第40話 背水の陣
メネとカエラの力は拮抗していた。
しかし、持っている得物の差が、じりじりと勝負の行方を一方に傾けつつあった。
そりゃそうだろう。ただの棒と、鎌なのだ。
あの鎌の切れ味がどの程度のものなのかは分からないが、そんなものを叩き付けられ続けるメネの立場からしたら、気持ちに余裕がなくなるのも無理はないと思う。
いつしか、カエラが斬撃を仕掛け、それをメネが受け止めるという、メネが防戦一方に回る構図が出来上がっていた。
妖精たちは、争いに魔法を使わない。彼女たちが使う魔法には、戦いに役立つものがないからだ。
だから、この戦いが終わるのは──
どちらか一方の得物が相手を叩きのめした時、なのだ。
「くっ……」
カエラから距離を取って肩を上下させるメネ。
長い間鍔迫り合いを続けていたせいもあって、彼女の体力は限界に近付いていた。
身体はふらふらとしており、必死に羽ばたいてはいるが一点に留まれていない。
それを、同じように肩で息をしてはいるがメネよりも余裕を見せているカエラが笑いながら見据える。
「どうやら、勝負あったようね。貴女にはもう、私の鎌を防ぐ余力はないわ」
カエラは鎌をぐるりとバトンのように回転させて、上段に構えた。
「さあ、今すぐこの牧場作りをやめて神界に帰りなさい。そうすれば、痛い目を見ずに済むのよ?」
「……断るわ」
メネはぐっと息を飲んで棒の先端をカエラに向けた。
「メネはこの世界を蘇らせるために一生懸命この牧場を作ってるの。それをやめるなんて、できるわけないじゃない!」
「……馬鹿な子ね。大人しく私の忠告を聞いていれば、誰も傷付かずに済んだというのに」
カエラは鎌を振り下ろした。
それを、最後の力を振り絞って受け止めるメネ。
がいん、と金属がぶつかり合う音がして──
ぼろり、とメネの手から棒が落ちた。
「ちょっと痛いわよ。覚悟なさい」
鎌の刃がひゅっと風を切る。
メネは無防備に佇んでいる。
このままだと、カエラの鎌はメネの身体を切り裂くことになるだろう。
そうは──させない!
僕は二人の間に割って入り、力を込めた左腕を顔の前で構えた。
ざく、と鎌の先端が僕の左腕を切り裂く。
痛みを感じると同時に血が溢れ出て、肘を伝ってぽつぽつと地面に落ちた。
「!……邪魔──」
「……僕もいることを忘れてもらったら困るよ」
痛さに声を上げそうになったが、何とかそれは堪えた。
奥歯を噛み締めながら、僕はまっすぐにカエラを見据えた。
「僕も、メネと一緒にこの牧場を作ってる仲間なんだ。メネ一人に苦しい思いをさせたりなんかしない。僕とメネは、肩を並べて支え合う仲間なんだ!」
「……魔法ひとつ使えない人間のくせに!」
カエラは険しい顔をして僕を睨むと、僕から離れて左手をこちらに向けて翳した。
「思い知らせてやるわ、人間が妖精に逆らうことが如何に愚かなことかを!」
彼女の掌が、茜色に輝く。
人の頭ほどの大きさがある炎の球が、彼女の眼前に出現した。
「……そんな、まさか!」
メネが素っ頓狂な声を上げる。
「カエラ! 掟を破ったの!? 神界の神たちが黙ってないわよ!」
「私にはもう後がないの。掟を守ろうが破ろうが、同じことよ!」
声を張り上げるカエラ。
彼女が生んだ火球は、僕の頭を狙って高速で宙を飛んだ。
「キラ! 避けて!」
メネの声に押されるように、僕はその場を横跳びに離れた。
火球は僕が立っていた位置を横切って、メネの脇を掠め、地面に着弾し派手な火の粉を撒き散らした。




