ミルべニア王国
ちょっと世界の説明が入っています
―ミルべニア王国 王都ベルシュ―
人間国で、最も魔族が近くにある国であり、その王都であるこの場所は、魔種の活動が盛んであり、最も危険である地域に位置していると同時に人間国最大の砦である。
それにもかかわらず、ミルべニア王国は人間国最大の大きさを誇っていた。その理由として、魔種の素材の存在価値と強き生物を何でも受け入れるその寛容な姿勢にあった。
ファルシュにおいて魔種は比較的に多くの魔素をその身に宿しており、魔族の国、魔国ボルバルグに近いほど多くの魔素をまとった生物が生息している。-ダンジョンという例外を除く―。そのため、強い魔種生物の素材が比較的に集まりやすく。ミルべニア王国防衛軍の装備の質が高く、なおかつ強い生物ばかりと戦うため、その兵士たちも例外なく高レベルであった。
また、人間国の多くはミルト教と呼ばれる宗教を信仰していた。その主な内容は、『純人種こそが、神が直接作り賜った唯一の人間である。』というものである。そのため人間国の多くは他人種を忌諱している傾向にある。
しかし、ミルべニア王国初代国王であるアスバルト=デ=ミルバニアはその考えを否定した。
その結果、ミルべニア王国では多数の人種が住んでおり、それもまた、繁栄につながっている。
太古の昔、人間族は魔種とその他で戦争が行われた。その原因は魔種を除く人間族の人口過多による領土の奪い合いである。因みに、ファルシュは地球よりはるかに広い土地を有しているため、未開拓の土地はまだまだあった。しかし、開拓先の土地に限って、強力な魔種が生息していた。したがって、当時の魔族以外の人間種はその原因は魔族にあると決めつけ、攻めにかかったのであった。
そのため、古来より魔種とその他の人間種には深い溝があった。
ここは王都ベルシュの城下町にあるとある家。
そこで家主かつ冒険者であろう若い男女2人組が話をしていた。男のほうは剣に盾そして、重鎧といった風貌であった。女のほうは杖にローブそしてローブの裏には申し訳程度の防具を装備していた。そして、その男の背には十歳になるかならないかの少年を背負っていた。
「まさか、あのミルス村が壊滅していたとわな。」
男が残念そうに女に話しかける。
「そうね。あの村は小さい村だったのだけれど、魔国に近いこともあって、村に勤めていた衛兵も高レベルの人ばかりだったものね。後、、、ウィアスの友人のことは残念に思っているわ。」
女のほうがかぶっていたローブを外し家にある暖炉のそばの椅子に腰かける。肩までかかった黒っぽい赤髪に鋭い目、そしてその整った顔つきは、妖艶な魔女のようなそれであった。
その女は残念そうに、そしてウィアスと呼んだ男の顔色を窺うように尋ねる。
「ああ、あいつが村で村長をしているから、この村はあいつが生きている限り大丈夫だとおもったんだが……本当に残念だ。」
男もまた悲しさと悔しさをにじませながら応答する。だがウィアスの顔はいまだに兜で顔が隠れており、その顔を確認することはできない
。
「その子が唯一の生き残りですものね。」
女はウィアス背に背負っている少年を見ながらつぶやいた。
「ああその通りだ、村の死んでいった人のためにも、この子には生きてもらわければ。」
ウィアスもまた背中の少年を見ながら答える。
「まさか、村人全員が一人を残して全滅だなんて、いまだに信じられない。そしてあの村の様子、今まで全滅した村を何個も見たことがあるのだけれど、あれは特にひどい。あんな現場には二度といあわせたくないものだわ。」
女は両手で自分の体を抱え込み、青ざめながらささやく。
思い出すのは冒険者が訪れた村の惨状。村全体は血で真っ赤に染まり、きれいな死体は何一つ存在せず、皆が皆全身の血と内臓をぶちまけており、人としての原型は何一つ残ってなかった。
いくら、歴戦の冒険者といえど、あの光景には恐怖を浮かばざるを得なかった
。
「私はその子がもしあの村の光景を見ていたとしたら。とてもその子の精神が耐えられると思えないの。もしかしたら、心に深い傷を負っているかもしれない。私たちでどうにかできるといいのだけど。」
「そうだなプラミの言うとおりだ。だが、俺はこいつをあの村で見たことがある。もうずいぶん昔だが、恐らくそいつは村長であるイスラの息子だ。あの時見たのは赤ん坊の時だったが、間違いない。だから、これは俺の独りよがりだ。その子には何としても生きてもらう。あいつの忘れ形見だ。俺たちで責任をもって育ててやりたいと思っている。それでもかまわないか?」
