13,キス
「…どーゆー事?」
金曜日のテスト後、ナチは渋谷で降りずそのまま東横に乗り換えた。
てっきり地元で遊ぶのかと思ったら祐天寺で降りた。
そして改札にはしんちゃんが居る。
「よっ。サキちゃん久しぶり。」
「久しぶり―…だけどどーゆー事?」
何でしんちゃん?
「今日はサトシ君家でたこパだって。っても4人だけだけど。」
サトシんち!?
祐天寺に降りたった時から薄々感じていた予感が当たる。
「スーパーで食材と酒買ってこ。」
しんちゃんが歩き出す。
「待ってナチ!私行けないよ。」
「良いから行くよ。ウチらも居るから大丈夫だって。」
そういう問題じゃなくて…会う事自体が…。
ナチに引っ張られ買い物をし、サトシの家に辿り着いた。
「サトシ―。入るぞ―。」
しんちゃんはノックもせずドアを開け、部屋の中へ入っていった。
「シンタロウ!?何しに来たんだよ?」
部屋の奥からサトシの驚く声が聞こえてきた。
「たこ焼きしに来た☆」
しんちゃんが平然と答える。
「はぁ?」
「ねぇナチ、もしかしてサトシも知らされてない?」
「どうやらそうみたいだね―。」
そう言うナチはニヤついてる。
絶対に2人で何か企んでる。
「ナチ、サキちゃんも入って来なよ―。」
しんちゃんが呼ぶ。
「サキ!?」
サトシが驚いているのが分かる。
元気よく入っていくナチに続いて部屋に入った。
サトシと目が合う。
なんとなく逸らしてしまった。
「いきなり何しに来たんだよ?」
サトシがしんちゃんに問いかける。
「だからたこ焼きだってば。たこ焼き器出してよ。材料費は俺のオゴリだから気にするな☆」
「そういう事じゃなくて…。もういいや。ちょっと待ってて。」
サトシは降参したらしい。
「じゃあ私とサキで材料切るね―。キッチン借りるよ―。」
そう言ってナチは私を引っ張ってキッチンへ連れてった。
「サトシ君部屋キレイだね―。突撃なのにキッチンまでこんなにキレイ。」
タコを切りつつナチが言う。
私は生地を混ぜつつナチの方を見た。(野菜を切る私の手つきが怖かったらしく、ナチに生地係を任命された。)
「部屋はキレイじゃなきゃイヤらしいよ。」
「じゃあサキと付き合いだしたら大変だね。サキは散らかすの専門だし。」
「そういう事言わないでよ!聞こえちゃうじゃん。」
ナチにはユータともう会わない事、サトシに告白されたけど、思いきりがついて無い事も話した。
「別に良いじゃん。OKするんでしょ?」
「だからまだ分かんないんだって。」
「そーゆう事言ってるとチャンス逃すよ―。サトシ君見てみなよ、かっこいいしすぐ女寄ってくるって。」
文句を言いつつたこ焼き器の準備をするサトシを見る。確かにかっこいい…けど、、、
「別に顔で好きになった訳じゃないし…。」
「ほら、『好き』って言った。自分の気持ち、認めるんじゃないの?」
ナチの言葉はいっつも私のココロにグサッとくる…。
「まぁ頑張って☆応援してるから。」
何をどう頑張ればこの迷いは消えるのだろうか…。
「よし、準備出来た―。」
材料を持って部屋に入った。
「こっちも準備出来たよ。よし焼くべ♪焼くべ♪」
アンティーク調で真ん中がガラスになっている机の上には、似つかないたこ焼き器と大量のお酒のビンに缶…。
「私、飲まないからね…。」
思わず宣言してしまった。
大学生ってホントたくさんお酒飲むんだね…。
進学校でわりと真面目に生きてきたから、お酒への抗体が無いのかなぁ…。
まぁ、多分こんな事になると思い、自分用の烏龍茶をこっそり買い物カゴに忍ばせといた。
「大丈夫。サキには意地でも飲ませないから。もう面倒みたくないし。」
サトシが言う。サトシ、至ってフツーだなぁ。
「えっ、サキまた酔っ払ったの?」
ナチが驚く。
「違うよ。それは合コンの時の話だって。」
「???」
ナチの頭に?マークが浮かんでる。。。
そーいえば話して無いんだった!
