緊迫
「……」
ダラクは、潔く作戦の失敗を報告した。彩の国王は黙りこむ。玉座の肘掛を人差し指でトントンと叩きながら、ダラクを見続ける。
ダラクは、盛大にため息をついた。周りはヒヤヒヤと成り行きを見ている。
「仕方ありません! 王様覚悟を!」
ダラクの一言で部屋はザワザワと騒がしくなった。
「覚悟とは?」
王はざわめきも気にせずダラクに問う。王の問いがざわつきを一瞬にして止める。息を飲む人達。
「覚悟は覚悟です」
ダラクは淡々と答える。
「豊の姫を奪うため、涼の国と戦うということか?」
王の口元は上がっている。一見すると、楽しげにも見える。が、集まった者達はその笑みに一様に震え上がった。
「宣戦布告か? ダラクよ」
王の声は楽しげだ。
「まあ、そうですかねえ。一種の宣戦布告です」
ダラクも口角を上げた。
「一種の? ダラクよ。勿体ぶらずに言え」
国王は身を乗り出した。ダラクは頷くと、背後に控える部下に命令した。
「シェリー王太子妃をここへ!」
と。王はそれを聞いて笑い出す。
「なるほど、一種の宣戦布告か! いいぞ、ダラク。涼の国はどう反応するであろうな?」
意味が理解出来ない人達は、ざわめき出す。王はそのざわめきを一喝した。
「低脳な者どもは騒ぐな!」
しばし静まる部屋。コツコツと靴音が響く。虚ろな瞳のシェリーが入ってきた。
「王様……」
か細い声は、そう言うだけで止まる。
「シェリーよ。だいぶ体調が悪いようだな。どうだ? 母国で療養でもしてくるか?」
王の言葉にシェリーは目を見開く。
「良いのでございますか?」
少し弾んだ声で答えるシェリー。
「たまには、里帰りも良いであろう」
王はニコニコとして言った。
「ありがとうございます! 王様」
シェリーの嬉しそうな声が部屋に通る。が、事態を理解し出した部屋の人達は、シェリーを哀れんだ目で見ていた。王は頷いて続ける。
「シェリーよ、手紙を書いてくれぬか? 涼の国王宛に。『里帰りの間、豊の姫をこちらで預かると。豊の姫を渡さねば、シェリーは……』わかるな?」
王はシェリーに笑顔を向ける。シェリーはその笑顔に縛られる。否、その笑顔とともに発せられた内容に身が縮んだ。まさに縛られたのだ。呼吸が荒くなる。シェリーの口から、ヒュヒュ、ヒッヒッ、と音が漏れる。
「ぉぅ さ、ま、……」
言葉は不様な音で紡がれる。
「ヒュヒュ……、て がみ……かい、たら、わたち助かるの?」
シェリーの精神は崩壊寸前だった。王の言葉の続きを、シェリーは最悪に考えたのだ。
『豊の姫を渡さねば、シェリーは……コ・ロ・ス』と。
ーーパタンーー
シェリーは部屋に入れられた。今までの王太子妃の部屋ではない。彩の国の、最も閉ざされた部屋である。窓はない。入り口はひとつ。この部屋のみしか存在しない隔離塔。その部屋にシェリーは入れられた。テーブルにペンと紙。背後にはダラク。シェリーは、幼子のように泣き続ける。
「書いて下さい、シェリー様」
ダラクの言葉に反応するシェリー。ヒッ!! と悲鳴を上げて、床を這う。部屋の片隅で体を丸めた。ツカツカとダラクが近寄る。
ヒッ!! ヒッ!! ヒッ!!