プラミと呼ばれた女はため息をつきながら首を横に振り、あきれたように答える。
「ダメよ。といってもあなたは言うことを聞かないんでしょうね。ウィアスに任せるわ。」
「恩に着る」
「それじゃあ、あなたのベットにでも寝かせてきたら、あなたもずっとこの子を担いできたのだから、休みなさい。」
「その言葉に甘えるとしよう。」
そう言ってウィアスは自分の部屋に向かいその少年をベットに寝かせるとその兜をとった。
金髪の短髪で、目は鋭く、左の頬から首にかけての傷といかにも堅物といったその表情はいくつもの修羅場をかいくぐって生きた歴戦の戦士のような風格を漂わせていた。
そして、その顔はその少年の顔を見ながら、しかめられていた。
「….ス。….クス。……イクス!」
「….ん。 なんだよ…. もう少しだけ…..。」
その優しく包み込むような呼び声に、イクスの目が覚める。
目線の先にはそこには死んだはずのルミナの姿があった。
「そんな。なんで…..」
「何よ?どうかしたの?」
ルミナは自分が寝ているらしい、ベットの枕もとに肘をつきその手で自分の顔を支えながらも器用に首をかしげて不思議そうに尋ねる。
「だって、ルミナは死んだはずじゃ……」
「はぁ!?何を言ってるのよ私を勝手に殺さないでくれる??」
ルミナは心外だと言わんばかりに、両手を激しくベットにたたきつける。バフッという音とともに、ルミナは立ち上がる。
そういわれて、イクスは自分と周りの状況を確認する。
すると、どうやらイクスはベットの上で眠っているらしいことを確認する。さらに、イクスの周りには死んだはずのイクスの父と母、イスラとリリシアの姿もあった。
――どうやら夢であったらしい
イクスは今の自分に置ける状況をそう理解することで自分に納得させた。
「ルミナこっちに来て。」
イクスは転生前のイクスのように優しくルミナに声をかける。
「何よいきなり。」
それに応じてルミナは腰を下ろし、ゆっくりとイクスに近づいていく。
すると、イクスはいきなりルミナのお腹に抱き着いた。
「何よいきなり、あなたのお父さんとお母さんもいるのよ、なんで….」
ルミナは抗議の声をあげるが、イクスの様子がおかしいことに気づくとその声を止める。そして、イクスの様子を確認してみるとイクスはどうやら泣いているようだった。
「どうしたの、泣いたりして、昔みたいな泣き虫に戻っちゃったの?調子が狂っちゃうじゃない。しっかりしなさい。」
「…..よかった。」
「…えっ?」
「生きてて本当に良かった」
その意外なルクスの呟きにルミナは怪訝そうな顔をする。そして、イクスの頭をなでながら、優しく泣いている子供をあやすように優しくイクスに声をかける。
「なにをいっているのよ。私は生きているわ。何があっても生きて見せる、だってあなたともっと一緒にいたいもの、ね。だからいつものように元気を出しなさい。あなたは私の王子様なんでしょ?」
いつものように、ルミナは優しくイクスを励ましていく。すると、イクスはぽつりぽつりと自分が泣いている理由を話し始めた。
「すごく怖い夢を見たんだ。村のみんながみんな死んだ夢だった。ルミナも父さんも母さんもみんな死んじゃったんだ。自分だけが生きてた、地獄のような光景だった。でも、とても現実みたいな夢だった。とても怖かったんだ。」
そのイクスの様子に、ルミナは優しくそして悟らせるように声をかける。
「そんなわけないじゃない。イクスには私が見えないの?私は生きている。それにね、その夢は嘘っぱちよ。もし私たちが死にそうになっても、絶対に私たちはイクスを一人にしないわ。ずっと一緒にいる。イクスが死ぬまでずっと一緒にいるわ。だから元気を出しなさい。」
その優しいルミナの声に、イクスは次第に調子を取り戻していく。
「そうだよね。みんな自分を一人にするはずがない。でもとても怖かったんだ。でも、夢の中のルミナはすごく積極的だったなぁ。きっと話すとルミナも恥ずかしがると思うよ。
だって、君から僕にキスをしてきたんだ。とても驚いたよ。……」
イクスはあの惨劇の中でおこった。ちょっと幸せだった出来事について話を始める。
しかし、ルミナに反応はない。
