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北の王子と南の姫  作者: 桃巴


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2/23

声と花嫁道

***


『これは面白い。芽の"ナイ"者どおしとは……』


 ーーピィー ピッピッーー


 二羽の鳥が楽しそうに翔んでいる。


 泉に映るその二羽は、例の二羽。


 泉がキラキラと輝く。



『……さて、咲くか、咲かぬか、視てみるか』



 ーーピッピーピッーー


 二羽は、仲良く飛び立った。


 泉の森がザワザワと揺れいだ。


***




「航路?」


 豊の国王は、涼の国からの書簡に戸惑いを隠せない。花嫁道を航路にしたいとの要望が書かれていたのだ。本来、花嫁道は姫側の国が決めるものである。豊の国王は、引き潮時に現れる大陸と繋がる道を渡り、ニヶ国を経由する花嫁道を考えていた。陸路である。


 しかし、涼の国は航路を要望してきた。"彩の国"を経由して、涼の国に輿入れする花嫁道。彩の国には、涼の国の第一姫が嫁いでいる。涼の国は、この彩の国に迎えの一団を送ると提案してきたのだ。


 豊の国王は、思案する。大国の要望を無下にはできぬが、本来、花嫁道の主導権はこちらにある。


「フンッ、小さい南の島国と侮れては困るのぉ」


 豊の国王は、ニヤリと笑い文官を呼んだ。


 豊の国《航路》楽の国《陸路》彩の国《航路》涼の国


 豊の国から、花嫁道の決文が涼の国に送られた。"楽の国"経由が追加されたのだ。この楽の国には、豊の国第一姫が嫁いでいたのだ。両国互いの第一姫の嫁ぎ国を経由する花嫁道。


 さて、彩の国と楽の国。二国は、海を経て中央大陸の東から南に成る細長い大陸に在る。この細長い大陸は、陽大陸と呼ばれていた。東方に二国。南方に三国。東方の西側が、彩の国。東側が、楽の国。隣国どおしであった。




 アイラは、遠くなる豊の国を見つめていた。自身を育んできた豊の国が小さくなる。アイラは空を見上げた。"豊の力"により快晴の空。そして、海は凪。穏やかな海風が気持ちいい。だが、隣でクレアが酔いと戦っていた。


「クレア大丈夫?」


 アイラは、クレアの背を擦りながら労る。


「ビメサバァーー」


 姫様と言っているのであろう。


 遠く涼の国に輿入れするアイラに、クレアは迷うことなく、供を申し出た。そして、もう一人アイラの供を申し出たの者がいる。


「酔い醒ましを持って参りました」


 冷静なこの声の持ち主であるセリアだ。


「ありがとう、セリア。クレア、酔い醒ましを口に含んで。さっ、船室に行きましょう」


 アイラとセリアで、クレアを支えながら、船室に移動した。


「ビメサマー、スビマセン」


 クレアが情けない声で謝る。


「フフッ、気にしないでクレア。クレアのこんな姿滅多に見られないから、なんだか笑っちゃう」


 アイラは、のびてしまったクレアに笑いが止まらない。


「フッ」


 のびたクレアを冷笑するのはセリア。


「私が、アイラ様と供におりますので、あなたは安心して休んでいただいて結構ですわ」


 セリアが鼻高々に言った。


「ヒメザマのお供は、わだしクレアでずーー」


 クレアがのびながらも返した。実はこの二人、侍女同期であった。クレアは、アイラ付き。セリアは、正妃付きの侍女として城で勤めていた。快活なクレアと、冷静なセリア。二人は良きライバルなのだ。


 クレアが、アイラの供として涼の国に行くと知るや、セリアも正妃にアイラの供を申し出たのだ。アイラは、二人を見て笑う。本当に二人とも素直じゃないんだからと。二人はまだ言い争いをしている。