シェリーは壊れたように悲鳴を上げた。
「気がふれたか?」
ダラクは小さく舌打ちすると、入り口に立つ侍女に命じた。
「睡眠薬を」
その様子をシェリーはチラリと確認する。目は生きている。シェリーは壊れてなどいなかった。そのふりをしているのだ。出来るだけ時間を引き延ばそうと。その間に何かを見出だせないかと期待して。
翌朝、ダラクは気配を消し隔離塔の入り口に立った。中の様子を扉に耳をあてて探る。
そして、勢いよく扉を開けた。
「おはようございます」
シェリーはビクリと体が跳ねる。
「伊達にこの地位にいるわけではないんでね。それなりにわかりますよ。壊れたか、壊れてないかはね?」
シェリーは固まる。ダラクの瞳が真っ直ぐにシェリーに向けられていた。
「シェリー様、壊れたふりは終わりです。さあ、手紙を書きなさい!!」
シェリーの手から、折れたペンが転がる。その転がったペンのある床には、破れた紙が散乱していた。ダラクはシェリーを真っ直ぐ射抜いたまま、片手を上げて合図した。
「すぐに新しいペンと紙を用意せよ」
「フフ、……フフ、フッフッフッ、ええいいわ! 書きましょう。無色の国のシェリー王太子妃である私がね」
シェリーはきつくダラクを睨んだ。ダラクの眉がピクリと反応した。
「無色?」
小さく声を落とす。シェリーは声を張り上げた。
「"彩"なんて、この国にはないじゃない。害虫に全滅させられるわ! 無色の国になるのよ! いいえ、害虫の国になるのよ! フフフ、涼の国が妃を寄越すことはないわ。だって、二度も妃を失うことなどあってはならないのですもの」
ダラクの表情が曇る。彩を否定されたことよりも、シェリーが話した後半の内容が気になった。
「二度も失うとは?」
ダラクの問いに、シェリーはハッとする。唇を噛み黙りこんだ。
「フン、まあいいだろう。豊の姫が我が"彩の国"を蘇らせる。書け! 『豊の姫を渡さねば自分の命が危ない』とな」
ダラクを睨むシェリーの目から涙が溢れる。
「"我が彩の国"ですって? アッハッハ、可笑しいですわ。この国は、貴方の国ではなくってよ。我が夫の国になるんですもの」
シェリーは息を吸い込んだ。
「貴方になど渡すものですか!」
涙を流しながら、シェリーが叫ぶ。
「兄さんは、もう一ヶ月以上も音信不通です。収集に失敗したんですよ。今頃は……」
ダラクの瞳が揺れる。それも一瞬にして去る。強い瞳がシェリーを見つめる。
「俺が兄さんの代わりになりますよ。その権利が俺にはある」
シェリーとダラク、二人の視線が重なる。だが、それは狂気に満ちていた。
「汚い華を売ればいい。自国で解決を探さず、他国の力を奪い蘇った草花は汚華となるわ! 彩の国、力で彩を作る国、売られる華は綺麗でも、国は汚い誇りのない国。そう世界に知れ渡るのよ!」
ダラクがカッと目を見開いく。シェリーの腕を掴み、床に放り投げた。
「何の役にも立たぬ妃よ! さっさと書け!」
倒れた拍子に唇を切ったシェリーの口から血が流れる。床に垂れる血をシェリーは拭いもせず、顔をダラクに見せた。ダラクが怯む。ダラクの瞳が大きく揺れた。駆け寄ろうとするが、シェリーはスックと立ち上がる。そして言った。
「ちょうど良いわ。これで血判が押せるもの」
ツカツカと歩き、床に散らばった破れた紙を拾い上げる。
「これがあまり破れていないわ」
今度は、折れたペンを拾う。
「まだ、書けますわ」
シェリーは破れた紙と折れたペンを持ち、テーブルに向かう。ダラクは動けずそれを見ていた。シェリーから流れる血が、ダラクを動かせずにいたのだ。シェリーは手紙を書いた。言われた通りに。そして、血判を押す。出来上がった手紙を、固まるダラクに持っていった。
