恩恵とそして......
いよいよ、主人公がファルシュへ旅立ちます。
「その前に、一つ質問に答えてもらうわ。」
そういうと、雰囲気が変わる。重く、のしかかるような威圧、神としての威厳が烙に襲い掛かる。メルドは神としての力をほんのわずかながら解放したようだった。
苦しく、自分の何倍もの重さが頭から襲い掛かっているような感覚であった。思わず、ひざまずいてしまいそうなほどの膨大な気配。
メルドは烙に問いかける。その眼はまっすぐに烙の目を見つめ、その心、真意を見定めんとしている。
「あなたはなぜ力を求めるの?他人よりも有利な圧倒的な力を求めるというの?さっきも言ったのだけれど、ファルシュではだれにでも英雄になる力を有している。それこそそこら辺に転がっている石や草にもね、その事実を知ったうえでなぜ、あなたは強大な力を求めるというのかしら?」
これが唯一神である。この彼女全体からあふれ出る重圧、オーラそれらすべてが、彼女が唯一神たることを至らしめている。
烙はその雰囲気におびえながらもまっすぐと見つめながらその問いに答える。
「生きるためだ」
「生きるため?」
「ああ、俺は前世では人の意見に従って生きてきた。それは俺には確固たる意志がなかったんだ。だから俺は自信がなくて、他人の意見に従っていたんだ。俺はもうそうなりたくない。だってその先には、何もなかったからだ。達成感も満足感も、何もかも。ただ無機質な感情だけが残されていた。何も感情を感じなかった。自分の意思ではなかったから、本当に喜べなかった。
それは別の意味で死んだようなものだと悟ってしまったんだ。だからおれは、自分の意志を貫くための確固たる意志が欲しい。そしてそれを貫くための力が欲しい、困難に打ち勝つための力が欲しいんだ。自分の心を生かすために。」
「あなたはそれがひどく傲慢あることに気づいているの?あなたはこう言っているのよ。自分の意思のためには力の行使をいとわないと。あなたはその確固たる意志とやらで何人の人間を殺めるのかしら。その意思とやらで何人の人間を不幸に突き落とすのかしら。あなたにそれらすべてを抱え込む覚悟があるというの?」
メルドの言うとおりである。その意思のための力は何人を巻き込むか分かったものではない。烙は暗にこう言っているのだ自分の進む道にいる敵には容赦はしないと。
「それでも、俺は力を求める。後悔はもう、したくはない。」
ただ、烙はそういうと、メルドの目をまっすぐに見つめた。自分の覚悟を示すために。
長い長い沈黙が訪れる。何分、何時間もたったと思えるような烙にとってとても濃厚な数秒が経過する。その時、烙の瞳に移ったわずかな揺らぎをメルドは見逃さなかった。
そして、メルドは口を開く
「わかったわ。そういうことにしておきましょう。あなたに私から力を授けましょう。」
どうやら、メルドは烙に力を与えるようだ。今までその空間にかかっていた重苦しい空気が露散する。
「ふう」
烙は安心したように息を吐く。
「ごめんなさいね。わたしは唯一神だから、あなたの覚悟を一応試させてもらったわ。神々のルールで各々が認めないと力を与えることは許されないの。」
メルドは烙にこの問答の意図を説明する。
「俺は、合格ということか。」
「ええ、一応ね、なかなか見物だったわよ。『自分を生かす』ね。」
そういうと。女神は意地悪そうに笑顔を浮かべる。
「やめろ。思い出したくない。」
「他にもいっぱい面白い言葉が聞けたわ、たとえば....。」
「ああっ!!はやくそのちからとやらを説明してくれ!!!」
「わかったわよ。ふふっ、あなたをからかうのはなかなか楽しいわ。」
そう言いながら、女神は指を鳴らす。そうすると、烙が光に包まれた。
「あなたに私からスキルを授けたわ。ステータス画面で確認しておきなさい。」
そういわれたので烙はステータスを確認する。
『ステータス』
久枝名 烙 17歳
獣種 人間族 ヒト科
性別 男
Lv.17
HP 150/150
MP 2000/2000
EXP _/_
STR 500
VIT 100
AGI 750
INT 1000
DEX 2000
MIN2500
LUK 100
スキル
・リズム感覚EX ・先読みLv.10 ・格闘術Lv.5 ・計算Lv7 ・異世界言語 ・隠密Lv5 ・隠蔽Lv.7 ・楽器Lv.5 ・料理Lv4 ・剣王の素養 ・賢者の素養
称号
無限の旋律
「この賢者の素養と、剣王の素養ってのがそうなのか?」
「そうよ、それらは剣、魔法の素質を爆発的にたかめてくれるわ。頑張って努力すれば神の領域まで到達するわよ。心して励みなさい。」
「チートってほどでもないんだな。」
烙がイメージしていたのは様々な小説に出てくるチートの類、能力略奪系や鑑定能力といったものだった。
「これが、私の最大限の恩恵よ。これでもまだ、不十分ってわけ??」
「いや、十分だ。」
実際、烙は不安であっただけなのだ。本当に英雄まで上り詰めることができるのか、努力しても自分が報われるかわからないという不安があった。かたや唯一神の言葉であったとしても、その不安はぬぐい切れなかったのだ。だから、この証明は烙にとって十分といえた。
