第6話 コマンダー・ライカの悲劇
※コマンダー・ライカ視点です。
――EF2015.02.17 02:21 【ルイン本部要塞内 最上級医療室】
本当に大変なことになった……。
パトラー=オイジュスが目覚め、パトフォーを殴り倒し、施設中にサイエンネット・ウィルスが蔓延してしまった。もう、この施設はダメだ。早く逃げないと……。
私は自分の右腕から注射器の針を抜き、空になった注射器を机にそっと置く。ここは最上級医療室。連合政府上層部の人間だけが使える部屋だ。
「コマンダー・ライカ将軍、ワクチン接種は終わりましたか?」
「お、おうっ……」
私は部下のクローン兵の声に、生返事をする。もう、注射器には何の液体も入っていない。これはサイエンネット・ウィルス用のワクチンだ。これを打つことで、グールにならないで済む(これで本当に大丈夫なのかっ!?)。
「急ぎましょう。もう連合政府は終わりです。サイエンネット・ウィルスさえ持っていけば、ネオ・連合政府も閣下を受け入れてくれるでしょう」
「分かってるっ! うるさいな、君はっ!」
「す、すいません……」
ワクチンが効かず、結局グールになってしまうんじゃないか? 連合政府から分離・独立した組織――ネオ・連合政府は、私を受け入れてくれないんじゃないか? そんな恐怖が私を支配していた。
私はサイエンネット・ウィルスを保管したケースを手に取り、イスから立ち上がる。早くこんなところから脱出して、ネオ・連合政府へ向かわないと……。
「パトラーはなんで目覚めたんだ……。しかも、その直後のサイバー攻撃はなんだったんだ……」
私は愚痴を吐きながら、薄暗い廊下を歩いていく。
パトラーの目覚め自体が予想外だ。しかも、謎のサイバー攻撃で、施設内の軍用兵器は全てストップ。バトル=オーディンも機能を停止させてしまった。ウィルスも蔓延した。
やがて、小さな廊下から、広い廊下へと出る。そこには、大勢のクローン兵が待っていた。全員がワクチンを接種済みだ。たぶん、もう私たち以外には誰も生き残ってない。
「コマンダー・ライカ将軍、急いでください。パトラーに出くわすとやっかいです」
「分かってるっ……!」
私は数十人ほどのクローン兵と合流すると、その場から歩き出す。もうパトフォーなんか知ったことじゃない。どうせ、アイツはもう死んだだろう(呆気ない男だ)。
だが、少し歩いた所で、私は足を止める。……前から誰か来るぞ?
「ライカ将軍、あれは誰でしょう?」
「知らんっ。お前の友達じゃないのか?」
よく見ると2人いる。……片方のヤツ、何か引きずってるぞ?
「…………! ライカ将軍っ、あの2人は!」
「なんだ、思い出したのか? ……で、誰なん―― …………ッ!?」
私の身体から血の気が引いていく。……なんてことだ、あれは――
「アレがコマンダー・ライカだ……。パトラー、お前を傷つけた張本人」
「…………」
何かを引きずる女――アレイシアが私を指差して言う。その真横にいるのは、パトラー=オイジュスだ! ヤバイっ……!
アレイシアは引きずっていたモノを投げ捨てる。よく見ると、それは上級のクローン兵だ。すでに息はない。……コマンダー・コルボ! 私の部下じゃないか……!
「アレイシア、お前っ!」
私は腰に装備していた剣を手に取ろうとする。だが、それよりも前にパトラーの方が早く動いた。彼女は一瞬で、私の後ろに回り込む。
「えっ……?」
パトラーが青色に硬化した巨大な爪を振り上げ、側にいた数人のクローン兵をまとめて薙ぎ払う。血が飛び散る。
私は呆然としてパトラーの後ろ姿を見ていた、右腕だけが変異し、グールの腕となっている。それ以外は人間と変わらない。サイエンネット・タイプ3=ウィルスのせいだろうか……?
「こ、殺せっ!」
誰かが叫ぶ。数人のクローン兵がアサルトライフルの銃口をパトラーに向け、一斉に射撃する。けたたましい銃撃音。銃弾がパトラーを襲う。彼女の血が、床に飛び散る。
だが、パトラーは怯むことすらせず、クローン兵たちに飛び掛っていく。次々と彼女たちの身体は斬り裂かれ、あっという間に命を奪われる。
「ひぃ、いやだぁっ! 助けてライカ将軍!」
泣き叫ぶクローン兵を、パトラーは何の躊躇もなしに殺す。鋭い爪で、彼女の胴を貫く。彼女は苦痛に顔を歪ませながら絶命する。……部下たちは、ほとんど一瞬で皆殺しにされてしまった。
私は剣を落とし、その場に座り込む。涙が頬を伝っていく。
「ライカ、もうお前の悪運も尽きたようだな」
「…………!」
すぐ後ろからアレイシアが声をかけてくる。私が振り向くと同時に、彼女は私に飛び掛って押し倒す。サイエンネット・ウィルスを入れたケースが転がる。
「い、いやだぁ、助けてっ!」
私は冷たい表情をしたアレイシアに命乞いする。怖くて仕方なかった。心の底から震えていた。殺されるっ……!
私を押さえ込むアレイシアは、チラリと転がったケースに目をやる。サイネンネット・タイプ4=ウィルスの入ったケースだ。
「そ、そうだっ、サイエンネット・ウィルスを、クリスター政府に、持って行けばっ、きっと受け入れて、くれると思いますっ……!」
クリスター政府は元々パトラーが所属していた組織だ。最近聞いたが、パトラーの師フィルドもシリカと一緒にクリスター政府にいるらしい。
アレイシアは冷たい笑みを浮かべると、ケースを開ける。
「えっ、な、なにをっ?」
中から青色の液体――サイエンネット・タイプ4=ウィルスが入った注射器を取り出す。そして、私の右腕のレザースーツを捲し上げる。
「タイプ3・ウィルスとそのワクチン。それが入った身体にタイプ4・ウィルスを流し込むと、どうなるんだ?」
「…………!!? な、なにをするんだっ!? いやだっ、いやだぁッ!」
アレイシアは私の叫びを意に介さず、針を右腕に突き刺す。鋭い痛みが走る。
「ひぃ、助けて、助けてッ!!」
「これが、パトラーにしたことだ……」
冷たい声で言うアレイシア。泣き叫ぶ私の身体にサイエンネット・タイプ4=ウィルスを流し込んでいく。その様子を、パトラーは無表情で眺めていた――。
<<タイム・ライン>>
◆2/15 19:27
◇完成体(パトラー=オイジュス)が暴走。
◇コマンダー・ドロップが殺害される。
◆2/17 01:17
◇パトラーとアレイシアが出会う。
◆2/17 02:21
◇コマンダー・ライカがパトラーとアレイシアに襲われる。
◆2/17 20:47
◇パトラーの師フィルドと、シリカがルイン本部へと乗り込む。
<<登場人物>>
◆パトラー=オイジュス(人間女性)
◇フィルドの弟子。
◇実験台にされていた女性。元は普通の人間女性だったが、サイエンネット・タイプ4=ウィルスを投与され、超人的な能力を得た。
◇記憶を失っている。
◆アレイシア(クローン女性)
◇連合政府将軍。
◇パトラーを助けようとしたが失敗し、捕らえられていた。
◇フィルドのクローン。
◆コマンダー・ライカ
◇連合政府将軍/第二代連合政府総統。
◇ルイン本部から脱出しようとしたが、アレイシアらに襲われ、サイエンネット・タイプ4=ウィルスを打たれる。
◇フィルドのクローン。