「二人とも、そろそろお口を閉じないと、楽の国のお姉様のところに置いていくわよ」


 アイラの発言に、ピキッと二人は固まり互いに手を取った。


「「私たち、仲良しでございます!」」


 そう言って、引き吊った笑顔を見せた。


 楽の国に嫁いだ豊の国第一姫フローラ。自由奔放なフローラ姫。ベテランの侍女も手を焼く姫である。さすがの二人も、フローラお姉様には敵わないのねとアイラは思ったのであった。




 船は、二晩かけて陽大陸の港町に着いた。港では、彩の国の使者と、楽の国の迎えの一団がアイラたちを出迎えた。豊の国を入れた三国で日程を確認し合う。その後、アイラたちは楽の国に向かった。港町から真っ直ぐ行くと楽の国。左に行くと、彩の国。右に行くと、陽大陸残りの三国となる。楽の国には、昼過ぎに到着した。




 フローラが、しとやかに歩いてくる。アイラも、そしてクレアもセリアも驚く。


「フローラ姉様、お体どこかお悪いのですか?」


 アイラは、思わず訊ねた。


「あら、イヤだわ。この子ったら困った妹ね。挨拶もないの?」


 フローラがニコニコしながら発した。アイラは慌てて挨拶をする。


「フローラ姉様、この度は私の花嫁道を橋渡しいただきありがとうございます」


「アイラ、待っていたわ。長旅ご苦労様。楽の国でゆっくりしていってね」


 アイラとフローラが微笑み合う。と、そこに落ち着いた声が降りてきた。


「ようこそ、我が楽の国へ」


 楽の国王が現れたのだ。フローラの腰に手をまわし微笑んだ。


「フローラ、無理していないかい?」


 問いかける楽の国王。


「フローラ姉様、やっぱりどこかお悪いのですか?」


 アイラは心配になり訊ねた。そんなアイラに、国王は"ハハッ"と笑う。なんとも幸せそうに。


「アイラ姫、フローラのお腹に我が子がおるのだ」


 嬉しそうに、アイラの問いに答えた。


「おめでとうございます! お姉様」


「あなたの花嫁道の橋渡しが決まったと同時に、お腹に子が宿ったことがわかったのよ! だから、私……アイラの持つ"豊の力"だと」


 フローラは涙ぐんだ。フローラは楽の国に嫁いで四年子が出来ずにいたのだ。


「お姉様、本当に本当におめでとうございます」


 アイラも涙ぐむ。


「良かったな、フローラ」


 楽の国王は、優しくフローラを支える。アイラは二人を羨望の眼差しで見ている。こんな二人のようになれたらなと、小さい希望がアイラの中に芽生えたように。


「さあ、皆さん! 今宵はゆっくり体を休めてください」


 その夜を含め、アイラ達は三晩楽の国に滞在する予定であった。




 朝露が、植物の葉を濡らしていた。朝日を浴びキラキラと光っている。しかし、葉は少々傷んでいた。害虫にやられたようだ。変色、穴あき、痛々しい葉の状態に、アイラは堪らず"豊の力"を使う。そっと胸に手をあて何かを呟いて葉に触れた。とたんに、辺り一面の植物が水々しく生きかえる。


「アイラ、ありがとう」


 フローラはアイラの背後から声をかけた。


「まぁ! お姉様、早朝は冷えます。お体に負担になりますわ。宮殿にお戻りください。クレア! セリア!」


 アイラは慌てて、侍女二人を呼ぶ。


「フフッ、大丈夫よ。ちゃんと、暖かくしてきていますよ。少しぐらい体を動かさないとね。それに、この子達も気になっていたの」


 そう言ったフローラは、元気になった植物達に優しく触れた。そして、視線を植物からアイラに移した。


「本当にありがとう、アイラ。私の持つ"豊の力"は、"大地の力"だから、対処出来なかったのよ。アイラ、あなたの"豊の力"は別格よ。わかっているわよね。十分に気をつけるのよ。クレア、セリア、アイラを守ってね。アイラの力も、そしてアイラの秘密も」


