第18話 最後の脱出者
※フィンブル視点です。
私はルイン本部要塞の屋上に出る。雪はやんでおり、空には晴れ間が見え始めている。東の方の空が明るくなり始めている。
[ルイン本部爆破装置作動まで残り10分です]
急いだ方がよさそうだな。ルイン本部屋上のヘリポートには、コマンダー・ライカが脱出のために準備していた上陸艦やガンシップが何機も並んでいる。その護衛用の小型戦闘機も……。
「私は運がいい」
そう呟き、小型戦闘機の方に向かって歩き始める。これでルイン本部から脱出できる。あとはクリスター政府の飛空艇に拾って貰うだけ。
だが、そのとき、私の進む方向に何かが降り立つ。普通のグールに比べ、体格が大きいグールだ。その皮膚の色も、黒じゃなくて青色だ。そして、両腕が大きな爪に変異している。このグールは――
「コマンダー・ライカ、死んだハズじゃ……?」
彼女はアレイシアとパトラーにサイエンネット・タイプ4=ウィルスを注入され、サイエンネット・タイプ4=モンスターに変異した。その後、シリカとフィルドによって倒されたハズだ。まだ生きていたのか。
雄たけびを上げるコマンダー・ライカ。彼女は体格に似合わぬず、素早い動きで私に向かって走り迫ってくる。
「……“前のあなた”よりも強そうだな」
私はハンドガンの銃口を向け、コマンダー・ライカの額を狙い撃つ。銃弾は空気を切り裂きながらまっすぐ進み、彼女の眉間を貫く。だが、彼女は怯みさえせず、爪を振り上げ、ますます速度を上げて走ってくる。
私はその場から走って離れ、ガンシップの上に飛び乗る。そこから彼女の頭を何度も撃つ。銃弾がめり込むと同時に血が飛び散る。
「…………!?」
コマンダー・ライカはガンシップにその爪を深く刺し込み、無理やり機体を持ち上げようとする。私はバランスが崩れる前にすぐに別のガンシップに飛び乗る。
「なんて力……!」
ガンシップを持ち上げたコマンダー・ライカは、私の方向を向き、それを思いっきり投げる。軽量物を投げたかのような感じだった。
空中で弧を描きながら私の方に向かって降ってくるガンシップ。私はそこから地面に飛び降りる。私の乗っていたガンシップは、コマンダー・ライカの投げたガンシップによって押しつぶされる。
「クッ……!」
コマンダー・ライカは別のガンシップを持ち上げる。私は素早く手を振る。ラグナロク魔法を纏った大型の火炎弾が飛んでいき、それはガンシップの運転席――エネルギー・クリスタルが内蔵されたエンジンに直撃する。強力な火炎弾を喰らったエネルギー・クリスタルは爆発し、猛烈な爆風と共に、真っ赤な炎が上がる。すぐ側にいたコマンダー・ライカは炎に飲み込まれ、そのままガンシップの下敷きになる。
「呆気ない」
私は彼女に背を向け、小型戦闘機に乗り込もうとする。だが、後ろで何かが崩れるような物音が上がる。後ろを振り返ると、さっき爆発を起こし、コマンダー・ライカを押しつぶしたガンシップが押し倒されていた。炎の中から、コマンダー・ライカが出てくる。
「なんて強さ……! これがサイエンネット・タイプ4の力……!」
私は小型戦闘機を操作しながら呟く。小型戦闘機の操作が終わると、私はそこから飛び出す。誰も乗っていない小型戦闘機が浮き上がる。雄たけびを上げるコマンダー・ライカが走ってくる。
「これで終わりだ、ライカ」
浮き上がった小型戦闘機は、最高速度で一直線に前――コマンダー・ライカが走ってくる方へと飛んでいく。小型戦闘機をコマンダー・ライカに突っ込ませる。1機、無駄になってしまうが他に何機もある。乗るのは私一人。問題ない。
だが、私の予想に反して、コマンダー・ライカは飛んできた小型戦闘機をその大きな身体で抱き留める。
「なんだと……!?」
