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北の王子と南の姫  作者: 桃巴


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21/23

華開く

「ふふっ、レオン様」


 アイラは嬉しそうな声で言った。


「素敵な夢」


 アイラの声はそう紡がれる。


「夢じゃない」


 レオンは震える声で答えた。


「ふふっ、ずっとこの夢がいいわ」


 アイラはレオンの頬に手を滑らせた。


「嬉しい。夢なのに触れられるのね」


 レオンは困った顔のまま微笑む。頬に触れるアイラの手に自身の手を重ねるため、抱き上げているアイラをゆっくり地面に下ろした。アイラの手が離れようと動く。レオンはその手を掴んだ。重ねられた手はぎこちなく繋がれる。


 泉のほとりで並ぶ二人。風がまた走った。レオンの耳に主の声。


『森を出られよ』


 と。


「アイラ、さあ森を出よう。俺の首に腕を回してくれ」


 夢うつつのアイラは、言われたままレオンの首に手を回す。


「ふふっ、レオン様が私を呼んでくれる。素敵な夢。覚めないでずっとこのままがいいわ」


 流れるようなアイラの声。その内容にレオンは心の奥が疼く。名前を呼ばれただけで嬉しいと言うアイラに。




 たった二三歩歩いただけで、レオンは森の入り口に出た。


「レオン殿! アイラ!」


 豊王が声を上げる。レオンは笑顔を王に返した。そして、チラリと後ろを振り返る。二三歩先にあるはずの泉はもうない。ただ森が広がっていた。小さく頷き、レオンは顔を戻す。


「ただいま戻りました」


 レオンは王に向けて言ったのだ。皆が涙ぐんでいる。なぜか、マークやルークもその場に居る。レオンは少し怪訝な顔を向けた。


「森に入って四日経っているのです」


 ジークが言った。


「四日?」


「はい、その間にマーク様も、ルーク様も到着したのです」


 レオンは再度周りの者を見渡した。皆が何かを待っていた。レオンは『ああ、そうか』と気づく。そして、未だにレオンの腕の中で甘えているアイラに、


「そろそろ、夢から覚めてくれ」


 と言って、ソッとアイラを立たせた。


「……不思議だわ。皆揃ってる。ふふっ、可笑しい」


 レオンは肩をすくめる。


「夢だと思っているのです」


 そう言った。その言葉にいち早く正妃が反応する。


「困った子ね」


 妃はアイラの頭を撫でながら続ける。


「こんなに頬を赤らめて、レオン様に甘えるのねアイラは。立派に芽が出たのよ」


「芽が出るどころか、花開いているようだ。なあ、皆の者よ」


 豊王の発言にその場に居る者全ては、笑顔で応えた。


 ……いや、


 アイラだけはさらに真っ赤な顔になっていく。辺りをキョロキョロと確認し、クレアの姿を見つけると一目散にその背後に隠れる。


「クレア、私ったらどうしよう。すごく恥ずかしいわ」


 クレアの背中でコソコソ話すアイラに、追い討ちをかけるように第一王子が言った。


「こんなアイラははじめて見るよ。レオン殿はどんな魔法をかけたのです?」


 クスクスと笑って言う第一王子にアイラはムゥっと口を尖らせる。


「愛するものの目覚めを、主様に願いました」


 レオンの声が通る。そして、アイラの瞳を真っ直ぐに見た。


「おいで、アイラ」


 アイラの瞳から涙が流れ出る。


「私、私……」


 ゆっくり、レオンはアイラの元に歩む。クレアはアイラの体を前に出して、後ずさった。


「アイラ、ありがとう」


「私、私……」


「わかってる。なにも言わないで、ただ俺の手を掴んでいてくれれば、それでいいんだ」


 レオンの手がアイラに差し出される。アイラは躊躇いながら、その手を掴んだ。




 ふわりとアイラの体が浮き、レオンの胸に収まったのだった……




***




 物語は強き願いから始まる。


 否、


 ……いや語るのはやめよう。


『北の王子と南の姫』



 ~完~




***

本編完結です。

次話番外編となります。

ブックマークしていただいた方、

評価していただいた方、

ここまで読んでいただいた方、

全ての読者様に感謝を込めて……

『番外編:華』をお贈りします。

更新は準備出来次第行います。(本日中)

少々お待ちを。


桃巴。

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