華開く
「ふふっ、レオン様」
アイラは嬉しそうな声で言った。
「素敵な夢」
アイラの声はそう紡がれる。
「夢じゃない」
レオンは震える声で答えた。
「ふふっ、ずっとこの夢がいいわ」
アイラはレオンの頬に手を滑らせた。
「嬉しい。夢なのに触れられるのね」
レオンは困った顔のまま微笑む。頬に触れるアイラの手に自身の手を重ねるため、抱き上げているアイラをゆっくり地面に下ろした。アイラの手が離れようと動く。レオンはその手を掴んだ。重ねられた手はぎこちなく繋がれる。
泉のほとりで並ぶ二人。風がまた走った。レオンの耳に主の声。
『森を出られよ』
と。
「アイラ、さあ森を出よう。俺の首に腕を回してくれ」
夢うつつのアイラは、言われたままレオンの首に手を回す。
「ふふっ、レオン様が私を呼んでくれる。素敵な夢。覚めないでずっとこのままがいいわ」
流れるようなアイラの声。その内容にレオンは心の奥が疼く。名前を呼ばれただけで嬉しいと言うアイラに。
たった二三歩歩いただけで、レオンは森の入り口に出た。
「レオン殿! アイラ!」
豊王が声を上げる。レオンは笑顔を王に返した。そして、チラリと後ろを振り返る。二三歩先にあるはずの泉はもうない。ただ森が広がっていた。小さく頷き、レオンは顔を戻す。
「ただいま戻りました」
レオンは王に向けて言ったのだ。皆が涙ぐんでいる。なぜか、マークやルークもその場に居る。レオンは少し怪訝な顔を向けた。
「森に入って四日経っているのです」
ジークが言った。
「四日?」
「はい、その間にマーク様も、ルーク様も到着したのです」
レオンは再度周りの者を見渡した。皆が何かを待っていた。レオンは『ああ、そうか』と気づく。そして、未だにレオンの腕の中で甘えているアイラに、
「そろそろ、夢から覚めてくれ」
と言って、ソッとアイラを立たせた。
「……不思議だわ。皆揃ってる。ふふっ、可笑しい」
レオンは肩をすくめる。
「夢だと思っているのです」
そう言った。その言葉にいち早く正妃が反応する。
「困った子ね」
妃はアイラの頭を撫でながら続ける。
「こんなに頬を赤らめて、レオン様に甘えるのねアイラは。立派に芽が出たのよ」
「芽が出るどころか、花開いているようだ。なあ、皆の者よ」
豊王の発言にその場に居る者全ては、笑顔で応えた。
……いや、
アイラだけはさらに真っ赤な顔になっていく。辺りをキョロキョロと確認し、クレアの姿を見つけると一目散にその背後に隠れる。
「クレア、私ったらどうしよう。すごく恥ずかしいわ」
クレアの背中でコソコソ話すアイラに、追い討ちをかけるように第一王子が言った。
「こんなアイラははじめて見るよ。レオン殿はどんな魔法をかけたのです?」
クスクスと笑って言う第一王子にアイラはムゥっと口を尖らせる。
「愛するものの目覚めを、主様に願いました」
レオンの声が通る。そして、アイラの瞳を真っ直ぐに見た。
「おいで、アイラ」
アイラの瞳から涙が流れ出る。
「私、私……」
ゆっくり、レオンはアイラの元に歩む。クレアはアイラの体を前に出して、後ずさった。
「アイラ、ありがとう」
「私、私……」
「わかってる。なにも言わないで、ただ俺の手を掴んでいてくれれば、それでいいんだ」
レオンの手がアイラに差し出される。アイラは躊躇いながら、その手を掴んだ。
ふわりとアイラの体が浮き、レオンの胸に収まったのだった……
***
物語は強き願いから始まる。
否、
……いや語るのはやめよう。
『北の王子と南の姫』
~完~
***
本編完結です。
次話番外編となります。
ブックマークしていただいた方、
評価していただいた方、
ここまで読んでいただいた方、
全ての読者様に感謝を込めて……
『番外編:華』をお贈りします。
更新は準備出来次第行います。(本日中)
少々お待ちを。
桃巴。




