3,心の変化
「やばっ。寝坊した!!」
時計の針は7:20を指している。
「あ、起きた?アンタの目覚ましうるさかったから止めたよー。」
そう言うお姉ちゃんは既にスーツに着替え化粧をしていた。
「起こしてよー。今日1限からなのに!」
1限は8:40から。あと20分で家を出ないと間に合わない。
「何回も起こしたって!友達に代返して貰えば?」
「この先生は出席厳しいの。」
「諦めて2限から行けばー。」
薄目になってマスカラを塗るお姉ちゃんに何故かムカついた。
こんな人が教師になって良いんだろうか?
時計とにらめっこする。
「間に合う!」
そう言って急いで着替え、メイクもせず慌てて家を出た。
起きてから15分後、奇跡的に駅に着いた。時計を見る。なんとか間に合いそうな時間だ。走って来たから汗が出る。
ホームに行くといつもよりたくさんの人が居た。
『この時間は混むのなかぁ?』
息を落ち着かせつつ乗り換えしやすい5両面へ向かう。
すると構内アナウンスが流れた。
『只今、東横線祐天寺駅で人身事故が起きた為、上下線共に運転を見合わせております…』
足が止まる。
せっかく走ってきたのにー!
意味ないじゃん!!
とりあえず5両目へ行こうと歩き出した。
「イタっ。」
「あっすみません!!」
急に動いたから女の人の足を踏んでしまった。
「大丈夫?」
聞き慣れた低い声が聞こえる。
はっと顔を上げた。
「ユータ…」
私が足を踏んだ人の隣にユータが立っていた。
「サキ?」
ユータは驚きを隠せない様子だった。
訳が分からない女の人は私を見た後ユータを見つめていた。
「あ…久しぶりじゃん。」
無言が気まずくてとりあえず喋った。
「ホントだな。元気?」
「元気だよ―。」
ふと昨日のお姉ちゃんの言葉を思い出す。
「…彼女?」
彼女を見つつ、超ストレートに聞いてしまった。
「そう。同じ大学のユカリ。」
ユカリさんは恥ずかしそうにペコっと頭を下げた。
この人…私とは正反対だ。大人っぽい。てかお嬢様っぽい。
「こっちは中原さん。高校のクラスメイト。」
『中原さん』なんて呼んだ事も無いくせに。
まぁ、元カノとは言わないよなぁ…。
って、とりあえず謝らなきゃ。
「足踏んじゃってごめんなさい。」
「いえ、私こそ。ボケっとしてたから…。」
無言になる。
気まずい。
「私乗り換えあるから向こうの車両行くね。」
「あぁ。あ、そうそう、谷原が夏休みにクラス会やろうって言ってた。また連絡行くと思うから。」
「わかったー。」
そう言って振り返り人混みの中を歩き出した。
「ユカリ、危ないから俺に掴まってて。」
遠ざかる中、かすかに聞こえたユータの声。
もう私には向けられない優しさ…。
彼女、ユータの家に遊び行ったんだろうなぁ。ユータのお母さんめっちゃ優しくて良い人だから、すぐ仲良くなるんだろうな。
いっつも『サキちゃん』って可愛がってくれたな…。
分かっていたはずなのに苦しい。
涙が溢れるのをガマンしてる。
なんで…なんでまだ好きなんだろ?私だって次の恋したいよ。
『新しく好きな人出来たらユータなんかすぐ忘れるって。』
ナチに何回も言われたコトバ。
さっきの幸せそうなユータを思い出す。
こっちはこんなに悩んでるのに楽しそうにしやがって!
なんかだんだんムカついてきた。
よし、私も好きな人作ってやる。ユータよりめっちゃ良い男捕まえてやる!
悲しみが怒りに変わったのか、自然とそう思えた。
でも…
恋ってどうやってするんだっけ…。
「ナチ、やっぱ私も合コン行く!」
ナチに会った瞬間、おはようも言わずそう言った。
「えっ?遅刻してきていきなり何言ってんの?」
結局学校に着いたのは1限が終わる頃だった。普段でさえ満員すぎる電車がそれ以上だったから授業は諦め、空いてから来た。
「今更合コン行くって言われてもムリ。もうカヨに頼んじゃったよ。」
「うそぉ。お願い!私も入れて!!」
「急にどうしたの!?何かあった?」
「それは…」
「わかった。ゆっくり聞くからとりあえずどっか行こ。」
今日は1限と3、4限の日。3時間近く空くから近くのファミレスに行く事にした。
「で?何があったの?」
注文を言った後すぐナチは問いかけた。
「今朝ユータに会った。」
「まじ?」
「隣に彼女居た。」
ナチは目を広げて驚いた。言葉が出ないっぽい。
私は今朝の詳細と昨日のお姉ちゃんとの会話を全部ナチに話した。
「つまり…新しい恋をする気になったんだ?」
「うん。でもどうやって好きな人作るか忘れちゃって…同じ学科の男の子は一緒に居て楽しいけどときめかないしさー。」
「だから合コンかぁ。」
「そゆこと。」
「昨日まで合コンキライとか言ってたくせに。」
「今は手段選んでる場合じゃないの!一日でも早く彼氏が欲しいんだって。」
「人は一日で変わるもんだねぇー。でもサキがそう考えれるようになったのは嬉しいよ。」
そう言ったナチは笑顔だった。
「で…合コン参加はムリ?」
「んーサキがそこまで言うなら相手にお願いしてみるよ。どうなるか分からんけど。」
「ありがとう!いざとなったら3:4でも良いから!」
「アンタがよくても周りが良くないから!」
…間違いない…。
ナチはメールを打ち始めた。
その間に注文したハンバーグランチ(ライス大盛り)が私の前に置かれた。
「サキ昼からよく食べるね―。」
ナチはケータイを打つ手を止め、大盛りなご飯を見た。
「今日朝ご飯食べて無くてさー。朝昼ご飯だから♪」
「サキってよく食べるのに太んないよね―。うらやましい。」
「食べて動く!これ基本☆」
「ウソつけ。運動してないクセに。」
「バレた?でも運動したいなー。今更だけどサークル入らない?」
「何よー通学に時間掛かるから入りたく無いって言ったくせに。」
「でもサークルって『大学』って感じするじゃんー。」
「あっ、返事来た。」
話を遮ってナチが言った。
「早いねー。」
メールが早い男の人ってなんか負けた気がするのって私だけかなぁ?
「『全然大丈夫☆こっちも一人足すから。』だって。」
「まじ!?ありがとうー。」
「…てかサキ…?」
「んん?」
大口でハンバーグを入れた瞬間ナチが言った。
「アンタスッピン&その服で行くつもり?」
「んー!?」
急いでハンバーグを飲み込んだ。
「そうだった。今日寝坊したから慌てて来たんだよ。メイク道具は持ってるけど…。」
今の服装…いわゆる…Tシャツ&ジーパン、、、。
「メイクは良いとしてもさすがにそのカッコは無いよ。」
「あぁ!って事はこのカッコでユータに会っちゃったんだぁ。やばい。」
「サキー。もう忘れるんじゃないのー?」
「あ…ついクセで、、、それよりどーしよう?」
「家戻る時間は無いよー。6時に待ち合わせだから。もうそれで良いんじゃない?いちおセシルのTシャツにジーパンだからオシャレっちゃオシャレだよ。」
「ナチ投げやりでしょー!」
「ホントに思ってるって。それより早く食べて化粧した方が良いって。」
人生初の合コン。どうなる事やら…。