記憶無くしてサトシんち行った事。
「大変だったんだろ?サキちゃん駅で叫んだりとか。」
しんちゃんが笑いつつ言う。
「それは言わないで…。」
あっさりとナチにばれてしまった…。またからかわれちゃうよ…。
「とりあえず乾杯しよ。」
しんちゃんの掛け声で4人だけのたこ焼きパーティーが始まった。
「ちょっ、サキ下手すぎ。」
たこ焼きを返そうとするがなかなか出来ない。
「仕方ないじゃん。初めてやってんだもん。」
「見てらんないから俺やるわ。」
そう言ってサトシは私の頑張った形跡をくるっと返した。
ちょっと悔しい。
「サキちゃん、サトシとナチにやらせとけば良いって。俺達は食べる専門で♪」
しんちゃんが言う。
「シンはやろうともしてないじゃん。」
サトシが怒る。
「俺がやるとどーせ口出しすんだろ?」
「シンは適当すぎるんだって。ホント典型的O型だよな。」
「性格に血液型は関係ないんだぞ。」
「ねぇねぇしんちゃん!私もO型だよ。」
「おっ、サキちゃんも〜?何か似てると思った。仲間じゃん♪」
「サキは会った日からO型って分かったよ。ズボラっぽいし 笑」
ふとサトシん家でブラを投げてた(?)のを思い出す。
あれが第一印象だもんな…。
一体、サトシは私のどこを好きになったのだろうか…。
「ちょっと、O型=ズボラとか大雑把とか決めつけちゃぁいけないよ、この典型A型君!」
「やっぱサトシはA型なんだ。」
「そっ、ホント色々細かいんだよ。」
「だからこんなに部屋キレイなんだね〜。」
「部屋キレイとかは当たり前だって。」
「サキ―当たり前だって。」
ナチが隣からつついてくる。
ナチは私の部屋が汚い事とか、高校時代、自分の机の上さえ片付けられなかった私を知ってる。
「サキちゃん、コイツと付き合えば掃除も洗濯も料理もしてくれるよ。付き合っちゃいなよー。」
そこは触れないで欲しいのに…。まぁ酔っ払ったしんちゃんに分かる訳ないか。。。
「サトシって料理も出来るんだ―。」
気にしないように話題を変える。
「俺、バイト先の居酒屋でキッチンやってるから。料理好きな方だし。」
ちょっと待って。料理も掃除も出来て見た目もかっこいい、そして医学部に入れる頭脳。
…完璧じゃん。
でも頭良いとか全く鼻にかけたりしない。
それがまた完璧だ。
なんだかんだでタコパは楽しく進んだ。
途中、ロシアンルーレットでタバスコ大量のたこ焼きを食べちゃったの以外は…ね。
「あっ、もう8時過ぎた!」
たこ焼きの片付けを終えのんびり飲んでいるとナチが叫んだ。
「えっ?今日何かあるの?」
「9時から映画観なきゃ!私帰るね。今日、しんちゃんの好きなラピュタだよ。」
「まじで?俺も帰るわ。」
「えっ?えっ?ナチ帰るの?じゃあ私も…。」
「サキはゆっくりしてきなって。後は2人でごゆっくりどうぞ☆」
しんちゃんとナチは荷物をまとめ立ち上がった。
「じゃあジャマ者は消えまーす。あっ、サトシ。今日のお礼☆」
そう言ってしんちゃんは小さな物を投げた。
「おい、シンタロウ!要らねーよ。」
「ダメだよ、避妊はちゃんとしなきゃ。」
サトシの手にはコンドームが握られてる…。
「そうじゃなくてー!」
「サキちゃん、コイツ初☆だからリードしてあげてね♪じゃ。」
嵐が去って行った…。
かな―り気まずい。
沈黙が流れる…。
「ったくシンタロウってヤツは…。サキ、気にすんなよ。」
サトシはコンドームをゴミ箱に投げ入れた。
「あっ、ミスチルだ。俺好きなんだ―。」
そう言って私を見ようとせずテレビに集中してる。
気持ちは決まってる。あとは勇気だけ。
勇気、出さなきゃ。
「サトシ、あのね…。」
「ん?」
ソファに座るサトシの横に座った。
サトシがやっと私を見た。
大きく深呼吸する。
「…告白の返事なんだけど…こんな私で良かったら…付き合ってください。」
「…ホントに?」
サトシが覗き込んでくる。その目をしっかり見つめ、私は頷いた。
「!?」
サトシに抱きしめられる。
「サキ…ありがとう。嬉しい。」
私もゆっくりと抱きしめた。
身体の力が抜けて行く。自分の全てをサトシに託したくなる。
テレビからミスチルのバラードが聞こえてきた。
この空間、全てが心地よい…。
ふとサトシの腕の力が弱まる。
お互いに見つめ合う。
キス…。
『サキ、キスして。』
ふとユータを思い出す。
顔をそむけてしまった。
「あっ…ごめん。」
「いや、俺のがごめん。先走りすぎだわ。」
サトシは照れ笑いした。
「別にイヤな訳じゃ…」
「大丈夫。分かってるから。それより久々にサキと色々話したい。」
そう言って微笑んでくれるサトシに罪悪感を感じる。
「てかさ、シンタロウ達ラピュタ見たいとか…もうちょいマトモなウソつけよなー。」
いつもの会話が戻ってくる。
ホントどうでも良い話。それがイチバン楽しい。
そしてなんだかんだ言って私たちもラピュタを観た(笑)
「サキ、そろそろ帰った方が良いよ。」
「えっ?」
時計を見る。まだ10時ちょっと過ぎた位。
「まだ大丈夫だよ。ラピュタ終わったら帰るよ。」
ラピュタって何回観ても飽きないんだよね…。
「いや…俺が大丈夫じゃないから。」
「何で?明日早いの?」
「そうじゃなくて…男はオオカミなんです。」
サトシが恥ずかしそうに言う。
「あぁ…」
やっと意味が分かった…。
顔が熱くなる。
「テスト終わったらデートしよ!」
改札を通る直前にサトシが言った。
「うん!」
笑顔で返事した。
ここまで読んで下さって本当にありがとうございます(*>ω<*)
稚拙な文章なので、読んでいて気付いた点がありましたらぜひご指摘願います!