「どうぞ」
ダラクは放心しながら受け取る。そこに、新しいペンと紙が到着した。意識が戻ったダラクは、それをテーブルに置こうと一歩を踏み出した。が、シェリーに阻まれる。
「もう書いたわ! そんなものいらない」
シェリーの行動は早かった。折れたペンを左手で握り右手の平を割いたのだ。
「シェリー様!!」
ダラクが叫ぶ。血は唇とは比べものにならないほど、ポタポタと流れ落ちた。
「もう手紙は書けないわ」
シェリーはそう呟いた。
「なんということを! 医者を呼べ!」
ダラクが慌てて叫ぶ。
「治療なんて意味はないわ。どうせ、コ・ロ・スのでしょ?」
「……」
ダラクは苦い顔になる。悔しそうに言い放った。
「兄さんの代わりになるんだ」
バッとシェリーに近寄ると、体を引き寄せ抱き締めた。
「兄さんの代わりだ!」
そう叫び、シェリーの体を突き放す。ダラクはシェリーに顔を向けず、部屋から走り去った。
ザッザッザと足音が響く。左右の華はなんとか踏んばって咲いてるようで、か弱い色を見せている。
ザッザッザ ザッ! 足音が止まる。
「チクショウ! チッ、俺らしくねえ! ……っと」
ダラクの言葉は続く。
「俺が代わりになる。それしかねえじゃねえか!」
それに答える者はいない。ダラクの視線が華に移る。
「豊の姫の花嫁道……」
その周辺の華だけが、彩の国の中で生き残ったのだ。だからこそ、彩の国は豊の姫を得たい。
「渡すわけねえじゃねえか。彩の国の妃なんだから。っと」
ダラクは言葉を出すと同時に、体に力を入れた。踵を返し歩き出す。彩の国の城に向けて。シェリーの居る塔に向けて。
***
その書簡は、否、それぞれの書簡は、ほぼ同時にそれぞれの国に届けられた。
***
涼の国王はその書簡を読み、立ち上がった。書簡を持った手は震えていた。目は怒りがこもっている。が、顔色は青ざめていた。
「王様、彩の国は何と言ってきているのです?」
マークが問う。王は書簡をマークに渡した。マークの顔がみるみる変わる。王とは反対に、真っ赤に憤怒した顔付き。その顔付きのまま、マークは叫んだ。
「彩の国からだ。否、シェリー様からだ。『豊の姫を渡さねば、私の命が危ない』そう書いてある!」
あまりの内容に、王間に集まった者達は絶句した。冷めた沈黙の後、醒めたようにざわざわと声が上がる。
「なんと野蛮な!」
「脅しではないか!」
「豊の姫は未だ涼の国内なのか?」
「シェリー様は屈したのか?!」
「二度も失うのか……」
その声が妙に王間に響いた。誰が言ったかわからぬが……
ガタン!!
レオンが立ち上がる。シーンと静まり返った。
「……」
レオンは何も言わない。ただその瞳は言っていた。
ーー彩の国を許さぬとーー
レオンは王に視線を移す。
「レオン、何か手はあるか?」
レオンは小さく頷いた。
「城門の開門、城壁門の開門、港の開放」
再びざわつく。王は言った。
「誘き出すのだな?」
と。
「アイラはまだ涼の国内を出ていないと考えます。出国の機会を狙っていると」
「だそうだ。わかるな? それが彩の国の要望なのだろう。全てを開放すれば必ず動く。その時が勝負だ」
王の発言に集まった者の目に力が入る。生きた目だ。後方の各隊の隊長が王に一礼して出ていった。他の者も自分が何をすべきかわかっている。席を立ち、打ち合わせに入る。
武官、文官、史官……皆動き出す。
レオンは各人の動きを見つつ、頭はその先を考えていた。王に視線を移す。王は頷く。レオンは王の元に。二人はバルコニーに立った。
「アイラを見つけ出したとして、その先だ」
王は書簡を手に言った。