「それじゃあ、いよいよ異世界に転生してもらうわ。先に言っておきけれど、あなたの前世の記憶が目覚めるのは、10歳になってからよ。それまであなたは普通のどこにでもいる少年よ。何よりその年じゃないと。あなたの情報量に脳が追い付かないからね。その代わり、いろいろと自由に動ける年であると思うから、あなたの思うように自由に生きるといいわ。」
「そういえば、俺が、異世界に転生したときに何かやらないといかないものはないのか。例えば、魔王を討伐するとか。」
「とくにはないわ。あえていうなら、私は常に世界を監視している。あなたのこともいつも見ているわ。だから、私を楽しませなさい。つまらない人生なんて私は望まないからね」
「善処しよう。」
そういって女神は手をまっすぐこちらに向ける。そして何やら呪文のようなものを発し始めた
それは、烙には理解できないような言葉、発音で発せられていた。しかし、その詠唱らしきものをメルドが詠唱するたびに烙の足元には魔法陣のような幾何学模様が広がっていく。
やがて詠唱が終わる。そして烙の全身が光に包まれ、そして消えた。
「どうやら転生の作業は成功したようね。」
誰もいなくなった空間の中で女神はひとり呟く。
「烙。あなたは私の言葉の意味を理解しきれていないわ。
私が説明したことも、忠告も何一つ。でも、あなただからこそ相応しいというものよ。」
そう言いながら、メルドは手をゆっくりと下す。・
「さあ、私を楽しませてみなさい、そして願わくば......」
そうつぶやくとメルドもまたこの空間から姿を消した。
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―――暗い
――――真っ暗だ
――――――俺は今、どこにいる。
烙は最後に女神から転移されたという記憶から異世界に転移してきたということを認識していた。
―――体が重い、まるで何かに押しつぶされているみたいだ
まだ、烙の魂は転生した体に定着していないのか、まだ意識は朦朧としており、自分の状況が認識できないでいた。
しばらくして、魂が定着してきたのか、体の感覚、五感が徐々にもっどていく。
だが、、まだ体が重い、まるで、誰かにのしかかれているようなそんな感覚。
烙はその感覚になぜか安心感を覚えていた。
――とても愛おしい。
これは前世の烙としての記憶ではない、転生した新たな体、精神が覚えている感覚だった。
――――わかった。ルミナだ、ルミナの感触だ。
それは新しい俺が恋に落ちた幼馴染、自分が少年ながらも、一生守ると誓い、一生寄り添うと、お互いに誓い合った、俺のイクス=マーキウスの大切な人だ。
―――そういえばよく、ルミナをおなかの上で寝かしたっけ。
思い浮かぶは、最近の記憶。自分とルミナが木陰の下でお互いの将来のことを話しながら、お互いにからかいあって、お互いに自分の気持ちを告白しあい、お互い顔が赤くなって、そしてお互い笑いあった。大切な記憶。
ルミナは何でもできた。計算も、礼儀作法も、剣術も、魔法もすべて。それを見て周りの人はルミナのことを「天才」と呼んだ。自分には才能がなかった、でもそれに負けないように努力した。いつも、思うようにいかなくて、落ち込んでいても、ルミナは毎日のように励ましてくれた。
――たとえあなたが苦しくって、悔しくって、心が折れそうになったとしても、私がいる。私があなたを一生支えてあげる。だから、元気を出して。私の王子様。――
そう言ってルミナは毎日のように自分を励ましてくれたっけ。
自分-イクスとルミナは毎日のように遊んでいた。毎日、ルミナが遊びに来て、けいこを受けて、勉強をして、つまらないことで喧嘩したり、食後のデザートを奪い合ったり。
それを自分の父さんと母さんは笑いながら見ていた。
今の自分が心の底から感じているのは幸福だ。自分が今幸せの絶頂にいる。そんな感覚。だってルミナがそこにいるから。
――――ああ。...。しあわせだなぁ。もう少しこのままでいたい。
未覚醒の自分はふとこんなことを思っていた。
――――何かがおかしい。
徐々に意識が覚醒していく中、イクスはふと疑問に思う。
なぜなら、その懐かしい感覚は、おなかではなく全身で感じていた。
そして、なぜか、そこにいつものようなぬくもりを感じることはない。むしろ、どんどん冷たくなっていく。それは。...。まるで。...。
「……ス。 ….クス。…..イクス!!!!」
目が覚めた。
そこにはいつものように天使のような笑顔と幸せを振りまいてくれる、イクス=マーキウスの愛してやまないルミナの姿はどこにもなかった。だって自分の、自分に寄り掛かっているルミナの姿は……….
「よかった。イクス生きてる。もう大丈夫、あなたは大丈夫よ。」
真っ赤な血でおおわれており、今にも息を引き取ろうとしていたからだ。
これで、プロローグをあらすじを無事に回収し終えました。
これからは、毎日とはいきませんが、週一を目標に投稿できるように善処していきたいと思います