僕の目を見据えて。
彼女は、告げた。
「貴方を、貴方が暮らしていた元の世界に送り返しましょう。貴方のためにも、それが一番良いと……私は思います」
「……え?」
彼女の言葉に、僕は思わず問い返した。
僕の手から神果の種が落ちて、ばらばらと、土の上に散らばった。