「「はい! フローラ様。私達がアイラ様をお守りいたします」」


 フローラの命に、侍女二人はぴったりの声応えた。フローラは、そんな二人に感心したように言う。


「二人とも、息がぴったり。さすが最強の侍女コンビだわ」


「「コンビ?! 最強は私でございます!」」


 またもや、二人は息ぴったりで同じ言葉を発した。


 フフッ

 アハハハッ


 フローラとアイラが笑う。


「「ちょっとぉ! 私と同じこと言わないで!」」


 二人が発した言葉はやはり、同じであった。さすがの二人も思わず笑い出す。早朝の植物園は、四人の笑い声に包まれたのだった。




「お姉様、元気なお子を生んでください。お体十分に気をつけて」


「アイラ、あなたも体には十分気をつけてね。幸せになるのですよ」


 アイラとフローラ。二人は別れの挨拶をした。フローラは優しくアイラを抱きしめる。


「さぁ、出発よ。笑顔を見せて」


 アイラは、涙ぐんだ笑顔を見せた。


「まったく、困った妹ね」


 そう言って、フローラはアイラの涙を拭いた。


「お姉様、では」


 アイラは涙を終い、見送るフローラに笑顔を見せたのだった。




 陽大陸港町に着くと、彩の国の迎えの一団がアイラ達を待っていた。彩の国に近づくにつれ、辺りは華やかに変わっていく。


 "彩の国"


 色とりどりの草花が咲き誇る花の国、彩りの国である。


 アイラは、輿の中から華やかな草花たちを眺めていた。害虫の被害と痩せた土壌にアイラは眉を寄せた。そんなアイラの気持ちに気づいたのか、クレアとセリアが近づき小声で言う。


「アイラ様、どうか堪えてください。"力"を使わずに」


「えぇ、そうね。ごめんなさい。少し気になったものだから」


 夕刻に彩の国に到着したアイラたちは、涼の国から彩の国に嫁いだシェリー王太子妃の出迎えを受けた。


「ようこそ、彩の国へ」


 シェリーの声色は、なぜか固く冷たい。アイラは、すぐに自分が歓迎されていないことを感じた。アイラは悲しい気持ちになる。だが、アイラは気持ちを奮い立たせ明るい声でシェリーに話しかけた。


「彩の国は花々が咲き誇り、とても華やかな国ですね」


「そうですね」


 シェリーは、アイラを射るような視線を向け答えた。そして、衝撃の一言を発する。


「レオン兄様のお心は、エミリアのものですわ。あなたが入り込む余地などありません。せいぜい頑張ってくださいね。と言っても、あなたに期待するのは、涼の国草原の管理ぐらいかしら、その"豊の力"で」


 パタンと扉が閉まった。


 クレアとセリアは、強ばった顔で扉が閉まるのを確認した。


「「アイラ様!!」」


 二人は振り返り、アイラの顔を伺った。困ったように微笑むアイラ。


「大丈夫よ。私は大丈夫。クレアもセリアもそんな顔しないで」


 アイラは明るく発し、二人の手を取る。


「ちゃんと、お母様から聞いてるわ。どんな結婚も、全てから祝福されるわけではないのよね。お母様も、お父様とのご結婚が決まった時、色々あったって。フフッ、私もちゃんと覚悟はしていたのだけど、やっぱり面と向かって言われるとちょっと切ないわね」


 そんな風に言うアイラに、セリアは遠慮がちに訊く。


「エミリアでしたね。側室でしょうか? 調べますか、アイラ様」


 アイラは、困った笑顔のままである。堪らずクレアも発言する。


「まったく、涼の国は何を考えているのかしら? すでに側室を決めた上で、アイラ様を妃として迎え入れるなんて。その上、一国の姫のアイラ様より、彩の国のシェリー王太子妃様は、エミリアですか、そちらよりとは非礼にも程があるわ!」


