第5話 赤色の再会
※第1話と第2話の間に位置する話です。
※パトラー視点です。
――EF2015.02.17 01:17 【ルイン本部要塞内 廊下】
頭が痛い……。
薄暗い小さな廊下。辺りは闇と静寂に包まれ、何者の気配もない。少し前まで鳴り響いていた警報によると、施設を襲ったサイバー攻撃で軍用兵器は機能を停止させ、クローン兵も多くがウィルスに感染して死んでいったらしい。……もうすぐ、グールとなって動き出す。早くここを離れないと……。
「ぅ……!」
右腕に鋭い痛みが走る。私は左手で右腕を抑えて、その場に座り込んでしまう。なんだろう、“あの部屋”を出てから、何度も右腕に痛みが走る。それに、かなりの熱を持っているみたいだ。触れるとそれが分かる。いや、それだけじゃない。小刻みに痙攣している。それもずっと……。
私は近くの扉をそっと開け、部屋の中へと入っていく。何かのオフィスだ。誰もいない。いや、クローン兵の死体が転がっている。みんな似たような姿をした女性。誰のクローンなんだろうか……。
そのとき、再び強い頭痛が私を襲う。……赤茶色の髪の毛に美しい顔立ちをした女性。前にもどこかで、ずっと私の側に……私の側に?
私は床に散乱した紙切れを一枚手に取る。よく分からない。何が書いてあるんだろうか? コマンダー・ライカ、バトル=オーディン、連合政府、国際政府……。
紙に目を通した途端、また頭痛に襲われる。私は紙を投げ捨てる。頭が痛い。思い出せない。それに、思考が上手く回らない。頭に薄い膜が張っているみたいだ。
そのとき、別の紙に目がいく。“パトラー=オイジュスへの実験成功”と書かれた紙を手に取る。なぜか、手が震える。
『完成したサイエンネット・タイプ4=ウィルスをパトラー=オイジュスに投与した結果、期待通りの結果が得られた。
総員は敵国(“国際政府”及び“クリスター政府”に加え、“ネオ・連合政府”もこの定義に含める)からの攻撃に、これまで以上に注意せよ。
ここまで来てウィルスを奪われてはならない。このウィルスを持っているのは、私たちだけである。これが世界を姿を一変させることの出来る、唯一の武器だ。
連合政府第二代総統コマンダー・ライカ』
私はなぜか崩れるようにして座り込む。目から涙が溢れ出る。なんで……? ワケも分からずに、その場に蹲り、声を殺して泣き出してしまう。
記憶が抜け落ちている。書いてあることの半分も理解できない。ただ、助けて欲しい。そんな想いが心に広がっていく。……誰に?
私はさっきの紙にもう一度、目をやる。……クリスター政府。その名前にやたら惹かれる。なぜかは分からない。
「パトラー=オイジュス。クリスター政府に裏切られ、連合政府によって実験台にされた悲劇の女性」
「…………!?」
いきなり部屋に響いた女性の声。私は素早く後ろを振り返る。出入り口に誰か立っていた。黒い上着を1枚だけ羽織った半裸の女性。
私は半ば反射的に彼女に向かって飛び掛る。宙を舞いながら、右腕を振る。真っ赤な炎の弾が飛んでいく。半裸の女性も素早く動き、部屋に飛び込む。炎の弾を避ける。
憎い、殺したい、許さない……! なぜか、そんな想いが私の心を染めていく。今までも、この想いに駆られて、目に付いたクローン兵たちを皆殺しにしてきた。
「サイネンネットの力か……! さすがだ、パトラー」
「…………ッ!」
パトラーという単語が頭を貫く。私はその場で動きを止めてしまう。
「自分の名前さえも奪われたのか、ひどいことするんだな……」
半裸の女性は哀れむような声で言う。私はそっと後ろを振り返る。そのとき、右腕が激しく痙攣し、再び激しく痛む。
「うッ、あぁあッ!!」
「パトラーっ!? どうした!?」
あまりの痛みに、私はその場に倒れのた打ち回る。驚いた顔をした半裸の女性が駆け寄ってくる。……その身体は傷だらけだった。
「よ、寄るんじゃないっ、連合政府! …………!?」
連合政府? 私は何を言っているんだ……!?
半裸の女性は私の言葉に反し、側に寄って来る。腰を下げ、片膝を着きながら私の右手に触れる。手が少し震えていた。
「これは、サイエンネット・ウィルスが暴走しているのか……? 連合政府め、粗悪品をパトラーに……!」
「お、お前はっ、連合政府じゃ、ないの、かっ?」
私は激しい痛みに耐えながら、声をなんとか上げる。痛みで額に汗が滲む。
「私は連合政府に反逆し、捕らえられた。地下の牢獄でずっと拷問されていた。……お前を助けようとして、失敗したんだ」
「…………!?」
彼女はそう言いながら、私を抱きしめる。なぜか、この温もりに覚えがあった。昔もどこかで同じように、こうやって抱きしめられた……?
「一緒に敵を倒そう。もう、二度とお前を酷い目に合わせない。私が守るから、ずっと側にいるから、一緒に戦ってほしい。……お前を傷つけた者を、一緒に滅ぼそう」
「わ、私を傷つけた……?」
彼女は私を強く抱きしめながら、無言で頷く。
右腕はまだ痛い。しかも、いつの間にかおびただしい量の血が流れている。戦う前に、これを治療した方がいいような……。
「お前の、名前はっ……?」
「――アレイシア。お前の唯一の味方だ」
<<タイム・ライン>>
◆2/15 19:27
◇完成体(パトラー=オイジュス)が暴走。
◇コマンダー・ドロップが殺害される。
◆2/17 01:17
◇パトラーとアレイシアが出会う。
◆2/17 20:47
◇パトラーの師フィルドと、シリカがルイン本部へと乗り込む。
<<登場人物>>
◆パトラー=オイジュス(人間女性)
◇フィルドの弟子。
◇実験台にされていた女性。元は普通の人間女性だったが、サイエンネット・タイプ4=ウィルスを投与され、超人的な能力を得た。
◇記憶を失っている。
◆アレイシア(クローン女性)
◇連合政府将軍。
◇パトラーを助けようとしたが失敗し、捕らえられていた。
◇フィルドのクローン。




