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【1日目】僕の能力

目が覚めた。まだ家が血生臭く、臭いと共に昨夜の出来事が現実だと脳に送りつけられる。



あれから家に帰り、警察と救急車を呼んだが、犯人も何も判らず仕舞いで参っている。

ただ一つわかったことは、母と父が誰かに殺され、姉はあれから行方不明になった事だけだ。

僕も死のうと思ったけれど、行動に移せずに居た。


自殺をやめようと思ったわけではなくまだ悩んでいる。

ただ自分を殺すという行為がこんなにも恐怖に駆られるなんて思っていなく…単に死ぬのが怖かったのが理由だ。


それにもう一つ理由がある。犯人を見つけ出す。

あのテレビから発していた機械音が言っていた事が本当なら、殺したのは同じ能力者だ、つまり人間。

なぜなら魔王と、魔王の手下は今日から現れると言っていたから

しかもあの日の夜。僕の両親だけではなく、近隣の家でも殺人事件が多発していたみたいだ。


狙われたのは同じく"親"、どこの家も子供は殺されてはいない。




布団から体を起こし、近くに置いてあったテレビのリモコンを手に取りボタンを押す。

今日は土曜日だ。今は朝の9時を過ぎているが学校は無い。

お前は急に喋り出さないよな。と不安に陥りそうになるが、そんなことはないはずだ。


いつも通り10chを押すと、昨日の自称『宇宙の神』の話を専門家達が話していた。


「アレが本物の神様だとしたら何の目的でこんな真似をしているんでしょうか?」

「私の推測ですが地球の人間達の愚かさに呆れ、とうとう…」


専門家がそう言いかけた所でチャンネルを変える。そんな事話し合ってもわかる訳がないのに…

それよりも『魔王』について情報が欲しかった。だが、どこの放送局も魔王についてはわからないらしい。

僕の家の周りであった殺人事件のニュースの報道も探したが、どこにも見当たらなかったので諦めた。



目が覚めてきた所で布団から出て、身体を無理やり立たせる。昨日の事もあり身体が思うように言う事が聞かない。

1階へ降りようと階段を降る。

まるでRPGゲームをやっているかの様に7日間かけて地球を滅ぼすなんて、本当にゲームの世界に来たみたいだな。と考えていると、1階のリビングへ入るドアの前についた。



心臓が高まる。もしかしたら夢だったんじゃないかと期待してしまう気持ちと

脳に焼き付いた真っ赤な映像が、ずっと張り付いてはがれない気持ち悪さが心を廻し続ける。



眼から涙がこぼれ落ち、つい右手の平を見るが、緊張は解れない。どうしてもこの扉を開けたくないと身体が悲鳴を上げている。

でも、ここで立ち往生していても何も進まない。今まで毎日このドアを開けていたし、これからも開けるからだ。勇気を出してドアノブを廻すと――真っ赤な光景はなかった。ほんの少し安心した。だが




「おはよう。僕くん」

「誰やねん」




つい関西弁が出てしまった。母親譲りで、驚いた時には出てしまう。

そこには、リビングのソファーに堂々と座り珈琲を飲みながらくつろいでいる女の子がいたんだから驚くのが当然だ。自然の摂理だ。


なんでやねん。


女の子が間髪入れずに続けて話す。

「私?私はフィリア。これから宜しくね」


目の前の女性は何を言ってるんだろうか。

フィリアを名乗る女性は、年齢は僕と同じ18歳ぐらいで、身長も僕と同じくらい。ハーフなのか色が白く鼻が高い。所謂美形だ。


「まず説明をしてくれ。お前は誰だ、両親を殺したのはお前か?どこから家に入った。何者なんだ?」

質問が止まらない僕に対し、呆れ顔をする彼女は立ち上がった。

飲んでいた珈琲をテーブルに置き、リビングの入り口から動けずにいた僕に近づいてきた。


「動くな。止まれ」

僕は警告をした、が彼女は止まらない。万が一の為に、能力を使う準備をしておく



彼女は僕の目の前に来た。頭を動かせば今にもぶつかってしまいそうな距離まで近づいて彼女は言った。

「ねえ僕くん。トイレって何処にあるの?」



こいつ何言ってんだ。頭のネジ吹っ飛んでんじゃねえのか。

一瞬緊張が緩まるが、警戒は解かない。

両親を殺した犯人の可能性がある。


「まず答えろ。お前は誰だ」


「話すと長くなるから先にトイレ行かせてよ」


「…扉を出て左に進んで突き当りがトイレ。電気は入ったらつく。早くしろ」


「ありがと、僕くん優しいねー」



僕はリビングの入り口から動き、トイレの場所を口頭で説明した。

一瞬たりとも目を離したくなかったから口で説明をしたが、茶化すように彼女は笑ってトイレへ向かった。



今の内に携帯から警察へ電話をしておこうと思い110番をする。が、かからない。繋がらない。

圏外ではないのに気の抜けた音声が耳に伝わる。…どういう事だ?