背筋に冷や汗が流れる。全速力の小型戦闘機を受け止めている。ただ、少しずつ足が後ろに滑っている。私はそれを見逃さず、彼女の右脚をハンドガンで撃ち抜く。コンクリートの地面に血が飛び散る。一瞬バランスを崩した彼女の身体は、小型戦闘機と共に後ろの建物へと飛んでいき、高速で激突する。大きな爆発音が起こり、炎が上がる。
[ルイン本部爆破装置作動まで残り1分です]
「…………!」
私は別の小型戦闘機に乗り込み、急いで浮上させる。小型戦闘機は問題なく浮き上がり、西に向かって全速力で飛ぶ。
少しの間飛んでいると、シールドを張ったこの小型戦闘機を引き裂かんばかりの衝撃が伝わってくる。後ろでルイン本部の爆破装置が作動し、本部要塞の全てが吹き飛んだ。
何もかもが巨大な炎に包まれていく。本部要塞が崩れ、一部の瓦礫が飛んでくる。炎が勢いよく迫り、僅かな間、この小型戦闘機も業火に包まれる。
「危なかった。あと少し遅れていたら、巻き添えを喰らうところだったな……」
私は肩の力を抜き、一息つく。急に強烈な疲れが襲ってくる。だが、それもつかの間の安息でしかなかった。
「…………!?」
一瞬、小型戦闘機の横を何かが横切る。それは、空を自在に飛びながら、私を乗せた小型戦闘機の前に現れる。……それは全身に炎を纏い、両腕が翼と化したグールだった。
「ま、まさか……コマンダー・ライカなのか!?」
そう叫んだとき、私の身体が小刻みに震え出す。
これまで最強とされたサイエンネット・タイプ3=ウィルスでも、これほどにまで強大な生命力を創り出すことは出来なかったし、そもそも不可能だとされてきた。
それが、サイエンネット・タイプ4=ウィルスでは、感染しただけのフィルド・クローンに出来てしまっている。
「強すぎる……」
私は側においたパトラーの右腕が入った円柱状の大型試験管に目が行く。こんな物をクリスター政府に届けていいのか? このウィルスを“この世に存在させていいのか”――?
<<タイム・ライン>>
◆2/15 19:27
◇完成体(パトラー=オイジュス)が暴走。
◇コマンダー・ドロップが殺害される。
◆2/17 01:17
◇パトラーとアレイシアが出会う。
◆2/17 02:21
◇コマンダー・ライカがパトラーとアレイシアに襲われる。
◆2/17 20:47
◇パトラーの師フィルドと、シリカがルイン本部へと乗り込む。
◆2/17 23:34
◇フィルドとシリカが怪物化したコマンダー・ライカと出会う。
◆2/18 01:41
◇ヒライルーがルイン本部をサイバー攻撃で制圧する。
◆2/18 01:48
◇ビリオン=レナトゥスのクローン精鋭部隊が、連合政府最重要シールド・メモリ回収のため、ルイン本部に侵入する。
◆2/18 02:52
◇フィルドとパトラーが再会する。
◆2/18 03:01
◇ビリオン=レナトゥスのクローン精鋭部隊が連合政府最重要シールド・メモリを回収し、ルイン本部を脱出する。
◆2/18 03:19
◇パトラーの記憶が戻る。
◆2/18 04:41
◇フィルドらがルイン本部から脱出する。
◆2/18 05:12
◇パトフォーがルイン本部からの脱出を目指し始める。
◆2/18 05:13
◇コマンダー・フィンブルとクラスタが取引し、ルイン本部からの脱出を目指し始める。
◆2/18 05:41
◇パトフォーがルイン本部から脱出する。
◆2/18 05:59
◇コマンダー・フィンブルがルイン本部を脱出する。
◆2/18 06:00
◇ルイン本部が消滅する。
◆2/19 09:18
◇「ビリオン=レナトゥス」がサイエンネット・タイプ0=ウィルスとサイエンネット・タイプ5=ウィルスの開発を始める。