(きっと恥ずかしくなって声も上げられないのかな)
「ねぇルミナ、何とか言ってよ。もしかして、さすがのルミナも恥ずかしいのかな?」
そう言いながら顔をあげる。
すると、あの惨劇がルミナの後ろから迫っていた。
次々と景色が変わっていく。
すでにイクスの父と母の姿はなかった。
イクスの心臓がドクドクドクと早鐘を打ちはじめていた。
「ルミナ!!、あの夢が後ろから迫ってる。早く逃げなきゃ!!!ルミナが夢の通りになってしまう。ルミナが死んじゃう。!!!」
焦ったように、イクスはルミナに声をかけ続けるが、ルミナには反応はない。
「ルミナ、はやく!!!!ルミナ!!!!!」
イクスは顔を目一杯上げ、ルミナの様子を確認する。
「っ!!!!」
しかし、そのルミナの顔は、あの夢であったと思っていた悪夢と同じように、ひどく傷つき、虚ろであった。そして、イクスは恐る恐る、自分が抱き着いているルミナの体を確認する。
全身が真っ赤に染まっていた。
「なんだよ??夢じゃなかったのかよ!! いやだよ、ルミナ行かないでくれ!!僕を一人にしないでくれ。君がいなくちゃ自分は、俺は….。お願いだ、お願いだから逝かないで!!!!」
イクスは必死に叫び続けるが、その光景はもう目前に存在し逃れることはできない。
「やめろよ!!!!やめろーーーーー!!!!!」
「うあああああああああああああああああああ!!!!!」
いきなり上がった悲鳴にウィアスは飛び起きる。ただそこに慌てた様子はなかった。さすがは熟練の冒険者といえよう。
その悲鳴はどうやら、少年の寝ているほうから聞こえているようだった。
「うあああああああああああああああああああ!!!!!」
急いでウィアスは少年が寝ている自分の部屋に向かった。
そこには頭を抱え錯乱状態にある少年の姿と、壁に打ち付けられたプラミの姿があった。
「どうしたプラミ、なにがあった?」
「いたた,,,,,,,,この子が急に暴れだしたの。頑張って押さえつけて寝かしつけようとしたのだけれど、この子の力がすさまじくて吹き飛ばされたってとこね。この子、力が恐ろしく強いわ!ウィアスも手伝ってちょうだい!!早く寝かせないとあの子の精神が持たない!!!」
「了解した」
ウィアスは急いでその少年のベットに向かった。
「っ!!!」
「うあああああああああああああああああああ!!!!!」
ウィアスはその少年の体を押さえつけようと試みる。だが、もちろんその少年は抵抗した。その力にウィアスは驚きつつも自分の力と同等であることをなんとなく推察することができた。
(なんて力だ。もしかしたら恐慌状態で体のリミッターが外れているのかもしれん)
ウィアスはこの状況に身に覚えがあった。かつて自分が瀕死の状態にあったとき、彼は自分の体とわ思えないほどの力を発揮し、その境地を脱出した。しかし、その後全身の筋肉は断裂に骨にひびが入っていた。治療してもらった医者によると体のリミッターが外れ、全身の力が暴走した結果らしい。少年はまさにその状態にあるとウィアスは推察した。
「パメラ!!!はやく睡眠の魔法を頼む。そうしなければイスラの息子の体が壊れてしまう!!!急げ!!!!!」
「わかってるわよ!!!」
「うあああああああああああああああああああ!!!!!」
ウィアスは必死にその少年の体を押さえつけつつパメラに要請する。
パメラはその要請に応じて睡眠の呪文を唱え始めた。
『魔よ、万来セ氏悠久の理よ、朝来問わぬ永遠の闇をかのものに与えん。』
パメラが発動させた魔法はその少年を落ち着かせ、寝かせることに成功した。
「いくら何でも強力すぎるのではないか?」
この詠唱は上級の睡眠魔法に当たりかなり強力であった
「よほどの錯乱状態だったのよ。低級の睡眠魔法だったらはじかれる恐れがあったもの。それに、あなたもかなりギリギリだったのでしょう?」
「まぁな」
「それにしても、この子何者?リミッターが外れていたとわいえウィアスと同じ贅力を発揮するなんて。」
プラミは顎に手を当て考え始める。
「それは追々本人に聞くとしよう。因みにどれくらいで目覚める?」
「強力な魔法を使ったから一週間から二週間といったところね」
「わかった。ではこちらも、この少年を迎えるための準備をするとしよう。」
そう言ってウィアスは自身の部屋から出ていった。
詠唱を考えるのがつらいけど意外と楽しい