「渡しません!」
レオンは即答する。
「では、シェリーはどうする?」
王の声は揺れていた。
「救いに行きます」
これもまたレオンは即答した。
「どうやるのだ?」
レオンは大きく息を吐いた。
「……父上、覚悟を」
王もまた大きく息を吐いた。
「……避けられんのだな」
王は振り向きマークを呼んだ。王とレオンの元にマークが跪く。
「……準備をせよ」
マークは何も言わず、ただ頷いた。マークの元にルークとジークが集まる。固い表情はさらに固く険しくなった。レオンは王間を出た。
ーーカーンコン カーンーー
中刻の鐘が鳴る。
「……二度も失うか。フッ」
自嘲気味に笑ったレオンの背後に、王間を後にしたルークとジークが苦い顔で立っている。
「……墓に行く。着いてこなくていい」
そう言って、足早にレオンは去った。王間の前では、ルークとジークが無言でレオンの背を見送った。
小さな庭園の一角にレオンは立った。石碑が薔薇に囲まれている。
「……エミリア」
レオンの声はその石碑に向かう。風がふわりとレオンの頬を撫でる。
「すまない。……すまない、エミリア」
レオンの声が薔薇を揺らす。薔薇はレオンの声を"届けた"。
「俺は、……」
その声にならない声も、薔薇は"届けた"。
風に乗り、アイラの元へ。
***
「え!」
アイラの瞳が大きく開かれる。
「アイラ様?」
セリアがアイラの様子に気づき、声をかけた。アイラは目を見開いたまま、その声を聞いていた。セリアの声は、アイラに届いていない。アイラに届いているのは、一度だけ聞いたレオンの声。
『すまない。……すまない、エミリア』
『俺は、アイラを失いたくない』
窓際に飾られていた一輪の薔薇が、声を届ける。花弁がヒラリと落ちた。
『もう傷つけたくない。アイラ、何処にいる? もう、失いたくないんだ! エミリアのように、俺の前から居なくならないでくれ! 死なないでくれ』
花弁は、レオンの声を届ける毎にヒラリヒラリと落ちていく。アイラの目に涙が溜まる。
『アイラ、……』
アイラは窓際に走った。否、足はもつれ躓く。這うように、それでも力強く進む。そして、その薔薇を包んだ。最後に残った一枚の花弁を、アイラは優しく包む。
「ありがとう。ありがとう……」
アイラは薔薇に話しかけた。
「伝えてくれてありがとう」
窓際から光がこぼれ落ちる。草原の塔から、淡い光がその一角まで届いた。
石碑の前に立つレオンの元に。
***
俯いたレオンの瞳が、その光を捉える。
「この光は……」
レオンはこの光を知っている。
「草原の光……」
ーー何故だ?ーー
レオンはゆっくりその光の元を追った。光は草原の塔へと伸びている。レオンの瞳が光の出所を追う。ゆっくり、ゆっくり上昇する瞳。その瞳が捉えたのは……窓際に揺れるアイラの髪。傷つけた時に見た、あの髪。ルークとともにあの場を離れた時に、一度だけ振り返った。その時に見た後ろ髪。
淡い栗色の髪が風になびいていた。
あの日のアイラが蘇る。髪と同じ栗色の瞳。傷ついた足で気丈にも立つ姿。小さく聴こえる声はレオンを気遣うもの。
脳裏に焼き付いている。
「アイラ!!」
レオンは叫んだ。そのままその声をそこに残すが如く、体は走り出す。目の前の草原の塔に向かって。
ハァハァ
二階までかけ上がる。三階への門を確認する。
「施錠されてる……チッ」
レオンは舌打ちした。直ぐにでも、この三階に上がる門を開けて、確認したかったのだ。だが、その鍵は執務室の引き出しの中なのだ。
「クソッ!」
レオンは錠前を蹴った。
ガチャン
大きな音が響いた。レオンはふと思った。見間違いでないなら居るはずだと。
ガチャガチャガチャ!