「クレア! それ以上は」


 勢いにのってきたクレアの声を、アイラは制した。


「す、すみません」


 クレアは身を小さくした。


「いいのよ。予想はしていたの。中央大陸の大国、涼の国がわざわざ南の小さい島国の姫を迎え入れたいなんてきっと何かあるのよね」


 アイラは切なげに言うと、窓の外の海に視線を移した。明日には再度航路で涼の国に向かうのだ。真っ暗な海がさらにアイラの心を切なくさせたのだった。




「お気をつけて」


 冷たい声のシェリーに見送られ、アイラ達は彩の国の港から涼の国の迎えの一団とともに出発した。


 北方に船が進むにつれ、気温が低くなっていく。南の島国育ちのアイラたちにとっては、肌にしみる冷たさだ。しかし、迎えの涼の国の人々は薄着のままである。セリアは、アイラにマントをかけた。


「ありがとう、セリア。寒いわね。なんだか不思議だわ。数日前は、温暖な南の国にいたのにね」


 アイラはそう言うと、切なげに海を眺めた。昨日のことが、まだ尾をひいていた。そして、見送りの冷たさも。クレアとセリアはかける言葉が見つからない。いや、クレアは例によって言葉が出る状態にない。そんな三人に男が声をかけた。


「皆様、これより海流の激しい海域となります。外は危険ですので、船室にお入りください」


 男の名はジーク。涼の国一団の指揮を任されていた。ルークと同様、レオンの側近である。


「後で、涼の国特製酔い覚ましの薬をお持ちいたします」


 ジークはそう言うと、三人を船室に促した。




 船は進む。北の海独特の深い青の海を。胸に不安を抱くアイラ達を乗せて。海流に乗った船は、次の朝には涼の国岩山脈を眼に捕らえるまで、進んだのだった。


 船は大陸に近づくかと思いきや、そのまま岸と一定の距離を保ちながら北上する。ジークは、岩山を過ぎた向こう側に、涼の国草原が見えてきたのを確認すると、伝鳥を放った。伝鳥は、船の周りを二周程クルクルと旋回した後、草原に向けて翔んでいった。馬が駆ける草原を過ぎ、城の見張り塔をまたもクルクルと二周する。そして、塔のてっぺんにとまった。兵士は、鳥笛を吹き伝鳥を回収した。


 王の元に


 "豊の国姫を乗せた船が、夕刻過ぎに、城の港に到着予定"


 と、伝えられた。


 王はバルコニーに出て、草原の向こうの海を見つめる。小さな船団が見えた。


「あれか」


 王は期待を隠せない。


「迎えの準備をせよ! 丁重に迎えるのだぞ!」


 王の弾んだ声が部屋に響いた。





 夕刻過ぎの到着となるため、港の桟橋には松明が準備された。松明は、城の入り口まで続く。城内では、アイラのため客間が華美に用意された。


 ーーカーンコン カーンコンーー


 夕刻の鐘が鳴った。海面にユラユラと松明の灯りが揺らぐ。桟橋に灯された松明と、海面に浮かぶ灯り。そして、城の入り口へと昇っていく灯り。


 船から見るそれは、幻想的であった。船はゆっくりと桟橋へと進む。船から二本のロープが投げられた。桟橋の兵士がロープを引っ張り、杭にしっかり固定した。


 ーーバタンーー


 船と桟橋が板で繋がった。ジークは桟橋で待つルークに一礼し、花嫁の無事到着を報告する。


「豊の国の姫様を、城内にお連れしろ」


 ルークはジークに指示する。


「はっ」


 ジークは、アイラたちの待つ船室に向かった。


 ーーコンコンーー


 セリアが船室の扉を開けた。ジークは一礼する。


「ただいま、涼の国の桟橋に到着いたしました。城内にご案内いたします。ご準備を」


「すでに準備は出来ております。ご案内お願いいたします」


 セリアはかしこまって答えた。


 アイラは、クレアとセリアに両手を添えられて桟橋に降り立った。松明が続く桟橋をゆっくり進む。そして、城へと続くレンガ作りの道に一歩踏み出した。


 ここが、花嫁道の最終地。

 そして、


『これからがはじまり』


 アイラは、城の入り口へと続く灯りを見つめながら思ったのだった。

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