トイレの方から水が流れる音がし、歌声と足音がリビングに近づいてくる。


「お待たせ。じゃあ話そうか。」

彼女は言った。僕は何も返事は返さなかった。そして一歩も動かない。



動かない、と言うのは語弊があった。動けない。上半身は動くのに下半身は動かない。

緊張などではない、立ったまま居たから急に動けないのでもない、"動かない"のだ。


これはヤバイ。

いつの間にか能力をかけられていた。でも思い当たる節がない。

思考を加速させ、現状の打開策を考えるが、その間にも空気を読まず彼女は話す。



「私はフィリア。そうだね、ちょっと長くなるけれど貴方の質問に一つ一つ答えてあげるね。

まず私は貴方の両親を殺していない。犯人も知らない。本当だよ。

どうやって家に入ったかは、貴方が2階で寝てる間に朝玄関から入ったよ?」


「そう、で。お前は僕の何なんだ?何処から、何の目的で僕の家に来た」

身体が動かない分、反論は許されない。

僕は彼女の機嫌を損ねないように質問を重ねる。


「つまんない理由かもしれないけど、貴方に会いに来た。そのついでに、貴方を助けようと思ってね

何処から来たのかは言えないけど、理由はそれだけだから信じてね。

それと…僕くんが動けないのは私の能力だよ。もうわかってると思うけどね」


彼女は微笑む。心からの笑顔ではない、僕の姿を見て得た優越感の笑い。


「私の能力は『触れたものを一つだけ操る能力』複数は操れないけど、一つだけなら完璧に操る事ができる。動揺すると能力が解けちゃうけどね。どう?強いでしょ?」


確かに強い。と僕は答える。

寝てる間に触れられたのか。これからは注意しないといけない。



「僕くんってあだ名を知ってる理由も、貴方を操ってる時に記憶を覗いたからだよ。思わず笑っちゃった。

僕くんって…もうネーミングセンス抜群。私でもそう付けるよ。」


今度は心からの笑顔を見せる彼女、顔が良いだけにその姿は美しく目に映る。

だが、そんな笑顔で信頼は得られない。僕は質問を続ける。


「僕を助けに来た?どういう事だ。」


「そのままの意味だよ。これから貴方は色々な壁に当たるからその支えに来たんだよ。

一緒に頑張ろうね。あ、携帯は使えないようにしておいたから。だってほら、何かあったらダメでしょ?」


お前が訪問して来た事が一番の"何か"だよ

笑顔を絶やさずマイペースに事を進める彼女に、僕も苦笑いで返した。




少し落ち着いて来た。僕を殺すつもりなら、今ここで僕に自殺を命令すればいいし、

全身じゃなくて足だけ動かせなくしたのは、上半身が動くことで安心させる為と、逃がさない為だと思う。

本当に助けたいのか、利用するつもりなのかはわからないが、今の所は安全だろう。


「助ける。という事はこれから何が起きるのか知っているのか?」

「知らないよ。でも、このままじゃ貴方は死ぬ。だから来たの」

死ぬ…?こいつ未来からでも来たのか?いやでも彼女の能力は『操作』だからそれはないか…

僕は詳細を聞かず、礼を言って話を終わった。



彼女に出会ってもう1時間は過ぎていた。11時になる所だ。

机の上に置いてあった飲みかけの珈琲は、とっくに冷え切っている。

気温は12℃。何でこんなに寒いのかわからない。


彼女に冷えた珈琲を飲ませるのも悪いので、入れ直してあげる。


「優しいね」

さっきと同じ事を発する彼女の顔は、やけに寂しそうだった。

彼女はコップを口に近づけ、熱過ぎたのか息を吹きかけ冷ましている。

僕はテーブルのイスに座り、彼女はさっきまで座っていたソファーに腰掛ける。

何かの音が聞こえ、テレビがついていた事を思い出した。集中し過ぎて耳に入らなかったみたいだ。


しばらく無言の時間が続く、自宅に侵入して来た不審者とテレビを見ながら珈琲を飲むという事に軽い感動を覚えている。


「ところで、貴方の能力は何なの?私の『操作』でも隠したい記憶は覗けなくて」


無言の空気を切ったのは彼女だった。




僕の能力。




話そうか迷うが、もしこれから協力してくれるとしたら伝えなければならない。

話す事にした。




「僕の能力は『模倣』だ」




「模倣?なにそれ、初めて聞いた」



「他人の能力を知れる上、コピーして使う事が出来る。

でも、相手が能力を使ってくれないとコピーは出来ない。コピーした能力は何個かストック出来るけど、いくつストック出来るのかもわからない。」


「ふーん、じゃあ私の『操作』もコピー出来るって訳?」


「うん、実際に能力を受けたから出来る。だけど完璧なコピーは出来ない。オリジナルより劣化してしまう。まだ使ったことはないから詳しい事はわからないな。」


「なかなか使い勝手の良い能力ね、じゃあ…貴方のマナの色は?魔法使いなの?」




マナ。魔法使い。

名前だけ知っている単語。



「それなんだけど、マナとか魔術師とかって何?」


「…僕くんってネット見ないのね。」


「昨日は……だったし今日だってお前が携帯壊したんだろ」


「ああ、そうだった。なら仕方ないから教えてあげる。動きやすい格好へ着替えて来て」




彼女は言った。


「修行よ」


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