花嫁
華やかな婚礼であった。広間は、彩の国から贈られてきた、色とりどりの花で飾られていた。楽の国からは、ハープ楽団が訪れ、広間は透き通った音色で溢れている。だが、アイラの表情は晴れない。祝いの言葉とは裏腹に、不躾な視線がアイラに注がれていたからだ。
その理由は、涼の国に着いてからすぐに知らされた。婚礼は、一週間後。その間みっちり、アイラの予定は埋まっていた。到着翌日より、アイラは、史官に涼の国の歴史しきたり等を学ぶことになった。史官の名はマーク。王の側近である。今は史官の任に着いているが、若い頃は武官として名の知れた涼の国の武術者だ。そのマークは、昨晩着いたばかりのアイラに、遠慮がちに涼の国の事情から説明した。
「ーーというわけです」
妃選びで、国内に争いが起きたこと。大陸各国の姫に打診したが、断られたこと。王の思いつきで、豊の国アイラに妃の矛先が向いたこと。そして、今後アイラに向けられるであろう敵視。マークは申し訳なさそうに伝えたのだ。
アイラの後ろで立っていたクレアとセリアの顔は、苦々しい表情になっていた。当のアイラは、ただ困ったように微笑むだけ。
マークはいたたまれなくなり、「本日は、ここまでにいたしましょうか?」と、提案とも、自身の退室願いともいえる言葉を発した。
「いいえ、続けてください」
アイラは穏やかに言った。このような状況を聞かされても、嫌悪を示すこともなく、ただ穏やかにいるアイラを見て、マークは安心する。そして、心の中で思った。お優しい姫様で良かった。このお方なら、レオン様もきっと……心動かされるのではないかと。そして、マークはあのことを話そうか話すまいか迷う。
「エ、……
ーーカーンコン カーンーー
……エ っと、ですね。中刻の鐘の鳴りましたので、一旦お茶にしましょう」
マークは、出かけていた言葉を変えて、アイラたちに明るく言ったのだった。
一週間が経った。そして、婚礼の日を迎える。アイラに注がれる視線。
敵視
同情
嫌悪
軽視
蔑視
あらゆる視線が突き刺さる。その中で、国王と正妃のみが嬉しそうにレオンとアイラを見守っていた。そして、当のレオンの表情は固いまま一点を見つめるのみ。婚礼の間、アイラに視線が移ることはなかった。
アイラは俯き、極々小さな声を床にこぼした。「お父様、お母様、ごめんなさい。芽は出ません。私もこの方も」と。
その夜、用意された部屋で、アイラはレオンが来るのを待っていた。
朝日が射し込むまで、ずっと……。




