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第37話 死した世界に生きる人々

 上空から見る火山の噴火の様子は、迫力満点だった。

 もくもくと立ち上る噴煙は、強い硫黄の匂いがする。

 熱くて危険なので傍には近寄れないが、それでも十分なくらいだ。

 この世界も生きてるんだなって実感が湧くよ。

 十分に火山活動を観察して満足した僕は、牧場に帰ろうとレッドに合図を出そうとして──

 ふと、火山に隣接した山の麓に光のようなものを見たような気がして、手を止めた。

 今の、何だろう。

 見に行ってみよう。

 僕はレッドにお願いして、光が見えた場所に向かって下りていった。

 目的地が近付いていくにつれ、見えたものの正体がはっきりと分かっていった。

 光は、焚き火の炎だ。

 焚き火の周囲には幾つかの小さな掘っ立て小屋がある。山小屋……と言うには余りにも粗末すぎる家だ。おそらく廃材なんかを掻き集めて作った家なのだろう。

 こんな何もない場所に……住んでいる人がいるんだ。

 そういえば、この世界の人間に会うのって初めてだったな、僕。

 僕を乗せたレッドは、焚き火の横に着地した。

 焚き火の周りには、何人かの子供がいた。

 皆一様に着ている服はぼろぼろで、靴も履いていない。髪や顔は薄汚れており、腕や足は枯れ枝のようにほっそりとしている。まるで乞食を思わせる有様だ。

「……誰?」

 子供の一人が、僕を見て言った。

 目に宿っているのは、僕に対する好奇心と、恐怖心を表す光。

 そりゃ突然空から人が現れたら何だろうと思うよな。

「ごめんね、驚いたよね。脅かすつもりはなかったんだ」

 僕はレッドから降りて、子供たちを怖がらせないように優しく話しかけた。

「君たち、此処に住んでるの? 大人の人はいないの?」

「大人は狩りに行ってるよ。今此処にいるのは俺たちだけ」

 最年長者と思わしき少年が、僕の問いかけに答えた。

「兄ちゃんは、誰? 此処に来ても何もないぞ。毎日食うのだけで精一杯だからな」

 ……そんなに酷い生活をしてるのか。此処に住んでる人たちは。

 通りで皆痩せ細ってると思ったよ。

 毎日お腹一杯に御飯を食べられる生活をしていることが、何か申し訳なく思えた。

「僕は、此処からずっと向こうの平原の方から来たんだ」

「へぇ、何もない場所だって思ってたけど、俺たち以外にも人が住んでる場所があったんだな」

 少年は僕の全身を値踏みするように見つめて、言った。

「そこって、ひょっとして綺麗な水があるのか?」

 この環境にこの有様、きっと食べ物だけじゃなくて飲み水にも困ってる生活をしてるんだろうな。

 妬まれるだろうなと思いつつ、正直に僕は答えた。

「うん、まあ」

「羨ましいなぁ。此処で飲める水なんて泥水しかないんだぜ。それでも水が飲めるだけ有難いって思うけどな」

「帰ったぞ、カイト。誰だ? その人は」

「あ、父ちゃん」

 ぱっ、と少年が僕の背後に視線を向ける。

 振り向くと、そこには狼を担いだ男女が立っていた。

 ……やっぱり、彼らの着ている服も子供たち同様にぼろぼろだ。

 持っている槍もその辺にあるものを使って作ったと思わしき手作り感満載の品で、よくこれで狩りができるもんだなって思う。

 人間って逞しい。

「この兄ちゃん、平原の方から来たんだってさ」

「あんな何もないところに住んでる人がいたのか」

 担いでいる狼を下ろして、男は僕を観察した。

「随分綺麗な格好をしてるな。ひょっとして平原には川や湖が残っているのか?」

「……ええ、まあ」

 魔法の設備を使って毎日風呂に入ってるんです、なんてことは言わない方がいいような気がする。

「……昔は此処も、自然が豊かな場所だったんだ。それが、あの日にあんな出来事があったせいで、この環境だ」

 男は溜め息をついた。

「あの日以来雨は降らないし、作物も育たなくなった。自然は死んでいく一方だ。神は、生き残った我々に何をさせたいんだろうって嘆きたくなるよ」

 あの日というのは、おそらくこの世界の精霊が死滅して世界が滅んだ日のことを言っているのだろう。

 この世界の人間たちには、その時のことがどういう風に目に映ったのかは分からないが。

「こんな状況でなければもてなしのひとつでもしたのだが、生憎此処には何もなくてね。悪いが帰ってくれないか」

「いえ……こちらこそ、突然押しかけたみたいになってしまってすみませんでした」

 僕は頭を下げた。

 レッドの背中を軽く叩いて、首に跨る。

 レッドは身体を持ち上げて、ゆっくりと宙に舞い上がった。

 そのまま皆に見送られながら、僕は集落を後にした。

 初めてこの世界の人と話をしたけど、彼らは生きるのに精一杯で他所から来た人間を相手にする余裕はないように感じられた。

 でも、世界が蘇れば、そんなこともなくなるはず。

 僕がやっていることは世界だけじゃない、世界に住んでいる人たちを救うことにも繋がるんだ。

 そのことを忘れないようにしよう、と心に誓いながら、僕は帰路についた。

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