錠前を激しく揺する。
「アイラ! 居るなら返事をしてくれ!」
ひとしきり揺すり、叫んだ。だが、扉の向こうから返事はない。
「見間違いだったのか?」
レオンは大きく息を吐いた。だが、あの光はなんだったのかと考えはじめたレオンの耳に足音が微かに届いた。レオンは身構える。足音は扉からではなく、階下からだったからだ。その足音は二階へと近づく。
コツコツコツ
その足音の主と目が合った。
「ぁっ!」
足音の主は、小さく叫びクルリと身を翻した。
「待て!」
レオンは追う。そしてすぐに捕まえた。
「なぜお前がここに居る? 侍女のお前が!」
レオンに捕らえられたのは、ジーナだった。
「どういうことだ?」
ジーナを掴むレオンの手に力が入る。
「あ、の、迷いました!」
「迷っただと?」
「はい、私、青の国の巫女侍女です。だから塔を間違えてしまって」
レオンは侍女の持つ荷物に目をやった。ジーナはその視線に気づき、そーっと荷物を後ろに隠す。
「……その荷物は?」
「た、大したものではありません!」
「……大したものでないなら、見せられるだろう?」
レオンが荷物に手をかける。が、荷物はジーナがしっかり掴み離そうとしない。
「……」
「……」
無言の攻防。
「アイラは三階か?」
レオンはそう声に出した。
「え!」
ジーナはレオンの言葉に一瞬荷物を掴む手が緩む。
「あ!」
レオンにジーナの手から荷物が渡る。中を確認したレオンは、ジーナに問うた。
「この薬粥は誰に?」
ジーナは俯く。と、その時
ーーガシャンガシャンーー
背後から騒音。レオンは振り返った。
「ぁっ」
ジーナが小さく発した。レオンの脇をすり抜けて、門に近寄る。レオンも咄嗟にそれに着いていく。
『ジーナ、もう良いわ。レオン様に渡して。鍵を』
門の向こうからの声。レオンはジーナを見る。ジーナはエプロンの中から鍵を取りだし、レオンに差し出した。
「どうぞ、レオン様」
レオンは鍵を受け取る。その鍵はレオンの持つ鍵とは様相が違っていた。
「この鍵は!?」
レオンの問いにジーナは答えない。
『レオン様、その鍵は私が作りました。門を開けてみてください』
ーー鍵を作っただと?ーー
レオンは錠前をその鍵で開けた。
ーーガッチャンーー
門が開く。そこにセリアがいた。
「レオン様、申し訳ありません」
セリアは綺麗に頭を下げた。
「どういうことだ?!」
レオンは胸にたぎるものを、なんとか抑え込みセリアに問う。
「わからないのですか?」
セリアの返しにレオンはギッと歯を噛み締める。
「アイラに会いたい」
レオンは真っ直ぐな言葉を口にした。だが、セリアに阻まれる。
「アイラ様は、レオン様からの薔薇を"お受けしました"」
「それは! その意味を知らなかったのだ!」
「ようやく、意味がわかったのですね」
その言葉は、許しではない。セリアはただ確認しただけである。セリアはチラリと視線をジーナに移した。
「ジーナ、早く薬粥を持っていって。アイラ様に差し上げて。必ず全部食べさせてね」
ジーナはペコリと礼をして、セリアの横を通り抜ける。
「アイラは、病気なのか?」
レオンの問いにセリアは首を横に振った。
「レオン様、どうぞお見逃しを。もうこれ以上アイラ様を……」
セリアの顔が崩れる。気丈に振る舞ってはいたが、アイラの事となると想いが溢れるのだ。レオンはセリアのその様に、心が疼いた。だからこそ、言った。
「アイラに会わせてくれ」
と。
対峙する二人。背後に近づく音に、レオンもセリアも同時に気づく。
「レオン様ーー」
階段を上るその音に、レオンは咄嗟にセリアを門の中に押し込んだ。素早く門を閉める。セリアに『静かに』と伝えて。
「ルーク、何だ?」
レオンは背後の門を気にしながら、それを悟られないように訊く。
「王様が彩の国にどう書簡を送るかと。王間で皆の意見を訊きたいとのことです」
「ああ」
「あの、レオン様?」
一向に動かないレオンにルークが違和感を抱く。
「ああ、すまぬ。いい考えが出そうで出ないんだ。ここまできてるんだがな」
喉に手をあててレオンは言った。
「すまん、ルーク。先に行っていてくれ。塔を見回ってから行くから」
ルークは頷いた。が、すぐには去らなかった。難しい顔でレオンに問う。
「彩の国と戦うことになるのですか? アイラ様を見つけ出し、シェリー様を救い出すために」
レオンは焦った。背後の門の中に聞こえているかもしれないのだ。
「ルーク! 軽々しく口にするな」
レオンの一喝にルークは姿勢を正す。
「すみません!」
「行くぞ」
レオンは足早にその場を去った。
***
門の中では、セリアが眉間に皺を寄せ聞いていた。その隣には、アイラが立っていた。
「セリア、どういうことか調べて」
セリアは無言で頷いた。




